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 俺はメイドのマリアさんに案内されて、エルティシアの部屋に向かっている。


 案内されながら、改めて思う。国民の血税の行方が、分かった気がした。 


 城の中は豪華である。地面にはふさふさの絨毯が敷かれ、壺や絵画がたくさん飾ってある。一個いくらするか分からんが、割ったら大変なことになりそうだ。


 この壺や絵画が、俺たちの血税なのだろうな。そう思うと悲しくなるな。


 俺はそんなどうでもいいことを考えながら、腕時計を見る。パーティー開始までもう時間がないぞ。


 案外遠いのか、すぐには着かないようだ。


 そわそわする俺を察したのか、メイドのマリアさんが教えてくれた。


「焦らなくても大丈夫ですよ。パーティー開始直前ですが、エルティシア様の会場入りは少し後になります。皇子にプレゼントを渡す時に会場入りします。ですので、まだ時間には余裕があります」


「そうなんですか」


 どうやらまだ時間はあるらしい。ほっとした。そうなると、後はエルティシアと交渉次第だな。よほどの馬鹿をしなければ、カードと俺の秘密は暴露されずに済みそうだ。


「それよりもマサト様。お仲間が捕まったとか仰っていましたが」


 よくぞ聞いてくれましたマリアさん。


「そうです! ひどいんですよ! まさに聞くも涙語るも涙でして」  


 俺は語気を荒げてマリアさんに顔を近づけた。いきなり近づいた俺にびっくりしたのか、マリアさんは一歩後ずさる。


「き、聞くも涙、語るも涙、ですか?」


「そうです! ひどいんですよ! 門番の奴が急に俺たちをスパイ扱いして、牢屋に入れたんです!」


 マリアさんは俺を案内しながら、少し考えるような顔をする。


「スパイ? いきなりですか?」


「いきなりですよ!」


「そうでしたか。ここ最近、皇族が狙われる騒ぎがあったので、もしかしたらその件が尾を引いたのかもしれません」


 そうなのか? 皇族が狙われたのか?


「まぁいいでしょう。そちらは私が調べます。お仲間の件は姫様を通せば解決しますので、大丈夫です。まずは姫様にお話しましょう。ここの角を曲がった所が姫様のお部屋です」


 俺はマリアさんの後ろをついて行く。ふさふさの絨毯の上を歩きながら。


 通路の角を曲がった所で、俺は会いたくもない奴に出会ってしまった。俺はとことんトラブルを起こしたいらしい。


「クライブ様、ゲイン様。どうしてここに? 会場は反対方向ですよ?」


 マリアさんは白い燕尾服を着た貴族と、白い鎧を着た騎士に声をかけた。


 見た感じすぐにわかった。燕尾服の男はクライブ。白い鎧の男はゲインだ。


「おお、これはマリアさん!」


 クライブは大仰に挨拶する。


「クライブ様。それにゲイン様も。パーティーは始まっていますよ。どうしてここに?」


「ここに来たのは、エルティシア様をエスコートーしようと思って来ました。念のため、護衛にゲインも連れて来た次第です。エルティシア様はいますかな?」


「おりますが、姫様は準備中です。お引き取りを」


 マリアさんはクライブを冷たくあしらう。


「そんなマリアさん! 私がお嫌いになったのですか? 今度お茶でもしようと約束してくださってではありませんか!」


 おいおい。そんな約束したのかよマリアさん。こいつとどんな関係だよ。


「そんな約束、しましたでしょうか?」


「したではありませんか! 満月の夜に、噴水の前で!」


 おいおい。マリアさん。あんた。


「記憶にございません」


「はぁ。どうしてしまったのですかマリアさん。……ん? マリアさん、後ろにいる男は誰ですかな?」


 マリアさんは右に一歩避け、頭を下げてこう言った。


「この方は冒険者のマサト様です。現在、姫様の意中の方です」


 イチュウ。イチュウノカタ。なんと言ったかな、マリアさん。宇宙のかなたって言ったかな?


「なんだと?」


 クライブの声が低くなる。3トーンくらい声が下がった。おぉ怖っ!


「クライブ様。こちらのマサト様は姫様に大事な話があります。恐れい入りますが、お引き取りを」


 恭しく礼をするマリアさん。無言の圧力がすさまじい。すごい拒絶感を感じる。その身が帰れと言っているようだ。


「クライブ様。私がこの男とマリアさんをお引止めします。クライブ様はエルティシア様を」


 そこでクライブの後ろに控えていた騎士、ゲインが登場した。クライブとマリアさん、俺の間に割って入る。中性的な顔つきの、高身長の男である。見たところ人間のようだが、どす黒く、巨大な魔力を感じる。


 俺とマリアさんを引き留めると言うが、どうする気だ?


