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説明回です。
「ぶぅぶぅ!!」
「うにゅにゅにゅ」
「ぶぅぶぶうう!」
「うにょにゅにゅにょ」
ぶぅぶぅ鳴くのは、灰色のスライムのぶー。
うにゅうにゅ鳴くのは、ピンク色のスライム、エレン。
彼? 彼女? ぶーとエレンは触手を絡ませて何やら会話している。
時折両者の触手が光ることから、なにかしらの情報を交換しているみたいである。
カナルは触手を絡ませるぶーとエレンをじーっと見ている。しゃがみ込んで、ヨダレを垂らして見ている。
「グヘヘヘ。なんて可愛いんでしょう? この子たち」
カナルは涎を垂らし、今にもスライムたちに飛びかからん勢いだ。
「このピンク色のスライムがエレンさんだなんて信じられません」
うむ。それは俺も思った。
彼女は話が終わると突然、スライムになったのだ。ピンク色のスライムに。
スライムになると、「うにゅうにゅ」言って、ぶーと喋り出した。もちろん、何を言っているかさっぱりわからない。
「あ~、この子たち私のベッドに持って帰りたい」
「ぶぅぶぅ」
「うにょにょ」
俺もカナルに毒されたか、その可愛さは理解できる。だってピンクなんだもん。
スライムがピンクなんだぜ? 可愛いに決まっている。俺もカナルに混ざって、スライムたちをじーっと見始めた。
ぐへへへ。
俺とカナルは一緒に涎を垂らし始めた。
スライムって癒されるね~。
そんな俺らにマリアさんは呆れたのか、冷たい目でこっちを見ていた。
★★★
話は戻るが、エレンさんは突然俺たちの前に現れた。飯を食べ終わったのを見計らい、突然現れたのだ。
敬虔なシスターの格好をしている彼女。容姿も弩がつくほどの美人。妙齢で、妖艶。口元のホクロがエロティックである。
体も爆裂ムッチリ熟女(意味不明)である。シスターというより、完全に娼婦である。
彼女は俺たちのテーブルに椅子を持ってきて座ると、語り出した。
名前はエレン・ツェッペリン。帝国最大の宗教、アヒンサー教のシスターである。
彼女は七大ダンジョン“ガイア”のダンジョンマスターだった。
聞けば彼女は、勇者ツェッペリンの従魔とのこと。ツェッペリンは、初代皇帝ノアの親友。英雄の船団の主人公だ。
他にも初代皇帝には6人の仲間がいる。6人全員がおとぎ話の英雄となるほど、有名である。その英雄王に仕えた英雄の一人が、アドミラル・ツェッペリンである。
彼女、「ガイアスライム」のエレンはツェッペリンの従魔である。
実質、スライム種最強の彼女。ダンジョンコアをツェッペリンから譲り受け、数百年もダンジョンマスターをしている。
七大ダンジョン、ガイアの主として。
地底王だなんだと尾ひれがついてしまったが、ガイアの主はエレンである。可愛い、スライムだったのである。
彼女は俺たちにひとしきり話すと、ぶーから情報を得ると言って、トランスフォーム。
ガシャコンガシャコンと機械的に変身するかと思いきや。人間形態から突然ゼリー状に変化し、丸いスライムに早変わり。
その後はぶーと触手を絡ませ、息子と母親? のコミュニケーションを取っている。
「ぶぅぶぅ」
「うにゅうにゅ」
うーむ。二匹のスライムが触手を絡ませあっている。特に何が起こるわけでもない。俺たちはそれをじっと見ている。
「うにゅにょにょ」
あ~、平和だなぁ。
そういえばすっかり存在を忘れてしまっていたが、シャドウスライムのクーのことだ。
クーは俺たちがエレンさんと話している時も、ずっと飯を食い続けていた。ここぞとばかりに貯め食いをしていた。どうやら厨房の方に何度もおかわりをしていたらしく、皿が山のように積まれている。
気づけばクーは丸々と太ったスライムになっていた。子供の頭位に大きくなっている。持ってみると、ずっしり重い。
『いやー喰った喰った』
触手で体をさするクー。
そんなクーを見て、俺は無言になる。
クーには食事制限をするべきかな? このままいくとデブデブなスライムになるかもしれないな。
★★★
エレンさんはぶーとの情報交換が終わったのか、人間形態に戻った。ゆっくりと歩くと、再び食堂の椅子に腰を下ろす。俺たちも席に戻ると、エレンさんの話を聞いた。
「事情はなんとなく分かりました。ゲインという男も、大体見当がつきました」
え? 見当がついた? もう分かったのか? 一体ぶーと何を話したんだ?
「あれは、ダンジョンマスターの眷属でしょう。あれだけのアーティファクトを所持していることから、ダンジョンマスターと繋がってるはずです。何らかの事情があって、クライブとやらの騎士をやっていると見ました」
ダンジョンマスターの眷属? 奴には黒幕がいるのか?
