第2話:おりょうりのじかん
クロイシスの街には合計で5つの大きな広場があり、その1つがここ、“セルディック広場“である。
赤い屋根の家々が連なり、噴水から吹き上げられた水は、太陽の光を反射して輝く。
噴水の周りに設置されたベンチは恋人たちや家族連れで賑わい、暖かな空気が広場全体を包んでいる。
日用品やファッション関連の店が多く出店しているせいか、普段からカップルやファミリー層の姿が多かった。
「ふぅ……とりあえず、ここなら大丈夫そうですね。さっきの道と違って狭くないですし」
女性はほっと肩を撫で下ろし、いつのまにか手を繋いでいた少女へと顔を向ける。
少女はこくこくと頷くと、真っ直ぐに女性を見返した。
「あー、まあ、確かに通行の邪魔にはならねーんだけどよ」
少年はどこか腑に落ちない様子で頭を掻き、周りを見渡して口を尖らせる。
周囲の人々はにこやかに笑いながら過ごしているものの、目の前に女性達の姿を認めると、引きつった笑顔のまま遠ざかっていった。
「俺たち明らかに、浮いてね? てかねーちゃんが目立ちすぎなんじゃねーの」
「う。それは……否定できません」
女性はがっくりと肩を落とすと、少々目立ち気味な自らの服装を鑑みて落ち込む。
けして悪気は無いのだが、この服装にもそれなりに意味があるのだ。
「あっ、しまった。落ち込んでる場合じゃないんでした。お2人のご両親を、早く見つけないと」
女性はすっくと立ち上がると、両手を軽く握って空を見上げる。
決意の籠ったその横顔を、少年たちはぼうっと見上げていた。
「えっと、お2人の名前はなんて言うんですか? 魔術協会の支部に掛け合ってみれば、ご両親が見つかるかもしれないですし」
女性は両手を合わせると、のんびりとした笑顔で言葉を紡ぐ。
少女は少しだけ女性との距離を縮めると、スカートの裾をくいくいと引っ張った。
「あ、はい。お名前を教えて頂けるんですか?」
女性は膝を折ってその場にしゃがみこむと、少女に対して耳を傾ける。
少女は小さな手の平を筒のようにすると、女性の耳元へと口を近づけた。
「あの、ね。わたし、リセ。リセって、なまえ」
「……っ」
少女はか細く消え入りそうな声で、たどたどしくも言葉を紡ぐ。
美しいその声に体が浮き上がるような浮遊感を覚えながらも、女性は小さく息を吐くと、気を取り直して少女へと向き直った。
「教えてくれてありがとう、リセさん。とてもいいお名前ですね」
女性はリセの頭を優しく撫でると、柔らかに微笑む。
リセはくすぐったそうに笑いながら背中の羽をぱたぱたと動かし、再び女性へと抱きついた。
そんなリセを再び抱きかかえる女性。そんな女性に対し、今度は少年が声を響かせた。
「じゃ、俺の番だな! 俺の名前は、レウスだ! どうだ、かっこいーだろー!」
レウスはえっへんと胸を張り、勢いよく鼻息を吹き出す。
女性はレウスの名前を頭の中で反芻させ、嬉しそうに微笑んだ。
「レウスくん、ですか。ええ、とってもかっこいいです」
女性はレウスの方を向きながら、心からの言葉を伝える。
そう、とても格好いい。そして何より、少年に似合っていると思えた。
「そーだろそーだろ、格好いいだろ! あっはっはっはっはっは!」
「単純バカ」
「あ、あはははは……」
リセは調子に乗るレウスを冷ややかに見つめ、遠慮の無い言葉をぶつける。
女性は大粒の汗を流しながら、苦笑いを浮かべていた。
「あ、そーだ。ねーちゃんってさ、その目見えてねーのか? なんか見えてるようにも見えるけど、見えてねーようにも見える。あーなんかわけわかんなくなってきた!」
レウスはまとまっていない自分自身の言葉に苛立ち、頭を掻きむしる。
女性は顎の下に指を当てて少し考え込むような仕草を見せると、やがて返事を返した。
「うーん、一言で説明するのは難しいですが……とりあえず目は、見えてないですよ。ただ人の位置はわかる、というか……」
