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文章量が短いですが、切りが悪いので切らせていただきました。他、リザードマンのマチルダや、作者が忘れていたキャラクターの描写を、後で追加しときます。
「なぜ! なぜ! 貴様がここにいるんだぁ!!」
腕を押さえて喚く黒い騎士。
「クー、あいつの相手を任せてもいいか?」
『いいで! 今はマサトのスキルが上がって大量の魔力が流れてくる! 絶好調や!』
ぴょんぴょん跳ねるクー。この調子なら少し任せても大丈夫だな。
俺は倒れた仲間を見る。みんなは大丈夫なのか? まさか死んでないだろうな? 俺は廃墟と化したドックを見回す。
エルザやザイツ、ヴィーヴルが倒れている。抉れた地面に吹き飛んだドック。かろうじて飛空艇は無傷だが、他にも仲間は怪我をしているかもしれない。
俺の軽率な行動が、大惨事を招いてしまった。俺は胸が締め付けられる。
俺はすぐにエルザに駆け寄ろうとするが、足元近くの泥の中にうごめいているものを見つけた。
まさかと思い泥をかき分けると、スカベンジャースライムのスカーがグズグズになっていた。
スクランブルエッグみたいにぐちゃぐちゃになってしまっている。
「きゅるる……」
「スカー!!!!」
なんということだ。
俺はすぐさまスカーを抱き上げ、携帯用のポーションを取り出す。
ポーションボトルのふたを親指で吹き飛ばす。
スカー死ぬな! 俺は助かってくれと、願いを込めてポーションをふりかけた。
少しして、ぐちゃぐちゃのスカーは丸い形を取り戻し始める。
「きゅるる……」
力なく、声を上げるスカー。なんとか一命は取り留めたらしい。
「カナル、すぐにエルザやザイツ達の治療をしてくれ。治療なら、セイントスライムがいるはずだ。多分飛空艇の中だろう。あの子を連れてきた方がいいかもしれない。あと、スカーを頼むぞ」
俺は抱いたスカーを手渡す。
「分かりました。まずは手持ちのポーションをすべて使い、応急処置をしたのち、セイントスライムを連れてきます」
俺は頷く。カナルは駆け出した。
「ぶーは俺とクーと一緒に、奴を倒すぞ」
「ぶぅ!!」
力強いぶーの声。ぶーからは、かつてないほどの怒りと魔力を感じる。
再び黒い騎士、いやゲインのクソ野郎に視線を移すと、クーが戦っているのが見えた。影魔法と闇魔法、さらには暗黒魔法の合わせ技でゲインをボコボコにするクー。数秒先の未来予測など、今のクーには全くの無意味。避ける隙さえ与えない、広域攻撃。
『ウチの最大魔法が連発できるやなんて、さいっこうに爽快や!! ウララララ!!』
「くそ! くそ! なぜここまでの大魔法を連発できる! シャドウスライムの内包魔力は少ないはずだぞ!」
魔法を無詠唱で連発するクー。俺から大量の魔力供給を受けているのか、ガンガン魔法をぶっ放している。
俺と言えば、さして体に異変はない。少しだるいかな? くらいである。スキル魔力操作極限は伊達ではないらしい。
「クー、俺がやる。奴とは俺が決着をつける。フォローがあれば頼む。ぶーもな」
「くー!」
「ぶー!」
俺は新たに得た魔力操作と、空隙の探索者に魔力を込める。
「貴様ぁ! なぜここにいる! なぜだ! それにシャドウスライムのこの力はなんなんだ!」
パニックになっているのか、刀をめちゃくちゃに振り回している。貧者の一刀も持っているし、真っ黒い鎧で体を隠しているが、やっぱりゲインで間違いないようだ。
「それはこっちのセリフだ。いろいろ聞きたいことがあるが、とりあえず殴らせろ」
「ふざけるな! 空隙の探索者よ!j
ゲインは俺を転移させるつもりのようだが、無駄である。
俺の手には本物がある。本物の空隙の探索者が。俺は微量の魔力でゲインの転移を防いだ。
ガラスが砕けたような音が響き、魔法がキャンセルされる。
「ば、ばかな……。なぜ貴様がそれを」
ゲインが信じられないような目で俺を見てくる。
俺は空隙の探索者を使用し、短距離移動。空間を飛び越えて、ゲインの背後に回り込む。回り込んだと同時にパンチをお見舞いする。
ゲインは錐もみ状態で地面に激突。衝撃で地面が抉れ、隕石跡のような状態になる。
「ぐはぁあ!!!」
俺の魔力を纏った拳は、まさに鎧袖一触。
ゲインの鎧は一撃で砕け、大量の血を吐いた。腕や足もあらぬ方向に曲がっている。拳の衝撃波が全身を砕いたようだ。
ゲインは地面に仰向けに倒れ、俺を見る。
「一体、……貴様はなんだ。なぜ急に貴様のような人間が現れた。私の鑑定スキルでは、こんなことは……。今までは、いなかったはずだ。なぜだ。貴様は、何者だ」
「何者って言われてもな。ただの高額当選者だ」
「ふざけるな……」
ゲインは諦めたような瞳をする。
「理不尽ついでに言っとく。お前の主、クライブだが、帝国に捕まったぞ。メイドのマリアさんが姫様を回復させたんでね」
目を見開いて驚くゲイン。
「“本物の”空隙の探索者で、城に行ったのですか? しかもアルティシア姫を助けているとは。ふあはは。マサト、貴方は、化け物ですか? おとぎ話の初代皇帝よりも理不尽だ」
力なく笑うゲイン。諦めたのか? 悪いけど、俺の虫の居所は収まってないぜ。
「知らんが、もう一発行かせてもらうぞ。俺の気が済まんのでな」
俺は倒れたゲインにとどめの一撃を喰らわせようとするが、奴の体が黒い水に飲み込まれる。
「な! なんだ!?」
ゲインの周りに黒い水が染み出てくる。明らかに危険な水だ。瘴気を発している。
『マサト! 離れるんや! それは冥界の呼び水っちゅう、神級魔法や!』
なんだそれは。聞いたこともないぞ。
「カオス様がお呼びのようだ。私はお役御免のようです。では、さらばですマサト」
なんだと? ゲインを包むこの黒い水はなんだ?
俺はゲインに攻撃を仕掛けようとするが、クーに止められる。触れると危険な水らしい。
ぶーが触れないと分かると、重力魔法を発動させる。ゲインの周りに、局所的に数十倍の重力が発生する。それでも黒い水に包まれたゲインには効果がない。
「ぶぅ……」
「グラビトンスライムですか。なぜあなたのような存在がここにいるのか。完全に私のミスでしたよ。すごいスライムたちですよ。まったく」
敵に賞賛を送るゲイン。
「マサト。私は貴方の奴隷たちが羨ましい。私も貴……」
ゲインは喋っている途中で、黒い水の塊になってしまう。その後黒い水は真っ黒い霧となって霧散した。
ちくしょう。ゲインを取り逃がした。仲間をここまで痛めつけられているのに、ゲインを捕まえられなかった。俺はやっぱり最後まで詰めが甘いらしい。最初からぶーの重力魔法で拘束しておけばよかった。俺が怒りのままに殴りつける必要はなかったんだ。
「くそったれ……」
何もかも消化不良で、この戦いは決着を迎えた。
後日、俺は城に呼び出しをくらった。ちなみに、魔牛のアイリちゃんは城の牛舎で一人さびしく俺を待っていた。ごめんよアイリたん。




