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「グオオオオオオオオオ!!!」
「ウオオオオオオオオオ!!!」
ヴィーヴルのヴィーが、雲よりも高く飛翔する。
空気の層が変わり息苦しくなる中、眼下に広がる景色は、絶景。
竜と人が一体となり、空を翔る。
俺はヴィーに鞍を装着し、人馬一体ならぬ人竜一体になり、飛行訓練を行っていた。
「ヴィー!! すげぇ! すげぇぞ!!」
「グゥオオオオオ!!」
俺が見たかったものは、こういう物だった。
一般人が手を伸ばしても、絶対に届かない場所。俺はそれが見たかった。飛空艇で世界一周というのも、実はそれに帰結する。
生活の為だからしょうがない。労働をしなければ対価は得られない。分かってはいたが、俺は同じ毎日から抜け出したかったんだ。
自分だけの飛竜、自分だけの空。
今、俺はそれを手に入れている。
宝くじが当たったと言うただの強運だが、選んだ道が違えば、この景色は見れなかった。仕事を辞めてただ隠居したのでは、見れなかった。
ああ。
「最高だ!!」
それ以外の言葉が思いつかない。
体全体で風を受けながら、俺はヴィーに命令する。
「急降下だ!」
ハヤブサよりも速く、飛べ。
「グゥウウウオオオオオ!!」
俺はノア帝国の城めがけて一気に急降下。本来ならやってはいけない行為だろうが、今の俺たちを止められる奴はいない。
城の上空を編隊飛行する鉄竜騎士団。毎日のように訓練している彼らの空を、俺が奪う。
「ははは! おせぇ!!」
「な、なんだ! 敵か!?」
はっははは! 敵じゃないよ! ただの一般人さ! 彼らを少し挑発し、翻弄する。
驚く竜騎士達を置いていき、一気に加速する。
城の直上まで来たところで、俺はヴィーに命令した。
「もういいだろ。ヴィーのすごさは分かった。帰ろう」
「グゥオ」
俺は特に何をするでもなく、ただ城の上空を飛んで帰った。分かってはいる。こんなことをやれば鉄竜騎士団に追われることなど。
だけど、ワイバーンよりも速いヴィーヴルには追いつけない。俺はさらに加速して、その場から逃げた。すると背後から鉄竜騎士団の声が聞こえた。
「こら貴様ぁー! 許可なく城の上空を飛ぶな! 何者だ! 逃げるな!」
ははは。ごめんね。帝国の空は狭くてね。飛行訓練に良い場所がないんだよ。どこもかしこも飛空艇が飛んでいるからな。城の真上くらいしか飛べないんだよ。
「こらー! 名を名乗れー!」
俺とヴィーは止まらない。捕まったら厄介だ。
あー最高。たまにはこんなスリルもいいな。
俺はヴィーに乗って飛空艇に帰るのだが、帰ってきた直後恐ろしいことに気づく。
ないのだ。
冒険者証が、ないのだ。
内ポケットに大切にしまっていた、特製冒険者証が、ない。どうやらヴィーとのアクロバティックな飛行訓練で落としたらしい。
落とした場所は、城の真上から。多分、城の敷地内に落ちた可能性が大だ。これは非常にまずい。
「ヤベェ」
俺は明日にはお尋ね者になっているかもしれない。俺は冷や汗をだらだら垂らし、その日は寝込んでしまった。
★★★
「エルティシア様。クライブ様がお見えです」
私の専属メイドが言った。
「分かりました。お通ししてください」
ガチャリとドアを開けると、嫌らしい男の笑みが見えた。私の部屋に毎日通う、キザな男が現れたのだ。
「こんにちは。エルティシア様。本日も相変わらずお美しい」
スタスタと私に近寄ってくる、キザ男。名はクライブ。
「こんにちはクライブ」
クライブは私の手を取ると、手の甲にキスをする。うぅ、気持ち悪い。あとで手を洗わなくちゃ。
「本日はどのようなご用件で?」
「用件がなければ来てはいけませんか?」
質問を質問で返すクライブ。私はそういうところが嫌いだ。
キザなクライブは、髪を掻き上げ、言った。
「貴方の美しいお顔は、毎日見ても飽きないのです」
「あら、そうでしたか? お上手ですねクライブ様は」
「なぁに、それほどでも」
うぅ。本当にうざったい。私はクライブなど好きではない。父がクライブに交際を認めただけで、私は彼をなんとも思っていない。
「いずれ我が妻になる方。これからたくさんあなたのことを知っておきたいのですよ」
誰が妻か。
「皇帝が認めたのです。私と貴方の中を! ああ! 神に祈った甲斐があったというものだ!」
仰々しく天を仰ぐクライブ。見ていて非常にイライラする。吐き気までするほどだ。
私はクライブを受け付けないが、私の後ろに控えている専属メイドは違ったようだ。頬を朱に染めて、うっとりとクライブを見つめている。クライブがカッコいいらしい。
