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なんとか本日中に間に合いました。仕事で遅くなりました。
子供のころ、両親に絵本をよく読んでもらった。
勇者や偉人、初代皇帝の冒険譚。俺は両親にせがんで、良く絵本を読んでもらった。
飛空艇や仲間とともに世界を回る。見たこともない金銀財宝が、絵本には描かれていた。
俺はそれが、大好きだった。
死ぬほどとは言わないが、すごい、いや、すげぇ好きだった。
もしかしたら、あるいはそれが。
俺の、夢の始まりだったのかもしれない。
まぁでも。
その夢はすぐに打ち砕かれたけどね。
8歳時にある教会の洗礼で、“魔法才能なし、武芸の才能なし”と診断されたから。あの時の両親の落胆の顔はなかったよ。期待を裏切ったって感じだった。一応努力したけど、結局だめだったけどね。
生来の物もあったんだろう。俺はそれから無気力でグータラ生きてきたけど、なんとなく心にしこりはあった。
飛空艇欲しいなぁ。仲間がほしいなぁって。思っていた。無理だと勝手にあきらめていたけどね。
飛空艇で世界一周。隠居して一周。
隠居はまぁ、余計かもしれないけど、俺は飛空艇や一緒に飛び回る仲間が欲しかった。
絵本のように。
前置きが長くなったけど、俺の夢の始まり方は分かったと思う。
誰にでもいうわけではないが、自伝を残すなら、書き記したいと思う。
俺は今、すごいものを見ているんだ。
どんな金や権力を持っていても、たどり着けない場所。何人もの天才が一生をかけて、ようやくたどり着けるような頂きに、俺はいるのだ。
カナル、クー、マリアさん、俺。
驚きすぎて、もはや言葉が出ない。
「ぶぅぶぅ!」
ぶーが触手で指し示す場所。どうやらここが“本拠地”のようだ。
俺たちは転移して、とある場所にやってきた。それは切り立った崖の上で、地上を見下ろすような高い場所だ。ごつごつした岩山で、信じられないほどの高所に、俺たちはいる。
その高い崖の上から、ふわふわと浮いている、“巨大な飛空艇”たちを見ている状況だ。
なんだこりゃぁ? この地平線が見えるような、地下空洞はなんだ? それにあの飛空艇達は一体。
「これって教会の勇者様が乗っていた、“英雄の船団”じゃないですか? 有名な絵本のやつの」
マリアさんがぽつりと呟く。
一つの街、いや都市とも呼べる船団が、目の前の空中に浮いている。
世界が入ってしまうんじゃないかってくらいの大空洞に、大小さまざまな船が浮いているのだ。
船団の船は、すべてが戦艦。かなり遠目だが、ピカピカに磨かれ、いつでも発進出来る状態に見える。
「英雄の船団ってなんですか? マリアさん」
カナルがマリアさんに聞く。
「英雄の船団っていう、絵本です。内容は、初代皇帝の冒険ものです。皇帝の仲間が主人公なんですが、実の所、その仲間が教会の開祖様でして。教会が布教するために、無料で市民に配った物が、その英雄の船団っていう絵本です」
「ふむ。それがどうしたんですか?」
「いえ、その船団というのが、主人公、開祖様が乗る巨大な飛空艇達なんですけど……。今、目の前に見えるたくさんの飛空艇が、絵本に書かれている絵と同じなんですよ」
そう。まったく同じだ。絵を切り取ってきたんじゃないのってくらい、同じだ。
「ぶぅぶぅ!」
「ぶーちゃんが、早く行こうと言ってます」
「この崖の上から、どうやって行くんだよ?」
見たところ、降りるような道はないぞ。完全に山の頂上みたいな崖だ。もしかすると、この場所は秘密の場所で、地上へ行ける最短ルートなのかもしれない。隠されたようにここにあるのもそれが原因か。だとすると何でぶーはこの転移門の場所を知っているんだ?
「ぶぅ!」
「ぶーちゃんがみんなを飛ばすそうです」
飛ばす!?