「ゲイン様、どういうことですか? クライブ様ともども、これは越権行為ですよ」


「関係ありませんね。今日のパーティーは大事なパーティーだ。邪魔をされるわけにはいかないんですよ」


 ゲインはニタニタといやらしい笑みを浮かべる。見下したような顔つきが、さらにいやらしさを倍増させる。


「すまんなゲイン。私はエルティシア様を会場までエスコートする」


「御意」


 ゲインはクライブに頭を下げると、俺たちに向き直る。剣の柄に、手がかかっている。力づくでも通さない気か。


「ではマリアさん、約束のお茶、楽しみにしていますよ」


 クライブはゲインと俺らをその場に残し、エルティシアの部屋に向かっていく。これはまずいな。俺はシャドウスライムのクーに念話を飛ばす。


『クー、聞こえているか』


『主か! 聞こえてるで!』


『俺の位置は分かるか?』


『もちろん分かるで!』


『緊急事態だ。カナルとぶーを連れて、俺のところまで急行せよ!』


『お! ついに出番やな! がってんしょうち!』


 クーはそういうと、念話を切った。多分、すぐにここに来るはずだ。クライブの奴が気になるが、目の前のゲインが邪魔だ。俺はコイツをどうするか考えるが、殴り倒すの一択しか思いつかない。


「ゲイン様、これはどういうことですか! そこを退いてください!」


 マリアさんはきつく言うが、ゲインは意にも解さない。


「一介のメイドが知ることではありません。ここは大人しくしていてください。そして、そこの冒険者さんもね」


 ゲインは俺のことを歯牙にもかけていない。よっぽど俺が弱い奴とでも思ったのか。


「く! あなたは! こんなことをしてただで済むわけがありませんよ!」


 マリアさんは苦虫をかみ殺したような顔をしている。マリアさんはどうやらゲインを突破できないようだ。


「マリアさんマリアさん」


 俺はマリアさんの肩を軽く叩く。


「なんでしょうか、マサト様」


「こいつ、ぶっとばしてもいいですか? クライブっていうクソ野郎は、エルティシア様に毒を盛ろうとしているんですよ。ゲインってクソ野郎も共犯者なんですよ。だからぶっ殺してもいいですか?」


「な! なんですって!!? 毒!?」


 マリアさんは俺のとんでも発言に驚く。


「ゲイン様! それは本当ですか!」


「チッ」


 ゲインは舌打ちすると、マリアさんに向かって剣を抜いた。居合切りとかいう、抜刀術だ。剣の軌道から考えるに、マリアさんの首が飛ぶコースだ。口封じに殺す気らしい。


 当然、そんなことはさせない。俺が阻止する。


「ハエが止まってるぜ」


 一度は言ってみたかったセリフである。俺はゲインの刀を指二本で止めて見せた。


「なっ! なに!? 私の剣を止めた? しかも素手、指二本で」


 驚愕に目を見開くゲイン。俺が止めたのが驚いたか? でもこれ以上驚く暇もないぜ?


 俺はゲインにパンチをした。魔力を込めた正拳突きだ。俺はいつもの如く吹っ飛んで終わりと思っていたが、なんとゲイン。身体強化魔法で後ろに避けた。


 ゲインはすぐに体制を整えると、刀を正中線に構える。


「貴様。何者だ。その魔力、身のこなし。並の冒険者じゃないな」


「冒険者ランクZ。マサト・シノノメ」


 俺は名乗りを上げる。特にランクZにこだわりはないが、一応肩書だからな。


「マサト? 名前違いじゃ? ランクZのマサト? まさか貴方が、そうなのですか?」


「なんだ、俺を知っているのか?」


「ええ。噂で、知っていますよ。現帝国の政治で、史上二人目のランクZですからね」


 へぇ。俺も有名人か。名前だけ。


「まぁいいや。寝とけ。邪魔だから」


 俺はゲインの背後に一瞬で回り込み、後ろから殴りかかる。が、これもまた躱された。案外すばしっこい奴だ。


「ふぅ。一瞬でも気を抜けませんね。やはりランクZは規格外ですか。このアーティファクト貧者の一刀がなければ、とうの昔にやられていましたね」


 アーティファクトだと。その刀が? 