クライブは、確かにイケメンだ。十人中十人の女が、イケメンだと答えるだろう。間違いなくかっこいい。だけどそれだけだ。公爵の血が取り柄で、ほかはなんにも出来ない。魔法が得意らしいが、見たことがない。唯一出来るのは、人への嫌がらせくらい。
「今日のご予定は? お食事をご一緒したい」
「マリア。今日の予定は?」
マリアは、私の後ろにいる専属メイドの名だ。
「エルティシア様の今日のご予定はいっぱいです。明日ならば昼食時が空いています」
マリアが余計なことを言う。明日も明後日も、私がクライブに当てる時間は空いていない。なぜこの男の相手をしなければならないのか。
「そうでしたか。では明日のお昼、また伺いましょう、ではこれにて!!」
カッコいいとでも思っているのか、マントを肩に引っ掛け、颯爽と去っていく。うん、気持ち悪い。
そんなクライブに、メイドのマリアは頬に手を当て顔を赤らめている。
うげぇ。私はああいうの好みじゃないの。私は、普通の人がいい。飾らず、誰に対しても平等に接する人が良い。女の尻ばかり追いかけ回す人なんて、嫌い。夢を追いかける人が好き。
クライブが去って行ったドアを見て、大きなため息をつく。
はぁーあ。なんであんなのと私が……。私は深いため息を吐き、マリアに冷たい水を頼んだ。
「かしこまりました。今新鮮なお水を汲んできます。少々お待ちを」
マリアは礼をして部屋を出て行った。井戸から水を汲んでくるようだ。
マリアがいなくなり、私は気分を入れ替える為、部屋のバルコニーに出る。
空は、嫌味なほど晴れていた。青い空がまぶしかった。
私は城の上空を飛ぶ、鉄竜騎士団を見た。
綺麗に編隊飛行し、優雅に舞うワイバーンたち。気持ちよさそうに空を飛んでいる。
ああ。私も男だったら、竜騎士に成れたのかな。
きっと、誰が言わなくても目指したと思う。これでも私、魔法と剣は得意なのだ。きっと竜騎士を目指したに違いない。
大空を飛翔するワイバーン。帝国の鉄竜騎士団。私は不可能な夢を抱いて、彼らを見た。
空を飛ぶのは、どんな気持ちなんだろう。気持ちいいのかな。怖いのかな。
姫という立場にある私は、一生拝むことのない世界。きっとクライブの妻になって、好きでもない男の子供を産むんだ。帝国の歯車となって。
考えると涙が出る。逃げることは、出来ない。
私には、翼がないから。
空をずっと見上げていると、ワイバーンよりも大きな飛竜が見えた。なんだあれは。ワイバーン、じゃない? 他の飛竜? 他国の飛竜かしら? なぜ城の上空を? しかもワイバーン隊を威嚇するように飛んでいる。
見たこともない飛竜は、とても大きく感じた。遠目からだったが、ワイバーンの二倍、いや三倍は大きい。飛んでいる速度もワイバーンよりもずっと速い。帝国のワイバーンがまるで追いついていない。
「すごい。あんな飛竜がいるんだ。あれにはいったい誰が乗っているんだろう」
私は空をずっと見上げていた。
巨大な飛竜は鉄竜騎士団をあざ笑うかのように飛んでいる。帝国の竜騎士がまるで赤子扱いだ。
「敵国の斥候? 偵察隊? なんだろう。分からないけど、あの飛竜、すごい」
ぜんぜん、ワイバーンが追いついていない。
するとその飛竜、突然城に突っ込んでくる。ものすごい速度で急降下してくる。
敵国の飛竜? まさか私を!? 捕まえて! 私はここにいるわ!
夢見がちな少女よろしく、私はバルコニーから空に向かって両手を伸ばした。
もちろん。その飛竜は急停止したのち、どこかに飛び去ったけど。
「エルティシア様。冷たいお水を汲んできました。グラスにお注ぎしますので、こちらへ」
メイドのマリアが帰ってきたみたい。
「今行きます」
私はバルコニーから部屋に戻ろうとした。その時、足元にとある物を見つけた。
「カード? なにこれ」
私は見たこともない金色のカードを見る。
「冒険者証? ランクZ、マサト・シノノメ?」
マサト? 冒険者?
これって、冒険者ギルドの高ランクカードじゃないの?
私は空を見た。先ほどの飛竜が飛んで行った空を。
これって。まさか。
さっきの竜に乗っていた人が、落とした? 嘘。
「エルティシア様?」
マリアが私を呼ぶ。
「ええ。今行きます」
この部屋のバルコニーは、私だけの空間だ。誰も入らない。
冒険者カードが落ちているはずがない。考えられるのは、さっきの飛竜に乗っていた人。
マサト、ね。
うん。
ついに来たわ。
私の王子様。
まとめに入ります。上手く締めくくれるかはわかりませんが、あと数万文字おつきあいください。