女性はレウスと同じく頭を抱えながら、どう説明したものかと思い悩む。
リセはこくこくと頷きながら、レウスは耳の穴を小指でほじりながら女性の言葉を受け取った。
「はーん……ま、いいや。よーするに、目は見えないけどふつーに歩けたりはするってことだろ?」
レウスは頭の後ろで手を組むと、大して興味もなさそうに言葉を紡ぐ。
リセは不真面目な様子のレウスを横目で睨みながら、女性へと向き直った。
「その、目隠し。かっこ、いい……」
リセは女性に抱きかかえられた状態のまま至近距離で女性の目隠しを見つめ、小さな手で目隠しの表面をなぞる。
魔術的な文様の掘り込まれたその黒い目隠しに、少女の白い手が良く映えていた。
「えぅ!? あ、ありがとうございます。とは言っても私、自分でどんな目隠しか知らないんですけどね」
女性は少し困ったように笑いながら、リセの頭を柔らかに撫でる。
暖かな手の感触にリセは目を細めて微笑むと再びぱたぱたと羽を動かし、女性を抱きしめる力をさらに強めた。
「あのさー! なんでもいーけど腹減ったな! ねーちゃんなんか作って!」
「ええっ!?」
唐突過ぎるレウスからの申し出に、困惑した表情で答える女性。
迷子を預かっている今の状況で、まさか料理を作れと言われるとは思っていなかった。
とはいえ、相手は腹を空かせている子ども。こんな状況では、無下に断ることもできない。
「うーん、わかりました! 作りましょう。ただし、味は保障できないですよ?」
女性はレウスのいる方向に顔を向けると、悪戯に微笑む。
そんな女性の笑顔を見ると、レウスも同じように白い歯を見せて笑った。
「上等! もとから味なんて期待してねぇもん! そうと決まれば食材買いに行こうぜ!」
レウスは突然踵を返すと、広場の隅に並んでいる商店へと駆け出していく。
女性はレウスの言葉を聞くと、不満に頬を膨らませた。
「あっ!? もうっ、ひどいですよ!」
確かに自分の外見やドジな挙動を見る限り、料理の腕を期待しろというのが無理なのかもしれない。しかしああもはっきり言い切られると、自尊心を傷つけられるのも事実だ。
がっくりと肩を落とす女性の胸元から突然、何かに引っ張られるような感覚が走る。
女性はそれがリセの手によるものだとわかると、無言のままリセの顔に耳を寄せた。
「あの、ね。おねえさんのりょうり、たのしみに、してる……」
「あぅ」
期待に胸膨らませた少女の、弾むような声。
かつてないプレッシャーが、女性の胸の中に渦巻いていた。
『うう、自信ないなぁ。しかし逃げるわけにもいかない……ですよね』
女性はもう一度肩を落とすと、おぼつかない足取りでレウスの後ろを追いかけていく。
そんな女性の姿に疑問符を浮かべたリセは、小さく首をかしげた。
「ねーちゃんねーちゃん! にく買おうぜにく! あとそうだな……にく買おーぜ!」
「まさかの肉オンリー!?」
レウスは食料品店の前に立つと滝のようなよだれを垂らしながら、店頭の肉を指差して女性へと声をかける。
女性はそんなレウスに即座にツッコミを入れると、店頭に並ぶ商品から献立を考えた。
「えっと……レウスくん。何か食べたいものは―――肉ですね、わかりました」
女性はレウスへ何が食べたいか尋ねようと顔を向けるが、レウスは店頭の肉に釘付け状態でこちらの声など聞いていない。
諦めた女性は少し声を小さくして、リセへと話しかけた。
「リセさんは、いかがですか? 何か食べたいものとか、もしくは嫌いな食べ物とかありませんか?」
女性は胸元から自分を見上げるリセに向かって、小さな声で言葉を紡ぐ。
リセは「ん……」と小さく呟くと、何かを考えるように目線を左右に動かし、やがて返事を返した。
「とくに、ない。おねーさんの作りやすいもので、いい」
「あぅ。気を使わせちゃってすみません」
女性は申し訳なさそうに頭を下げ、先ほどよりも大きく肩を落とす。
