33
マサトたちがダンジョンに飛ばされ、一日が経過した。
飛空艇に残ったマサトの仲間たちだが、マサトが帰ってこないことは承知済みだった。
エルザ達は詳しい内容は知らない。貴族たちのパーティーではあるが、皇族と仕事の話しがあるらしい。もしかしたら、泊りになるかもしれないとも言われていた。その日に帰ってこないのは、居残り組は分かっていたことだった。
前もって言いつけられていたので、エルザ達居残り組みは、いつも通りに過ごしていたのである。
なので、一日帰ってこなかったくらいで、不審にはあまり思わなかった。
彼ら奴隷がマサトから言われていたのは、いつも通りのスケジュールで過ごしてほしいとのことである。
エルザとミノタウロスたちは日帰りのダンジョン訓練。リザードマン達はエリーシャの指示のもと、飛空艇の整備である。
ザイツだけはエリーシャに個別で言われ、繭になったダンゴ虫君に魔石を与えていた。牧場部屋の可動式天井を開け、空気を入れ替えるのも忘れない。
次に牛舎を掃除し、いつでもアイリちゃんが帰ってこれるようにする。最後に飛竜のヴィーに餌を与えて終わりだ。
ザイツはヴィーを可愛がっており、栄養満点の餌を常に用意している。
オークの肉を分厚く切り、軽く炙って半生にする。肉汁が垂れてきたら薄味のソースをかける。飛竜のヴィーの口に合うようにする。野菜もヴィーが好む、柔らかめの野菜を用意する。野菜は、ザイツが大量に取ってきた野草だ。全てヴィーだけの為に用意している。
『ヴィー、お前は故郷に帰りたくないのか?』
「グゥオオ」
『そうか、ヴィーの故郷は戦火に散ったか』
「グゥウウオオ」
『俺の故郷も、もうない。まぶたの裏にしか、ない』
ザイツはマサトの笑顔、仲間の笑顔を思い浮かべる。牧場部屋を、眺める。
まさか、“第2の故郷”が出来るとは思わなかった。再び、家族が出来るとは思わなかった。
ザイツは想う。あの方なら、マサト様なら、歪んでしまった帝国の思想を変えられるはずだ。初代皇帝が築いた、始めの帝国に戻ることが可能だと思う。
誰もが差別なく、貧富の差がなく幸せに生きられる国。きっと、何かやってくれる。今回の皇族のパーティーだって、普通の冒険者なら招かれないはずだ。マサト様だから招かれたのだ。
ザイツはにやりと笑った。
「王ノタメ、ツヨクナル」
ザイツは帝国後で喋り、決意を新たにした。
「グゥオオオオ!!」
ザイツの言葉に、ヴィーが相槌を打つ。
「オマエモ、イッショニ、キテクレルカ」
「グオオオオオ!!」
ヴィーは大きく羽ばたいた。
「タノムゾ」
ザイツはヴィーの頭を撫でる。死んでしまった弟のように。
そこへ。
爆発音。
ドッグのどこかから聞こえた。方向からして、ドックの搬入口。皆が外へ出入りする、シャッターがある方だ。
『何事だ!!』
ザイツはマサトから買ってもらったミスリルの槍を装備する。
『ヴィーはここにいるんだ!』
ザイツは飛空艇の外、ドックの搬入口に駆け出した。
飛空艇から出るとき、エリーシとマチルダに会った。
「ザイツ! 敵が来たわ!」
「クロイキシ!」
黒い騎士? 敵だと? いったい誰だ。襲撃までされるほど、マサト様は恨みを買うようなお方か?
「敵は一人で全身黒づくめ。マントで体を隠してるけど、すごい魔力を感じるわ! 飛空艇の機能でアナライズしたけど、相当数のアーティファクトを所持してるわ!」
アーティファクトだと。神の遺物を持っているのか。
「エルザはまだ帰ってきてないわ! ミノタウロス達も! 今はゴンとアイが応戦中! グルッドとリンは、ドックの天井門を開けてもらってるわ」
天井門? 飛空艇を飛ばすのか?
