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 俺がヴィーヴルで調子に乗り、冒険者カードを失くしてから3日が過ぎた。特に何事もなく経過し、騎士団が俺を捕まえに来るとかはなかった。


 冒険者カードは、どこで失くしたか分からない。城の上空から落としたのではないか? ということだけだ。もしかしたら別の場所で落とした可能性もあるが、もう3日が経過したのだ。なんの音沙汰もないのだから、俺は牢屋にぶち込まれずに済みそうだ。


 はっはっは。よかったよかった。俺は安心して、憂鬱な気分が和らいだ。

 

 失くしたカードはどうにかしよう。なんとかなるさ。


 俺は楽観的に、高をくくっていた。


 くくっていたが。


 事は、思わぬところで動きだし、俺の予想を超えた事態を巻き起こした。


 いつもの如くギルドマスターのクソじじいに呼び出しをくらい、ギルドに足を運んだ。もし冒険者カードの提示を要求されたら、忘れたとすっとぼければいい。


 俺はじじいの向かいに座り、用件を聞いた。


「オリハルコンミリピードの件、リッチの遺骸の件、他にもあるが、まずお主に重大な物を預かっている」


 なに? 重大な物? 俺は一瞬にして血の気が引く。まさか、ばれた? 


 強運もここまでか。調子に乗ると、ろくでもない結果になるな。


 俺は青い顔をして、じじいの言葉を待つ。


「皇女殿下からお主宛てに、パーティーの招待状を預かっておる」 


 はい? カードじゃない?


「パーティーは第一皇子の生誕祭じゃ。どうやら第一皇子は、強い冒険者が大好きらしい。初代皇帝の大ファンらしくての。お主を呼べば、皇子も喜ぶ。今回は皇女殿下が気を利かせたようじゃ」


「いや、だからってなんで俺?」


 冒険者最高ランクだか知らんが、俺は小市民なわけよ。未だ何の成果も出していないし、形だけのランクだよ? 俺が皇族や貴族のパーティーに行くなんて、ありえないっしょ。他の高ランク冒険者にしろよ。


「ショーの一つとして、ギルド最高ランクの男を、パーティーに招きたいんじゃろ」


 見せ物かよ。しかも最高ランクじゃなきゃダメなのかよ。


「ああ、あとお主に手紙を預かっておる。皇女殿下専属のメイドから渡された。差出人は皇女殿下じゃな」


「皇女殿下の手紙?」


 俺はじじいから手紙を受け取る。きっちりと蝋封された、上質な便箋を渡された。


「皇女殿下から直接の手紙など、滅多にもらえんぞ。心して読むんじゃな」


 心して? 俺はそんなものどうでもいい。面倒くさいので、乱暴にこの場で開ける。じじいが何か言っているが気にしない。


 見ると中には紙一枚が入っており、短い文章が書かれていた。内容を読むと、俺は驚愕した。


『貴方様の大切な落し物は、第二皇女エルティシア・ジ・アルハークが預かっています。返してほしければ、私の望み、一つだけきいてもらいます』


 大切な落とし物とは、あれしかない。しかも皇女殿下の望みだと? 嫌な予感しかしない。


 文はまだ続き、俺が“絶対に断れなくなる”内容が書かれていた。


『名前はマサト様というのですね? あの大きな竜、すごかったわ。マサト様は竜騎士なのかしら? それとも、ダンジョンマスターと言った方がよろしかったかしら? それとも、魔王? いくつもの名を持っていらっしゃるみたいだけど。私、貴方に会えるのを楽しみにしています。パーティー、ぜひいらしてくださいね』


 ヴィーヴルをきっちりみられている。恐ろしいほどのタイミングで、俺のカードを拾いやがったな。


 だが問題はそこじゃないな。


 ダンジョンマスターと魔王? そりゃ冒険者カードに記された、俺の適性職業じゃねぇか。しまったことに、適正職業はカードに表記されたまま、消去していなかった。面倒なので放置していた。俺はミスにミスを重ねてしまった。


「内容が気になるが、皇族の手紙じゃ、それはお主だけの物じゃ。誰にも話すでないぞ」


 話せるかよ。こりゃ俺の秘密だよ。


 ちっくしょー。鉱山送りも嫌だが、こっちもこっちで嫌な予感しかしない! どうしよう!!


★★★


 バーティーはなんと、明日だと言う。


 とんでもない事である。完全に飛び入り参加じゃねぇか。なにも用意できてねぇぞ! 


 時間がないので、とにかく行動に移した。俺は元貴族だと言うエリーシャにいろいろ教わることにした。


「パーティーへ着ていくスーツは、あるんですの?」


 ありません。


「パーティーに連れて行く従者はどうしますの?」


 それはエリーシャしかいないだろう。どうしても嫌だってんなら、カナルしかいないが。カナルは竜人だぞ。いいのか?


「ダンスは踊れますの?」


 タンス? タンスは服を入れる物だろ? なに言ってるんだよエリーシャは!


「食べ物を食べるときの、最低限のマナーは?」


 はっはっは。手掴みだろ? 笑わせるな! それくらい俺だって出来る!