「ぶぅ!」
ぶーは魔法を発動した。すると俺たちの体がふわりと浮く。これは前に体験した、重力魔法っぽい。
「きゃぁあ! なんですかこれは! 体が、宙に浮いてる!」
掴むところもなく、あたふたと両手を動かすマリアさん。
『お! ぶーの十八番やな!』
「マスター。あとはぶーちゃんが任せろと言ってます」
「ぶっひゅうううううう!!!」
ぶーの新しい鳴き声が追加された。俺たちはぶーに重力の方向を操作され、崖の上から飛び出した。
「きゃあああああああああ!!」
マリアさんが悲鳴を上げている。
「ぎゃあああああああああ!!」
俺も悲鳴を上げた。
誰だって悲鳴を上げる。だって、下を見てみろよ。数百メートルじゃ聞かない高さだぞ。崖の下に雲が見えるんだぞ。今の俺だって、落ちたら即死だぞ。
俺たちはなすすべなくぶーに操られ、巨大な飛空艇群に飛んでいくのだった。
★★★
旗艦アドミラルツェッペリン。
超巨大な戦艦であり、移動要塞。国すら消し飛ばす主砲を装備し、宇宙すら航行可能な船。戦艦の中に“魔石畑”と呼ばれる資源採掘場を有し、巨大な牧草地まで中にある。完全自給自足、無補給で永遠に航行可能な戦艦である。
現在、この戦艦を維持しているのは、粘族たち。教会の開祖。ツェッペリンがこよなく愛した、スライムたちである。
スライムたちは機械的な反復作業をこなしてもまったく疲れない。ストレスを抱えない。彼らは毎日同じことを繰り返し、旗艦アドミラルツェッペリンをピカピカに保っている。
俺たちはアドミラルツェッペリンに無許可で侵入。ぶーの説明を聞きながら、勝手に戦艦内を見学して歩いていた。
武器庫や兵器庫、エンジンルーム。スライム達はみな、休まずに働いているようだ。働くスライムを見てみるが、とてもけなげである。
「ここが食堂のようです。スライムたちは日に三度、牧場で育てた家畜の肉と野菜を食べるそうです」
一万人すら入れそうな大食堂。ここもピカピカに磨かれており、とても清潔な雰囲気を出している。白を基調としたデザインで、整然とテーブルが並べられている。中には食事を取っているスライムもおり、俺はそのスライムたちに近づいてみた。というより、カナルがすでにスライムたちを撫でていた。
「なんですか? ここは天国ですか? 楽園ですか?」
カナルは船の中にいたスライムを勝手に抱っこし、撫で続けている。スライムたちは人見知りせず、まったく逃げない。むしろ友好的に触手すら伸ばしてくる。カナルがスライムたちを撫でつづけるので、それを見たぶーが少し不機嫌だ。
食堂のテーブルに乗っかり、食事をとっているスライムたち。近づいて見てみると、高級そうなステーキを食べている。触手で肉を切って、フォークのように突き刺す。肉を体に近づけると、穴が開いて肉が取り込まれた。その後スライムの体が上下に動いており、肉が分解されているようだ。
スライムたちが食べているのは分厚いステーキで、肉汁がたっぷり。食欲をそそるステーキソースがこれでもかとかかり、大根おろしがとなりに添えられている。パンや野菜も食べ放題なのか、ボールいっぱいにもってある。
ごくり。
そういえばダンジョンに来てから食事をとっていない。水すら飲んでいない。すごい美味しそう。
でも汚染された魔物肉だったら、吐くだけでは済まないぞ。スライムだったら悪食や暴食スキルで大丈夫だが、人間はそうはいかない。竜人のカナルだってそうだ。人間ではなかなか悪食スキルを持っている奴はいないからな。
「ぶぶぅ!」
ぶーが勝手に空いているテーブルに座っており、すでに食事を持ってきていた。
「ぶうううう!」
ぶーは触手で俺たちにあっち行ってこいと言っているみたいだ。
「ぶーちゃんが、あっちのカウンターで食事をもらえると言ってます」
確かに、見ると食べ物が並んでいる。厨房がある付近だ。よくよく見ると、厨房の中にいるのもスライムである。すこし大き目のスライムが、お玉やフライパンを持って料理している。器用に触手を使って、包丁まで扱っている。