「多分、戦えば殺される。逃げるしかない状況ですわ。ザイツは飛空艇が飛びたてるまで時間稼ぎしてほしいのです! エルザには悪いですが、ここは退くありません!」
「キヲツケテ!」
マチルダが可愛い応援をしてくれる。マチルダはマサト様が助けた奴隷だ。最初はガリガリだったが、今は元気いっぱいだ。
「出来る!? ザイツ! 今は貴方しかいないんですわ!」
ザイツは迷わなかった。考えるのは自分の仕事じゃない。エリーシャが言うなら、そうなんだろう。みんなが死ぬのだけは阻止しなければならない。マサト様なら、ドックの崩壊よりも人命を優先させる。きっとそうする。
「ショウチシタ!」
ザイツは槍を構えて飛空艇のハッチに駆ける。うしろの方でマチルダが声援を送ってくれていた。
外に出ると、ゴンとアイが血を流して倒れていた。まだ動いていることから、生きていることは分かる。だが、かなりの出血量だ。致命傷かもしれない。
ゴンとアイの前には、黒づくめの騎士が立っていた。
「なんだ。この程度の戦力しかなかったのですか。彼の拠点を急いで調べたのに、これでは拍子抜けだ」
黒づくめの騎士が言った。ザイツは激高した。
血は繋がっていないが、同族であり、マサト様の元で働く仲間。ザイツの唯一の家族なのだ。
『ウオオオオオオオオオ!!!』
ザイツは全身に魔力をみなぎらせる。この日の為に鍛えてきた。みんなよりも何倍も鍛えてきた。斥候の技術書だけではない。剣も槍も魔法も、鍛えてきた。負けるわけにはいかない。せめて時間だけでも稼ぐ。
ザイツは黒騎士に突っ込む。
「なんだ。出てきたのはまたリザードマンですか。装備は上等ですが、リザードマン如き、この私が……」
ザイツはカナルから教わった魔力操作を駆使した。体内の魔力を右腕に一点集中。槍の矛先に魔力を纏わせ、高速の連続突き。
「オオオオオオオ!!」
「何!?」
黒騎士は剣で槍をいなし、何とか後方にバックステップ。
「ニガサン!!」
ザイツは右足に魔力を集中させ、踏み込む。踏み込んだとき、ザイツの圧力で床に穴が開く。
まるで一本の矢のように、槍で突っ込むザイツ。
「コイツは! コイツはなんだ!」
黒騎士はザイツの奇襲的な突きを食らってしまう。剣ではじくのが一歩遅れた。胸に槍が直撃し、ドックの壁に激突する。そのまま壁を突き抜けて外にまで吹っ飛んでいく。
ザイツは賢い。無理に追わず、倒れた仲間を抱えると、すぐさま飛空艇に戻る。飛空艇のハッチに彼らを移動すると、大声でエリーシャを呼ぶ。
「エリーシャドノ!」
エリーシャはブリッジから見ていたのか、すぐにハッチまで駆け付ける。ゴンとアイの傷を見ると顔をしかめる。切り口は大きく裂け、内臓に達している。このままでは確実に死ぬ。
「これは! ひどい傷! 今ハイポーションを!」
エリーシャに引き渡すと、ザイツはすぐさま戦場に戻る。
すると黒騎士はすでに元の位置に戻ってきていた。まったくの無傷に見える。
「やぁ、仲間は無事ですか? しかし驚きましたよ。リザードマンがこれほどの強さを持っているとは、予想外でした。やはり、マサトの仲間は潰さないといけませんね」
マサトの仲間は潰す。ザイツは聞き逃さなかった。
『王の敵ならば、俺が倒す。王の障害は、俺が取り除く!』
「何を言ってるか分からないなぁ。帝国後で喋って下さいよ。トカゲさん」
「オオオオオ!!」
ザイツは再び突っ込む。
「少しだけ遊んであげますよ」
ザイツは黒騎士と打ち合い始めた。
一合二合三合。剣と槍ではあったが、打ち合いは続いていく。ザイツは槍のリーチを生かした突きの連続で応戦するが。
「素晴らしいな。騎士達は君を見習うべきですね。リザードマンなのに、これほどの練度とは。奴隷にしておくには惜しい」
『おおおおおお!』
ザイツは分かっていた。
コイツは化け物だ。自分では勝てない。剣術スキル、体術スキル、魔法スキル。すべてにおいて極みの段階に入っている。レベル差も圧倒的だろう。