「貴方を止めるのは骨が折れそうだ」


「…………」


 くそ、こんな奴にてこずるわけには! もうクライブはエルティシアの部屋に行ったか? まだ薬を飲ませるまでには行っていないはずだ!


「マリアさん、悲鳴を上げればエルティシア様は気づきませんかね?」


 呆然と尻もちをついていたマリアさん。俺とゲインの戦闘にまるでついていけていない。


「す、すみません。多分聞こえません。遮音系の魔法が部屋に施されています。ノックでもされない限り、気づきません」


 ちっ。面倒な。


「マリアさん。衛兵か、兵士か、誰でもいい、この事を伝えて来るんだ」


「え、は、えっと……」


 立ち上がらないマリアさん。


「立てますか。マリアさん」


「す、すみません。腰が抜けて」


 くそ。このまま守りながらか。


「お話は終わりましたか? さて、もう少し遊びましょうか。マサトさん」


 男と遊ぶ趣味はない。俺はゲインを倒すべく、再度殴りかかろうとする。


 ところで。


「遅くなりました! マスター!!」


 カナルとスライムたちが到着した。


「カナル!! 来てくれたか! それにお前たちも!」


「ぶぅ!」


「くー!」


 よし! 形勢逆転だ!!


「ゲインだったな。もう終わりだな」


 俺はゲインを追い詰める。カナルとスライムたちがいれば百人力だ。早くゲインを倒さないと。


「竜人だと? 大きな魔力が近づいているとは思ったが、ここまでとは。それになんだそのスライムたちは。深淵に住む魔物たちではないですか……。なぜ地上に、しかも従魔としてここに……」


 ゲインは驚いているが、もういい。見飽きた。


「ゲイン、終わりだ! カナル、ぶー、くー! 一斉攻撃だ!」


 俺は奴隷たちに命令を出すが、ゲインは不敵に笑った。


「まさかこれを使うことになるとは思いませんでした」


 なに?


「空隙の探索者、起動」


 ゲインは手首に嵌めていた腕輪を触り、魔力を流した。すると突然、俺とカナルスライム達、マリアさんまで巻き込み、空間が歪みだす。


 視界が、ぐにゃぐにゃとうねる。


「な、なんだこりゃあ!!」


「こ、これは!?」


 体に力が入らない。拘束系のアーティファクトか? くそ。自分のレベルと、身体能力を過信しすぎた。魔法は、人間の肉体をたやすく超える。俺はレベルが上がったせいで、調子に乗り過ぎていたようだ。


「ふふふ。恐ろしいですか? でも安心していいですよ。これは攻撃系のアーティファクトじゃない。転移系のアーティファクトです。空隙の探索者。これは、指定した場所まで転移可能な、アーティファクトです」


 転移のアーティファクト? それってまさか、おいおい!


「さようなら、海を超えた魔大陸まで、永遠の旅に出てください。もし、もしもあなたが帰ってこれても、すべては終わっていますがね。エルティシア様に何の用があったのかは知りませんが、薬の件を知られたのなら、仕方ありません。ここでお別れです」


 目の前の空間がさらにゆがむ。魔方陣が俺たちを取り囲むように、上下左右に展開する。


 俺は魔力を全身にみなぎらせるが、力が入らない。術式に介入することができないみたいだ。今の魔力操作スキルではだめらしい。カナルも必死に術式を破壊しようとしているが、魔力が足りないようだ。


 俺の体に魔力だけはいっぱいあるが、何もできない。これは完全に俺の修行不足か。やられたな。


 次第に魔方陣が完成し、俺たちは光に包まれ始める。


「では、さようなら。良い旅を」


 ゲインはニタニタと笑い、俺たちに手を振った。


「一応言っておく。俺は高額当選の成り上がりだが、仲間たちは違う。俺の仲間を敵に回したら、お前らは破滅だぞ。じゃぁな」


 俺の捨て台詞にゲインの笑みはぴたりと止まり、俺たちは光に包まれた。



強引すぎる展開で、本当にこれでいいのか悩んでいます。でも、一人で書いているので自分を信じるしかありません。29話のメイドのマリアさんに関しては、かなり強引だったので、少し修正を入れる予定です。ストーリーに変化はありません。

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[一言] 35話までは良い調子で来たが、ここにきてこの話はないだろうな。 また振り出しに戻ったような虚無感が出てきた。
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