「持っているアーティファクトから言って、ダンジョンマスター、カオスの眷属ですね」
おいおいそんなにわかるのか? どんな証拠や理由があってそこまで断定出来るんだ。やっぱり長年の経験か?
「ゲインという男が持っていたのは、貧者の一刀。数秒先の未来予知が可能になる刀です。あれはカオスが持っていたアーティファクトです。ゲインが奪ったとは考えにくい。ならば与えられたと考えるのが妥当」
未来予知!? なんだそのふざけた性能は! 俺の攻撃を余裕で避けたのも、それが原因か?
「他にも私が作り上げた“空隙の探索者”や、装着していた鎧もアーティファクトです。ぶーから得た情報を見るに、首輪や指輪、マントもすべてアーティファクト。ゲインという男が強いのもそうですが、あれだけアーティファクトで固められたら、いくらあなたでも勝てませんね」
アーティファクトは神の遺物と聞く。神の力をほんの一部だけ行使できるアイテムだ。ほんの一部と言っても、災害を発生させるような巨大な力を持っている。素手で立ち向かうには、いくらレベル差があっても無謀だ。
「でも、あなたの強運はすごいですね。飛ばされてきた先が、このガイアなのですから。カオスのダンジョンに送られなかったのは本当に強運ですよ。まぁ、空隙の探索者は私が造ったので、もしかしたら反作用が起こったのかもしれません」
「反作用?」
「私とカオスのダンジョンコアは相性が悪く、磁石のように反発しあうのです、私が造ったので、カオスのダンジョンには送り込めなかったのかも」
「そうなのですか。ではなぜ奴に貴方のアーティファクトが?」
「あれは大量生産の欠陥品です。私が戦争時代に急造で造った品です。大量に出回ったので、世界中にあるのです。それにあれは大量の魔力を使用しますし、場所の指定はおおざっぱ。まともなアーティファクトと呼べません。本当の完成品は、ここにあります」
エレンさんは言うと、何も持っていなかった手から、突然腕輪を出した。金ピカの腕輪だ。
「これが完成した空隙の探索者です。空間魔法を2等級まで使用可能になります。今回は、特別に貴方に授けましょう貴方が帝都に帰るのに必要でしょうしね。もし貴方が魔大陸から海を渡って帰るなら、話は別ですけど」
いや、そんな暇はありません。一刻も早く帰りたいです。
「どうですか? 欲しいですか?」
欲しいです! タダでくれるならもらいましょう! ありがとうございます!
俺は腕輪に触ろうとしたが、ひょいっとエレンさんに持って行かれる。
「ただし、条件があります」
条件。来たか。交渉は苦手なんだよな。
「アヒンサー教に入信しなさい」
えええええ? 宗教の勧誘かよ。すげぇ萎える。
「ここから無事に帰りたいでしょう? それとも私に殺されたいですか?」
殺されたいですか? その言葉に、室内の温度が急激に下がる。突然である。
「仮にも息子であるグラビトンスライムの母親です。情はあります。ですが、貴方達にはない。ましてやカオスの因子を持つシャドウスライムなど、生かしては帰せない」
その言葉にクーは、今まで食べていたものを吐き出しそうになる。怖すぎてゲロを吐きそうになる、アレだ。
「貴方は無謀な人間ですか? 私とは戦いたくないでしょう?」
やべぇ。忘れてた。この人、ダンジョンマスターだった。本来なら、敵に位置する人だった。
「貴方は新米のダンジョンマスター。ダンジョンコアのクローンではありますが、貴方も立派なマスターです。生まれたての子を殺すのは吝かではありません」
俺はごくりとツバを飲み込む。エレンさんの魔力を感じて分かったが、彼女は桁違いだ。俺のレベルが600ほどとするなら、彼女のレベルは俺の数十倍はある。リッチですらレベル1000はあったのだ。多分エレンさんは、10000近いかもしれない。
アーティファクトを作るくらいだ。きっと亜神の領域だろう。
「別に入信したからと言って、私の眷属や奴隷になるわけではありません。ただ、信者としてアヒンサー教を世に広めてください」
うわぁ。無理な宗教勧誘は友達を減らしますよ!
「アヒンサー教はとても緩い宗教ですので、毎日祈れとか、供え物をしろとかは言いません。ただ、時々、思い出してほしいのです。教会の開祖にして我が主、アドミラル・ツェッペリンを」
彼女の瞳は少し悲しげだった。なんとなく、俺は察した。エレンさんはツェッペリンが好きだったのかも。
「死にたいなら、かかってきなさい。帰りたいなら、入信しなさい」
完全に強制じゃねぇか。選択肢は一つだけ!