まさか“作りやすいものでいい”とまで言われるとは思っていなかった。
そもそもこんな小さな子に気を使わせてしまったというのは、精神的にくるものがある。
「えっと、そうですね。じゃあレウスくん、カレーライスなんていかがですか?」
「おっ、まじで!? やった! おれカレーライス大好き!」
レウスは大げさにガッツポーズを取り、嬉しそうにジャンプを繰り返す。
女性はそんなレウスの様子にほっと胸を撫で下ろすと、胸元のリセへ言葉を続けた。
「リセさんも、それで―――よさそうですね」
リセは豊満な女性の胸元に半分顔を隠しながらもキラキラとした瞳で女性を見上げ、服を掴む力を強める。
その様子を見た女性は柔らかに微笑み、再び肩を撫で下ろした。
「あ、そうだねーちゃん! にく入れてよにく! じゃなきゃ始まんねーもん!」
レウスは店頭に並べられた肉を指差し、引き続き滝のような涎を垂らしながら肉をねだる。
女性は顎の下に指を当てて口角を上げて微笑むと、「んー」と声を漏らし、頭の中にあるレシピを整理した。
「では、カレーライスの中にハンバーグを入れるというのはどうでしょう?」
「「っ!?」」
女性の提案を聞いたレウスとリセは驚きに目を丸くし、女性の顔を見上げる。
やがてレウスは、飛び跳ねながら言葉を発した。
「マジかよねーちゃん! 今日カレーライスとハンバーグ、ダブルか!? ダブルの日なのか!? ひゃっほー!」
「……っ!」
レウスは驚異的なジャンプ力で女性の目線の高さまで飛び上がって喜び、リセは先ほどよりさらにキラキラとした瞳で女性を見上げて背中の羽をぱたぱたと動かす。
女性は2人の喜んだ様子を感じ取ると、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ……よかった。じゃあ材料を買って、作り始めましょうか」
女性は料理に必要な材料を店主に伝え、店主は言われた材料を全て一つの紙袋に入れていく。
盲目の女性が子ども(しかも角と羽付き)と一緒に買い物というのは不思議な光景ではあったが、お客様あっての商売。深く追求はせず、店主は言われたままのものを揃えて御代を女性から頂いた。
「さて、と。じゃあ炊事場に行きましょうか」
女性はリセを下ろすと、紙袋を両手に抱えて炊事場の方へと歩みを進める。
地面に下ろされたリセは女性の服の裾を握り、とことこと隣を歩いた。
クロイシスの街には多くの旅人が訪れるため、街が設置した公共の炊事場が存在する。
本来は旅支度をする旅人や商人がここで食料の加工(干し肉や燻製肉の作成等)を行っていくのだが、いつのまにか食費を安く上げたい旅人が料理の材料だけを買い、調理してその場で食べるようになった。
そうした経緯があり、炊事場の周りは今日も多くの旅人たちで賑わっている。
そんな炊事場の一角を確保した女性は紙袋から食材を出し、着々と準備を進めていった。
「えっと、まずは下ごしらえをして、スパイスは……」
女性は炊事場の一角を使い、淡々と料理を進めていく。
しかし料理の下準備を始めた頃、自分のスカートが下から引っ張られていることに気付いた。
その力の方向に顔を向けると、リセが何かを言いたそうな表情で女性を見上げている。
「ん、リセさん? どうかしましたか?」
女性は材料を切っていた手を休めて膝を折り、目線の高さをリセに合わせると首を傾げながら話しかける。
リセはぐーっと上半身を伸ばして女性の耳元に近づくと、消え入りそうな細い声で返事を返した。
「わたし、も、お手伝い、する」
「えっ!?」
女性は思ってもみない提案に驚き、思わず大きな声を出す。
その後残っている作業を思い浮かべ、目の前のリセに任せられるものはあるか思案を巡らせた。
まさか包丁を使わせるわけにはいかないし、皮むき機であっても怪我をしてしまう可能性は否めない。
かといってこの炊事場は薪を使った原始的な構造であるから、火の番など頼めるはずもなかった。