 そこまでふざけた結果、エリーシャからビンタをもらいました。まじめにやれと。


「はぁ~。もう真面目にやっても、間に合いませんわ。冒険者の格好をして行くしかありませんわね。お城に乗っていく馬車はないので、魔牛のアイリちゃんに荷車でも引かせるしかありませんわ」 


「馬車? 歩きで行けばいいだろ? 城までそう遠くないだろ。それか乗合馬車で……」


「なにふざけたこと言ってるんですの? 貴族が集まるパーティーに、城までノコノコと歩きで行く? 体面が悪すぎますわ」


 歩きじゃ体面が悪いのか。どんだけなんだよ。


「荷車は、確か倉庫にありましたわよね。農耕用の」


 農耕用……。街に出るときでも、農耕用は使わねぇぞ。


 アイリちゃんに無理して荷車引かせることないんじゃないか? まだ歩いて行った方がいい気がするぞ。最悪、帝国のごみ回収業者と間違われるぞ。


「明日でなければ、流行の魔石式自動車を買えたのですが……。もう後の祭りですわ」


「馬車を借りたらどうだ?」


「馬車は当日に手配は不可能ですわよ。そんなことも知らないのですか?」


 知るかよ。一般人が馬車を手配なんてするかよ。普通は歩きか魔牛に乗るっての。


 俺はエリーシャと問答を繰り返し、明日の計画が決まった。


 城まで行く足は、魔牛のアイリちゃん。彼女に大き目の荷車を引かせる。それに乗っていく。


 従者はカナルに決定。エリーシャは来ていく服がなかった。彼女は冒険者じゃないので鎧もない。ドレスなんて買ってない。麻布の服しかなかった。明日では仕立ては間に合わない。仕方ないので、軽鎧を持っているカナルに決まった。


 ダンスは二人とも踊れないので、絶対に踊らないようにする。テーブルマナーはもう最初から捨てる。冒険者だからワイルドに喰う。それでごまかす。


 最後にペットとしてスライムを連れて行けば、なにかあってもスライムの所為に出来る。何かやらかしたら、無理やりスライムに罪をなすりつける。悪いがそれしかない。


 うむ。改めてみると、とんでもない計画である。


 流行の最先端を行く帝都。皇族や貴族は流行に敏感だ。服やドレスも素晴らしい物を着てくるのだろう。美しく着飾ってくるのだろう。そんな華やかな場所に、俺らみたいな田舎っぺが参加。場違いも甚だしい。


 くそう。自業自得とはいえ、なぜこんな目に……。


 ああ。胃が痛い。


 明日はすぐに来る。ああ日が昇る。



★★★


 

 当日の夕方。続々と城に集まる、王侯貴族たち。


 今日は皇子の生誕祭だ。成人と認められる年齢、14歳になる。大きな宴の為、貴族たちは皆気合が入っている。


 城に乗りつける馬車も、豪華な物ばかり。全て天井付きで、いかにも高価そう。馬車を引く馬でさえ超一流で、幻獣種と呼ばれるスレイプニールすら見た。信じられん気合の入れようだ。


 対して俺らはアイリちゃんが引く荷車に、竜人のカナルと一緒に乗っている。御者はいない。俺が手綱を握っている。


「ウモー」


 アイリちゃんが馬たちを見て鳴いた。こんばんはとでも言っているのかもしれない。


「な、なにあれ?」


「魔牛? なんでここに?」


「ゴミ回収車か? しかし乗っているのは冒険者みたいだが」


「ここは城の門前だぞ。なんでこの時間にゴミ回収が?」


 貴族たちは俺たちを見てざわついている。


 俺たちはざわつく貴族たちを横目に、城の門をしれーっと通り抜けようとする。こうなりゃ強行突破だ。


 アイリちゃんを誘導し、門を通り抜けようとしたが、 俺たちに気づいた門番があわてて走ってきた。


「貴様ら! ここは城の正門だぞ! こっちから入るんじゃない! ゴミ回収所は向こうだ!」


 門番は城の裏手を差す。完全にごみ処理業者扱い。どんなに金を持っても、竜人を奴隷にしても、やっぱり染み付いた物は簡単に落とせない。俺は根っからのごみ処理業者だったのだ。


「マスター。どうしましょう? やっぱり場違いなんじゃ」

 

 カナルはオロオロしている。俺に聞かれても、困る。俺だってオロオロなんだから。


「ぶぅぶぅ」


「くーくー」


 グラビトンスライムのぶーと、シャドウスライムのくーも、心なしかオロオロしていた。


「えっと、あの、俺、冒険者ランクZの、マサトですけど。今日は皇子のパーティーに招待されて来たんですけども。これが招待チケットです」


 俺は恐る恐る招待チケットを渡すが、門番はそれを見るといきなり衛兵を呼んだ。何のためらいもなかった。


「こいつらを捕まえろ! 敵国のスパイだ!」


 スパイ!? なぜそうなった! 


 何十人という兵士に取り囲まれる俺たち。暴れることも出来たが、ここで暴れたら完全に御用となる。俺達は抵抗をしなかった。


 そのまま衛兵にあっさり掴まると、なんと牢屋にぶち込まれた。理由すら教えてくれない。


 めちゃくちゃ汚い牢屋に入れられ、俺たちは放置されてしまった。


 ……どうしてこうなった。


 俺とカナルは、牢屋で寂しく体育座り。俺たちからは哀愁が漂い始めた。


「マスター。やっぱり無謀だったんですよ」


「いうな、痛いほどわかっているんだ」


「ぶぅぶぅ」


「くーくー」


 結局、俺の牢屋行きは免れなかった。



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