「入信します」
「よろしい。空隙の探索者を授けます」
俺はエレンさんに頭を下げ、アヒンサー教に正式入信した。
体に烙印を刻む、マジモンの入信である。俺は焼きごてでジュッとされた。マジ痛かった。
★★★
俺たちは旗艦アドミラル・ツェッペリンにある、教会に案内された。ぞろぞろと、俺を先頭に教会に入る。
教会には巨大なパイプオルガンがあり、天井には見事なステンドグラスが貼り付けてあった。飛空艇の中に教会とは、またおつなものだ。俺も作ろうかな? スペースないけど。
マリアさんはそんな教会の光景に目を輝かせていた。
「素晴らしい」
マリアさんはパイプオルガンにくぎ付けだ。弾きたいのか?
「先ほどの烙印で、入信は済みました。特にあなたにリスクなどはありませんが、私の信者です。節度を守った行動をしなさい。特に、女遊びは止めなさい。あの人はいつも女遊びをして、いろんなシスターに手を付けていたのです。そのたびに私がボコボコにしたのですが」
それは開祖、ツェッペリンのことか? 英雄色を好むと言うしな。皇帝の親友なのも頷けるな。
「一人だけに絞れとは、言いません。ノアもそうでしたし。ただ、女を泣かせることだけは止めなさい」
「わ、分かりました」
俺は深く頭を下げる。
「本当、最後には私を一人残して逝ってしまうんですから、ひどい人です」
エレンさんが悲しそうに言う。やはり寿命の違いか。ツェッペリンの種族はよく分からないが、スライムとは寿命が違うのだろう。寂しそうなエレンさんを見ると、カナルは俺の手を握ってきた。
「ん? カナル?」
「マスターは死にませんよね」
いや、死ぬよ? 割と簡単に。
「いつまでも元気でいてください」
エレンさんはカナルの言葉に優しく微笑む。
「最後に、貴方にもう一つだけ授けます。ぶーでしたか? 私の息子の名前は。その子の面倒を見ていただいたお礼を授けます」
お? まだくれんのか?
「貴方には、才能がありません。凡人そのものです」
その言葉に、グサッと来た。
「レベルが高ければ確かに負けません。竜ですら倒すでしょう。ですが、からめ手で来られたら、負けます。今回のゲインのように。私ほどレベル差があれば別ですが、貴方は違う。まだまだ弱い。なので、一つスキルを授けます」
授ける? そんなことが出来るのか? 才能ってのは、生まれ持った物だろ?
「スキルオーブという、本物の神のアーティファクトがあります。これを授けます。スキルは魔力操作。これであなたの眠っている魔力を解放できる」
おお! すげぇ! これで魔法が使えるのか!
「い、いいのですか? そんな大事な物を?」
「大事ではありません。いらないから上げるだけです。うちの子たちは全員魔力操作が上手いですし、オーブの力を使う必要ないのです。むしろダンジョンポイントの報酬として、神様からたくさんもらっています。過剰在庫なんです」
なんだそりゃ? 過剰在庫? そんなことがあっていいのか?
「手を出しなさい」
俺は教会のステンドグラスに照らされつつ、エレンさんに手を差し出す。
するとエレンさんは小さな石を俺の手のひらに乗せた。ひんやりしており、何か力を感じる。
エレンさんが何か呪文を呟くと、手の平の石は俺の体に吸収されてなくなった。
なんなのだ? 俺は手をさすっていると、そこで来た神の声。
『スキル:魔力操作極限を覚えました。魔力操作を英雄クラスで使用可能です』
脳内に響く謎の声。
「神の声は聞こえましたか? 聞こえたのなら、貴方は魔力操作の天才です。おめでとう」
ぜんぜん、実感ないし、うれしくない感じである。宝くじ当たった時よりひどいかもしれん。
「そろそろ良いでしょう。空隙の探索者を使用し、帰りなさい。ここにはいつでも来れるようにしておきますので」
おいおい。いいのかよ。俺が大軍を率いてきたらどうするつもりだ。
「一つ言っておきます。私を殺したいなら、強い人を一杯連れてきなさい。そうすれば私を倒せます」
は?
「私も、そろそろ彼のもとへ行きたくなってきましたので」
エレンさんはニコリと笑うと、空隙の探索者を遠隔起動させる。
俺とカナル、ぶーとクー。マリアさんは魔方陣の光に包まれる。
「最後に、そこのメイドさん。貴方にも加護を授けました。それであなたの大切な人を救いなさい」
「え? 加護?」
「敬虔な信徒には、私は優しいのです」
エレンさんは手を振ると、俺たちは光に包まれ始める。
「ぶー、私の息子。竜人とその主人を護りなさい。貴方の役目ですよ。シャドウスライムは、死んでもいいですけど」
「ぐぅ!」
クーは悲鳴を上げる。
その後俺たちは、俺たちの“家”に転移した。
ガイアでの出来事は、まるで夢のような時間だった。
時間がなく、修正が全然できていません。
今週の日曜が休日なので、少しずつ修正します。




