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 マサトたちがダンジョンに飛ばされ、一日が経過した。


飛空艇に残ったマサトの仲間たちだが、マサトが帰ってこないことは承知済みだった。


 エルザ達は詳しい内容は知らない。貴族たちのパーティーではあるが、皇族と仕事の話しがあるらしい。もしかしたら、泊りになるかもしれないとも言われていた。その日に帰ってこないのは、居残り組は分かっていたことだった。


 前もって言いつけられていたので、エルザ達居残り組みは、いつも通りに過ごしていたのである。


 なので、一日帰ってこなかったくらいで、不審にはあまり思わなかった。


 彼ら奴隷がマサトから言われていたのは、いつも通りのスケジュールで過ごしてほしいとのことである。


 エルザとミノタウロスたちは日帰りのダンジョン訓練。リザードマン達はエリーシャの指示のもと、飛空艇の整備である。


 ザイツだけはエリーシャに個別で言われ、繭になったダンゴ虫君に魔石を与えていた。牧場部屋の可動式天井を開け、空気を入れ替えるのも忘れない。


 次に牛舎を掃除し、いつでもアイリちゃんが帰ってこれるようにする。最後に飛竜のヴィーに餌を与えて終わりだ。


 ザイツはヴィーを可愛がっており、栄養満点の餌を常に用意している。


 オークの肉を分厚く切り、軽く炙って半生にする。肉汁が垂れてきたら薄味のソースをかける。飛竜のヴィーの口に合うようにする。野菜もヴィーが好む、柔らかめの野菜を用意する。野菜は、ザイツが大量に取ってきた野草だ。全てヴィーだけの為に用意している。


『ヴィー、お前は故郷に帰りたくないのか?』


「グゥオオ」


『そうか、ヴィーの故郷は戦火に散ったか』


「グゥウウオオ」


『俺の故郷も、もうない。まぶたの裏にしか、ない』


 ザイツはマサトの笑顔、仲間の笑顔を思い浮かべる。牧場部屋を、眺める。


 まさか、“第2の故郷”が出来るとは思わなかった。再び、家族が出来るとは思わなかった。


 ザイツは想う。あの方なら、マサト様なら、歪んでしまった帝国の思想を変えられるはずだ。初代皇帝が築いた、始めの帝国に戻ることが可能だと思う。


 誰もが差別なく、貧富の差がなく幸せに生きられる国。きっと、何かやってくれる。今回の皇族のパーティーだって、普通の冒険者なら招かれないはずだ。マサト様だから招かれたのだ。


 ザイツはにやりと笑った。


「王ノタメ、ツヨクナル」


 ザイツは帝国後で喋り、決意を新たにした。


「グゥオオオオ!!」


 ザイツの言葉に、ヴィーが相槌を打つ。


「オマエモ、イッショニ、キテクレルカ」


「グオオオオオ!!」


 ヴィーは大きく羽ばたいた。


「タノムゾ」


 ザイツはヴィーの頭を撫でる。死んでしまった弟のように。


 そこへ。


 爆発音。


 ドッグのどこかから聞こえた。方向からして、ドックの搬入口。皆が外へ出入りする、シャッターがある方だ。


『何事だ!!』


 ザイツはマサトから買ってもらったミスリルの槍を装備する。


『ヴィーはここにいるんだ!』


 ザイツは飛空艇の外、ドックの搬入口に駆け出した。


 飛空艇から出るとき、エリーシとマチルダに会った。


「ザイツ! 敵が来たわ!」


「クロイキシ!」


 黒い騎士? 敵だと? いったい誰だ。襲撃までされるほど、マサト様は恨みを買うようなお方か?


「敵は一人で全身黒づくめ。マントで体を隠してるけど、すごい魔力を感じるわ! 飛空艇の機能でアナライズしたけど、相当数のアーティファクトを所持してるわ!」


 アーティファクトだと。神の遺物を持っているのか。


「エルザはまだ帰ってきてないわ! ミノタウロス達も! 今はゴンとアイが応戦中! グルッドとリンは、ドックの天井門を開けてもらってるわ」


 天井門? 飛空艇を飛ばすのか?