「一体ここはなんなんだ? スライムの帝国か?」
「私も、そう思います。これは夢なんじゃないですか?」
「頬をつねると、痛いですよ。夢じゃないみたいですが」
「…………」
ぶーはすでに食事を開始し、シャドウスラムのクーも一緒に飯を食べている。
「カナル、これは食えるのか? ダンジョン内の飯だろう?」
「ぶーちゃんに聞いてみます。えっと、ぶーちゃん? このご飯って、私たちが食べても平気な奴なの?」
「ぶぅぶぅ!」
「まったく問題ないそうです。むしろ、状態異常を治すそうです」
マジかよ。もうなんでもありだな。
俺たちは勝手に飛空艇に侵入し、しかも勝手に食事をもらって、勝手に飯を食べ始めた。
みんな、無言でガツガツと食事を始める。メイドのマリアさんですらがっついている。
もう、わけがわからないよ。俺の脳内回路はパンクして、その後破裂した。もう、考えるのは止めにして、飯を食らい続けた。
「なにこれすげぇうまい」
「はい。すごいです」
「これは宮廷料理を超えています」
俺たちは飯を食い続ける。このあと、俺たちが家畜に変化しており、スライムたちに美味しく食べられても文句は言えない。それほどガツガツ喰い続けている。
腹が満腹になった所で、背後から声がかかる。
「ようこそ。迷える子羊よ。私たちの食事は美味しかった?」
あまりに自然な気配で、自然な雰囲気だった。俺の背後に人がいるなど気づきもしなかった。
俺は後ろを振り向くと、シスターの格好をした爆乳美女が立っていた。
「え? えっと、え? スライムじゃない? あなたは?」
ちょっとまってくれ、いきなり登場か? 魔族か? 魔精霊か?
「私はこの船を預かる、シスターエレンです。ようこそ、旗艦アドミラルツェッペリンへ」
ニコニコとするシスターさん。めっちゃ美人で、カナルとタメを張るほどの乳の持ち主。カナルがロケットおっぱいなら、このシスターは陥没乳首の垂れ乳で勝負か? 服の中身を見たわけじゃないけど。
「ぶぅぶぅ!!」
ぶーはシスターの胸に飛び込んだ。すっぽりと、服の中に入り込む。胸のあたりがうねうねと動いているので、どうやら胸の隙間に入ったようだ。
「あん! この子ったら、あいからずおっぱいが好きねぇ」
シスターは妖艶にほほ笑む。
「ぶぅぅぅううう!!」
ぶーが喜んでいるようだ。
「こらぶーちゃん! なんてことするの! それはボクだけにしなさい!」
「ぶっ!」
カナルがぶーに言うが、まったく聞き耳をもたないぶー。ぶーはシスターの胸の中に収まったままだ。
「ぶ、ぶーちゃんが言うことを聞かない? そんなことが?」
今までぶーが命令を拒否したことはなかった。契約印というよりも、友人や、大切なペットして接してきたカナル。言うことを聞かないことは衝撃だった。
「あの、勝手に入って食事までとってすみません。俺は冒険者のマサト、こっちは竜人のカナル。メイドのマリアさん。あっちで飯を食べ続けている黒いのは、シャドウスライムのクーです」
「えーえー。知っていますよ」
知っている? どういうことだ?
「あの、失礼ですが貴方はこの船の責任者ですか?」
「ええ。実質そうなるでしょうね。それと、このグラビトンスライムの母親でもありますけど」
………………ん?
いま、何か問題発言が?
「私、ダンジョンマスターのエレンと申します。よろしくお願いしますね? 新米“ダンジョンマスター”さん?」
エレンさんはにっこりとほほ笑み、頭を下げた。爆乳が、タプンと揺れた。
マサトの夢の始まりは一番初めに考えていて、第一話に持ってくるか迷いました。迷った結果、後だしじゃんけんで、話しに組み込んでみようと思いました。
そちらの方が盛り上がるかなと思ったので。今回、逆に盛り下がったかもしれませんが。