これはエルザ様やカナル様でなければ勝てないレベルだ。
ザイツはそれでもあきらめなかった。エリーシャが飛空艇を飛ばすまで時間を稼ぐ。もちろん、黒騎士は逃げるのを許さないだろう。飛空艇を破壊しようとするだろう。飛空艇が飛び立つまでなんとか時間を稼がなければならない。
ザイツは、死に場所を決めた。
王の未来を見れないのは残念だが、仲間たちを逃がすためには、自分がここに残るしかない。足止めくらいにはなる。
これも運命だ。ザイツは覚悟を決めた時。それは天から降ってきた。
「グオオオオオ!!」
全てを焼き尽くす巨大な火炎弾が、黒騎士に打ち込まれた。
「な! なんだと!? ヴィーヴルがいたのか!」
黒騎士は突如振ってきた火炎弾に対処できず、直撃した。巨大な爆発音と衝撃波がドックを吹き飛ばす。
「グオオオオオ!」
ヴィーは容赦しない。
敵には一切の慈悲を与えず、火炎弾を掃射する。
すさまじい火炎弾の乱舞により、黒騎士は爆炎に飲まれる。爆炎はマサトのドックだけでなく、近隣のドックまで巻き込む。倉庫街にいた市民たちは恐れ、慌て、阿鼻叫喚となってしまった。
『おお! さすがヴィーだ!』
ザイツは握り拳を作る。ようやく、まともなダメージを与えられたかもしれない。黒騎士は爆炎と瓦礫に押しつぶされ、姿が見えなくなる。
『ヴィーよ。だがどうして出てきた! お前はマサト様の竜だ! 命令なく戦うな!』
「グゥウウオオ」
ヴィーは頭を垂れる。
『おお。そうか。仲間を守りたいか。さすがだヴィー』
翼をはためかせるヴィー。ザイツは横に降りてきたヴィーを撫でる。
『共に戦ってくれるか、ヴィーよ』
「グオ!」
ヴィーが快諾すると、グルッドとリンが駆けつける。どうやら用意が終わったようだ。
『準備は出来た! 後は逃げるだけだ! ザイツ、あいつを足止めできるか!』
『出来る』
即答するザイツ。ヴィーがいるのならば、負けはない!
『ザイツ、これ、私たちの槍よ。使って』
グルッドとリンが装備を渡してくる。
『お前たちはエリーシャ殿をサポートしろ。ここは俺が防ぐ』
『分かった!』
ザイツが装備を受け取り、ヴィーに跨った所で、瓦礫が吹き飛んだ。
黒騎士である。マントがところどころ破れているが、大きなダメージは見当たらない。やはりこいつは化け物か。
黒騎士は禍々しい黒い魔力を纏って、怒りに震えていた。
まさか飛竜までいるとは思わなかった。不意打ちの火炎弾を食らってしまったのは失敗だったが、リザードマンを見ると、ヴィーヴルに乗っているではないか。
リザードマンがヴィーヴルに乗る? トカゲがドラゴンを操るだと? おとぎ話の英雄譚か?
マサト……。やはり貴方の芽は潰す必要がある。
「貴様ら、もう容赦せん。リザードマンが“ドラグーン”などと、有ってはならない。皇帝の再来など、有ってはならない!」
黒騎士が剣を構え、ヴィーに乗るザイツに踏み出そうとする。そこで。
「なんだよこれは? うちがぶっ壊れてんぞ」
もはや廃墟と化したドックに、竜人エルザが現れた。
「エルザサマ!」
ザイツが叫ぶ。強力な仲間が来てくれた。ミノタウロス達も一緒だ。
「原因はてめぇか? よくもあたしの筋トレグッズを壊してくれたな? 覚悟しろよ」
エルザはポキポキと指を鳴らす。
「誰だか知らねぇが、死んどけ」
エルザは竜闘気を発動。全力全開で、魔力を武装した。
エルザの本気。魔力が実体化する。まるでドラゴンの鱗のような鎧に変化し、エルザは黒騎士に突っ込んでいく。
「次から次へと。竜人のメスがまだいましたか。しかも竜闘気とは。恐れ入りましたよ」
黒騎士と、エルザ、ザイツたちの戦闘が始まった。
戦闘シーンは難しいですね。修正が必要だと思います。アドバイスがあればメッセージ願います。
本日は日付が変わり、明日の深夜に投稿になるかもしれません。