「多分、戦えば殺される。逃げるしかない状況ですわ。ザイツは飛空艇が飛びたてるまで時間稼ぎしてほしいのです! エルザには悪いですが、ここは退くありません!」


「キヲツケテ!」


 マチルダが可愛い応援をしてくれる。マチルダはマサト様が助けた奴隷だ。最初はガリガリだったが、今は元気いっぱいだ。


「出来る!? ザイツ! 今は貴方しかいないんですわ!」


 ザイツは迷わなかった。考えるのは自分の仕事じゃない。エリーシャが言うなら、そうなんだろう。みんなが死ぬのだけは阻止しなければならない。マサト様なら、ドックの崩壊よりも人命を優先させる。きっとそうする。


「ショウチシタ!」


 ザイツは槍を構えて飛空艇のハッチに駆ける。うしろの方でマチルダが声援を送ってくれていた。


 外に出ると、ゴンとアイが血を流して倒れていた。まだ動いていることから、生きていることは分かる。だが、かなりの出血量だ。致命傷かもしれない。


 ゴンとアイの前には、黒づくめの騎士が立っていた。


「なんだ。この程度の戦力しかなかったのですか。彼の拠点を急いで調べたのに、これでは拍子抜けだ」


 黒づくめの騎士が言った。ザイツは激高した。


 血は繋がっていないが、同族であり、マサト様の元で働く仲間。ザイツの唯一の家族なのだ。


『ウオオオオオオオオオ!!!』


 ザイツは全身に魔力をみなぎらせる。この日の為に鍛えてきた。みんなよりも何倍も鍛えてきた。斥候の技術書だけではない。剣も槍も魔法も、鍛えてきた。負けるわけにはいかない。せめて時間だけでも稼ぐ。


 ザイツは黒騎士に突っ込む。


「なんだ。出てきたのはまたリザードマンですか。装備は上等ですが、リザードマン如き、この私が……」


 ザイツはカナルから教わった魔力操作を駆使した。体内の魔力を右腕に一点集中。槍の矛先に魔力を纏わせ、高速の連続突き。


「オオオオオオオ!!」


「何!?」


 黒騎士は剣で槍をいなし、何とか後方にバックステップ。


「ニガサン!!」


 ザイツは右足に魔力を集中させ、踏み込む。踏み込んだとき、ザイツの圧力で床に穴が開く。


 まるで一本の矢のように、槍で突っ込むザイツ。


「コイツは! コイツはなんだ!」


 黒騎士はザイツの奇襲的な突きを食らってしまう。剣ではじくのが一歩遅れた。胸に槍が直撃し、ドックの壁に激突する。そのまま壁を突き抜けて外にまで吹っ飛んでいく。


 ザイツは賢い。無理に追わず、倒れた仲間を抱えると、すぐさま飛空艇に戻る。飛空艇のハッチに彼らを移動すると、大声でエリーシャを呼ぶ。


「エリーシャドノ!」


 エリーシャはブリッジから見ていたのか、すぐにハッチまで駆け付ける。ゴンとアイの傷を見ると顔をしかめる。切り口は大きく裂け、内臓に達している。このままでは確実に死ぬ。


「これは! ひどい傷! 今ハイポーションを!」


 エリーシャに引き渡すと、ザイツはすぐさま戦場に戻る。


 すると黒騎士はすでに元の位置に戻ってきていた。まったくの無傷に見える。


「やぁ、仲間は無事ですか? しかし驚きましたよ。リザードマンがこれほどの強さを持っているとは、予想外でした。やはり、マサトの仲間は潰さないといけませんね」


 マサトの仲間は潰す。ザイツは聞き逃さなかった。


『王の敵ならば、俺が倒す。王の障害は、俺が取り除く!』


「何を言ってるか分からないなぁ。帝国後で喋って下さいよ。トカゲさん」 


「オオオオオ!!」


 ザイツは再び突っ込む。


「少しだけ遊んであげますよ」


 ザイツは黒騎士と打ち合い始めた。


 一合二合三合。剣と槍ではあったが、打ち合いは続いていく。ザイツは槍のリーチを生かした突きの連続で応戦するが。


「素晴らしいな。騎士達は君を見習うべきですね。リザードマンなのに、これほどの練度とは。奴隷にしておくには惜しい」


『おおおおおお!』


 ザイツは分かっていた。

 

 コイツは化け物だ。自分では勝てない。剣術スキル、体術スキル、魔法スキル。すべてにおいて極みの段階に入っている。レベル差も圧倒的だろう。


 これはエルザ様やカナル様でなければ勝てないレベルだ。


 ザイツはそれでもあきらめなかった。エリーシャが飛空艇を飛ばすまで時間を稼ぐ。もちろん、黒騎士は逃げるのを許さないだろう。飛空艇を破壊しようとするだろう。飛空艇が飛び立つまでなんとか時間を稼がなければならない。