「うーん、そうですね。じゃあリセさんには、食器洗いをお願いできますか? 共用の食器ですから、使う前に洗っておく必要があるんです」
女性は微笑みながら、リセへとお手伝いの内容を伝える。共用の食器は割れない材料で作られているから、手を切ったり火傷したりする危険はないし、作業自体も幾分単純だ。
3人分の食器ならそれほど量もなく、子どもでも十分皿洗いをこなせるだろう。
「ん、わかっ、た」
リセは頬を少しだけ赤く染め、嬉しそうに頷く。
女性はそんなリセの仕草が可愛らしく、同じように微笑みながらその金色の髪をそっと撫でた。
「さてと、じゃあ始めましょうか。早くしないとレウス君も、お腹を空かせていますし……ん?」
再び料理を再開しようと調理台に向かった女性だったが、自分の手元が微かに揺れていることに気付く。
その正体を探ろうと意識を集中させると、揺れの元は足下の床板から来ており、床板が揺れているせいで自分の手元まで揺れていたのだ。
そしてその揺れの正体は、案外近くに存在していた。
「……っ! ……っ!」
リセは高い位置にある調理台に置かれた皿を取ろうと精一杯背伸びをし、爪先立ちになった小さな両足がぷるぷると震えている。
その震えた両足に連動し、カタカタと揺れる床板。
リセは口を一文字に固く結び、頬を膨らませてぱたぱたと羽をばたつかせながら、何とか皿を取ろうと背伸びを続けていた。
女性はそんなリセの姿を確認すると、口元に手を当てて漏れそうになった声を懸命に抑える。
「かわい……っ!? あ、いやいや、そうじゃなくて!」
思わず抱きしめそうになった自分自身を大きな声で戒め、冷静な思考を取り戻す。
もし仮に今自分がお皿を取ってあげたとしても、炊事場と同じ高さにある水場でそれを洗うなど、リセにとっては夢のまた夢だろう。
「う……」
リセは皿が取れなかったことが悔しいのか、女性の手伝いができないことが悲しいのかわからないが、目尻に溜まった涙は今にも零れてしまいそうだ。
女性はその雰囲気を察すると両手をわたわたと動かし、言葉を紡いだ。
「あっ……そ、そうだ! リセさんにはやっぱり、私たち3人が座る席の席取りをお願いします! 食事が出来ても座る場所がなきゃ、食べられないですし!」
女性はぽんっと両手を合わせ、引きつった笑顔で言葉を紡ぐ。
料理とは直接関係無いが、席取りだって立派な仕事だ。たとえ料理が出来ても、食べる場所がなければどうしようもない。
「せき、取り?」
リセは目尻に小さな涙の粒を溜め、女性を見上げる。
女性は膝を折ってリセと目線の高さを合わせると、柔らかな手つきでその頭を撫でた。
「はい。席取りです。あそこにテーブルと椅子がありますから、私たち3人が食事できる場所を作っておいていただけますか?」
女性は広場の隅に置かれていた小さなテーブルと椅子を手の平で指し示し、リセへと言葉を紡ぐ。
リセは机と椅子を見ると、小さく頷いた。
「わかっ、た。わたし、やる……」
リセは無表情のまま両手を握りこみ、心なしか目元に力が入っているように見える。
女性の代替案が良かったかどうかは別として、どうやら納得してくれたようだ。
納得したリセの様子にほっと胸を撫で下ろす女性と、さっそく椅子や机の並んだ場所へと駆け出していくリセ。
女性は再び料理に戻ると、大事なことを言い忘れていたことを思い出し、リセの方へと顔を向けた。
「あ、そうだリセさん。1人じゃ大変でしょうから、レウスくんと協力してくださいね」
机も椅子もそれほど重い物ではないが、小さな女の子1人で食卓を準備するのは少しつらいだろう。
その点活発で運動神経もよさそうなレウスが手伝ってくれれば、自分としても安心できる。
「ん、わかった」
リセは女性の言葉にこくんと頷き、近くにいたレウスへと近づいていく。
やがてそんなレウスの肩をリセが叩いたところまで見守ると、女性は再び作業に戻った。
「ふう。じゃあ私は、お料理頑張らなくちゃ―――」
『ん? なんだよリセ。これ運ぶのか? ほら、よ!』
女性が調理台へと視線を戻し、包丁を手に取ったその瞬間。何かが地面にぶつかるような轟音が響き、その大きな音に驚いた女性はぴくんと肩をいからせる。
リセは目の前の状況を確認すると、再び女性へと近づいていった。
「レウスが、つくえ、こわした」
「ええっ!?」
「あってめ、リセ! チクんなよ!」
レウスは勢い余って机を石畳の床に叩きつけてしまい、4脚のうちの1つが外れてしまった机をなんとか自分で直そうと奮闘している。
女性は慌ててレウスへと近づくと、膝を折って目線を合わせた。
そんな女性を見たレウスは怒られると思ったのか、思わず女性に対して身構え、表情を強張らせた。
「レウスくん、大丈夫ですか!? 怪我はありませんか!?」
女性は眉をハの字にしながらレウスに触れ、膝や腕などに怪我をしていないか確かめる。
レウスは予想だにしないそんな女性の行動に驚き、声を失った。
「よかった……怪我はないみたいですね。あ、机は壊れてますが、脚を付け直せば大丈夫だと思いますよ」
女性は机の板に再び脚を付け直し、ゆっくりと机を石畳に置き直す。
多少グラついてはいるが、とりあえず机としての機能は失っていないようだ。
「え、あ……」
普段母親から散々怒鳴られているレウスにとって、女性の行動は完全に想定外。そんな状況に動揺し、言葉に詰まる。
女性はそんなレウスの様子に疑問符を浮かべ、不思議そうに首をかしげた。
「レウスくん、どうかしましたか? もしかして、どこか怪我でも……」
「!? べっ、別に、大丈夫だよ。そんな机くらい、なんでもねーし」
再び伸ばされた女性の手をかわすと、レウスはどこか恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
女性は不安そうに眉をひそめると、再びその右手をレウスへと伸ばした。
「っ!?」
「えっと……うん、大丈夫。やっぱり怪我はなさそうですね」
女性はレウスの手や顔に触れて怪我が無いことを確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。
レウスは自らの体に触れる、少しひんやりとした柔らかな手の平に一瞬呼吸を忘れた。
「だ、だから大丈夫だって! いいからねーちゃんは料理作ってくれよ!」
レウスは女性から顔を背け、少し大きめの声を響かせる。
女性はやんわりと微笑むと、レウスの頭を撫でて立ち上がった。
「ふふっ、ごめんなさい。じゃあ、すぐに作っちゃいますね。リセさん、机の上を拭いておいて頂けますか?」
女性は踵を返し、リセにお手伝いを頼むとそのまま調理台へと歩いていく。
レウスはその小さな両手を握り締め、消え入りそうな小さな声で言葉を紡いだ。
「ごめんなさい……」
レウスのその小さな声が聞こえたのか、女性はゆっくりとレウスへ振り返って苦笑いを浮かべる。
そのまま屈んでレウスと目線の高さを合わせると、微笑みながら言葉を紡いだ。
「レウスくん。リセさんのお手伝い、お願いできますか? あの机大きいですから、1人じゃ大変です」
女性は再びレウスの頭を撫で、どこか嬉しそうに言葉を紡ぐ。
少し暖かくなったレウスの体温を感じると、女性は胸の中にくすぐったいような暖かな何かを感じ、自然と笑みがこぼれた。
「っ!? お、おう! まかせろ!」
レウスは女性の笑顔を見ると嬉しそうにガッツポーズを取り、リセの元へと駆け出していく。
元気を取り戻したレウスの様子に満足した女性は小さく頷くと、やがて立ち上がり踵を返した。
「さて、と。私も頑張りますか!」
女性はふんすと鼻息を荒くふき出すとローブの袖をまくり、調理台の包丁へと手をつける。
その後も波乱続きのクッキングは続き、メインとなる料理が並んだのはそれから2時間も後のことだった。