 ザイツは、死に場所を決めた。


 王の未来を見れないのは残念だが、仲間たちを逃がすためには、自分がここに残るしかない。足止めくらいにはなる。


 これも運命だ。ザイツは覚悟を決めた時。それは天から降ってきた。


「グオオオオオ!!」


 全てを焼き尽くす巨大な火炎弾が、黒騎士に打ち込まれた。


「な! なんだと!? ヴィーヴルがいたのか!」


 黒騎士は突如振ってきた火炎弾に対処できず、直撃した。巨大な爆発音と衝撃波がドックを吹き飛ばす。


「グオオオオオ!」


 ヴィーは容赦しない。


 敵には一切の慈悲を与えず、火炎弾を掃射する。


 すさまじい火炎弾の乱舞により、黒騎士は爆炎に飲まれる。爆炎はマサトのドックだけでなく、近隣のドックまで巻き込む。倉庫街にいた市民たちは恐れ、慌て、阿鼻叫喚となってしまった。


『おお! さすがヴィーだ!』


 ザイツは握り拳を作る。ようやく、まともなダメージを与えられたかもしれない。黒騎士は爆炎と瓦礫に押しつぶされ、姿が見えなくなる。


『ヴィーよ。だがどうして出てきた! お前はマサト様の竜だ! 命令なく戦うな!』


「グゥウウオオ」


 ヴィーは頭を垂れる。


『おお。そうか。仲間を守りたいか。さすがだヴィー』


 翼をはためかせるヴィー。ザイツは横に降りてきたヴィーを撫でる。


『共に戦ってくれるか、ヴィーよ』


「グオ!」


 ヴィーが快諾すると、グルッドとリンが駆けつける。どうやら用意が終わったようだ。


『準備は出来た! 後は逃げるだけだ! ザイツ、あいつを足止めできるか!』


『出来る』


 即答するザイツ。ヴィーがいるのならば、負けはない!


『ザイツ、これ、私たちの槍よ。使って』


 グルッドとリンが装備を渡してくる。


『お前たちはエリーシャ殿をサポートしろ。ここは俺が防ぐ』


『分かった!』 


 ザイツが装備を受け取り、ヴィーに跨った所で、瓦礫が吹き飛んだ。


 黒騎士である。マントがところどころ破れているが、大きなダメージは見当たらない。やはりこいつは化け物か。


 黒騎士は禍々しい黒い魔力を纏って、怒りに震えていた。


 まさか飛竜までいるとは思わなかった。不意打ちの火炎弾を食らってしまったのは失敗だったが、リザードマンを見ると、ヴィーヴルに乗っているではないか。

 

 リザードマンがヴィーヴルに乗る? トカゲがドラゴンを操るだと? おとぎ話の英雄譚か? 


 マサト……。やはり貴方の芽は潰す必要がある。


「貴様ら、もう容赦せん。リザードマンが“ドラグーン”などと、有ってはならない。皇帝の再来など、有ってはならない!」


 黒騎士が剣を構え、ヴィーに乗るザイツに踏み出そうとする。そこで。


「なんだよこれは? うちがぶっ壊れてんぞ」


 もはや廃墟と化したドックに、竜人エルザが現れた。


「エルザサマ!」


 ザイツが叫ぶ。強力な仲間が来てくれた。ミノタウロス達も一緒だ。


「原因はてめぇか? よくもあたしの筋トレグッズを壊してくれたな? 覚悟しろよ」


 エルザはポキポキと指を鳴らす。


「誰だか知らねぇが、死んどけ」


 エルザは竜闘気を発動。全力全開で、魔力を武装した。


 エルザの本気。魔力が実体化する。まるでドラゴンの鱗のような鎧に変化し、エルザは黒騎士に突っ込んでいく。


「次から次へと。竜人のメスがまだいましたか。しかも竜闘気とは。恐れ入りましたよ」


 黒騎士と、エルザ、ザイツたちの戦闘が始まった。 


戦闘シーンは難しいですね。修正が必要だと思います。アドバイスがあればメッセージ願います。

本日は日付が変わり、明日の深夜に投稿になるかもしれません。

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