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説明回です。ブックマークが増えていますが、過度な期待は禁物です。
帝国の初代皇帝は、ダンジョン攻略者だった。
魔物や亜人を仲間にして戦う、勇者だったのだ。
世界を破壊し、飲み込もうとする巨大なダンジョン“星食い”
一時期、本当に世界が終わるところだった。魔の楽園になるところだったのだ。その世界の終わりを食い止めた者が、初代皇帝である。星食いを攻略した人間であり、帝国の祖でもある。
連綿と続く帝国の歴史に、永遠と名を刻む初代皇帝。その後皇帝は魔人戦争に勝利し、冒険者ギルドを創設し、ダンジョンで得た“シティーコア”から莫大な富を産み、人々を導いた。まさにおとぎ話の英雄。伝説の勇者。今も絶大な人気を誇り、数百年たった今でもファンは多い。
現在、初代皇帝の墓は冒険者ギルドのホールに安置されている。冒険者が道に迷った時、自分の墓を見て、奮い立ってほしいからだ。
初代皇帝は今も皆の行く末を見守っている。
ここ、ギルドマスターの部屋にも初代皇帝の像が置いてある。これ見よがしに、巨大な像が置いてあるのだ。
「マサト君。儂にサインを書いてくれんかの?」
「はい?」
「いや、これから英雄になる男のサインが欲しくての。孫に自慢したい」
「はいぃ!?」
★★★
俺は今、ギルドマスターの執務室に来ている。ソファーに腰掛けているのは俺とカナル、ぶー。向かいに座るのはギルドマスターのじいさんだ。
じいさんは高ランク冒険者にしか渡さないカードを、俺に寄越した。聞くとそのカード、冒険者の位置情報と、簡易的な文字通信が出来るらしい。俺が冒険者ランクZになったから、作ってくれたらしい。カードには様々な機能があるのだが、一つ面白い機能があった。
どんな職業が自分に合っているのか、どんな才能があるのか、簡単にわかる機能だ。
カードに魔力を込めると、ふわっと光る文字が浮かび上がった。
あなたが就くべき職業
第一位“ダンジョンマスター”
第二位“ダンジョンマスター”
第三位“奴隷王”
第四位“皇帝”
第五位“魔王”
って、ちょっとまてぇい!
ダンジョンマスターですらおかしいのに、第三位の奴隷王ってなんだ!! その次の皇帝ってのもおかしいぞ! 一般人の俺が成れるわけねぇだろう!! それになんだ魔王って!!
俺は激しく憤った。このカード、破り捨ててやろうか! ふざけんな!
俺が眉間に皺を寄せていると、ギルドマスターのじいさんは俺からカードを奪った。ひょいっと。
「何が書いてあったんじゃ。見せてみぃ。これでもソードマスターと炎術士を極めておる。儂にもアドバイスくらい出来る……じゃろう……て? ……ん?」
じいさんは俺の適正職業を見て、目が点になった。
「なんじゃこれ? え? ダンジョンマスター?」
固まって動かなくなるじじぃ。その後にぷるぷる震えだして、こう言った。
「なんじゃこりゃぁあああああ!!!」
うるせぇくそじじい! 騒ぐな! 大事になるだろ!!
じじいは「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」とぐるぐる回りだす。
頭を抱えてグルグル回るじじい。じじいはグルグル回りながら、突然「はう!」と言った。なぜか股間を抑えている。
じじいはトイレに行くと部屋を出て行った。
しばらくして部屋に帰ってきたとき、じじいのズボンが変わっていた。
まさか。
考えたくないが、ダンジョンマスターに驚いて失禁したらしい。ズボンを変えて戻ってきやがった。なんてくそじじいだ。
それからじじいは手帳を俺に渡す。万年筆を机に置くとこう言った。
「マサト君。儂にサインを書いてくれんかの?」
「はい?」
「いや、これから英雄になる男のサインが欲しくての。孫に自慢したい」
「はいぃ!?」
とんでもないクソじじいである。これが歴戦のギルドマスターなのだろうか? 泣きたくなる。
その後じじいにはサインを書いてやった。お主は英雄の器だとかなんとかしつこいので。
「お主のダンジョンマスターの件、黙っておいてやる。当たり前じゃがな。それとオリハルコンミリピードじゃったな? 後で専門家に聞いておく。しばらく待っておれ」
俺は嫌だったが、また借りを作ってしまった。ギルドには借りを作りたくないんだがな。あとはリッチのマントを売って得た、6億シリルをもらった。これで当面の生活費と魔物の購入資金に充てられる。両親が引っ越してくるから、飛空艇の改装も必要だしな。金は多いに越したことはない。
「一つ言っておく。お前さんに渡したカードは初代皇帝の遺産じゃ」
「なに、遺産? それって大変な物なんじゃ」
「シティーコアから年に数枚作れる、貴重な品じゃ。その品は嘘をつかん。アーティファクトだからじゃ。 もしお主がダンジョンマスターなどと知られてみろ。世界の敵になるか、英雄になるかのどっちかじゃ。まったく、信じられん男じゃ。最高の冒険者ランクでは足らんか」
世界の敵だと? 英雄? 極端すぎだろそれは。俺に取っちゃ不可抗力だ。もう知らん。
俺とギルドマスターがそんな話を長々としていると、俺の横でカナルが泣いていた。
「ど、どうしたんだカナル」
「マスターはやはり最高のお方です。ダンジョンマスターは伝説の存在。さらに英雄にもなれるなんて、すごすぎます!!」
「ぶぶぅうう!」
「…………」
さ、魔物商人とこに行こう! 面倒なことは考えたくない!
今回はアイリちゃんは連れてきていないし、討伐依頼はまた今度でいいだろう。ちなみにアイリちゃんは、倉庫街近くの小さな牧場に預けた。飛空艇内の牧場部屋は魔素濃度が高すぎる。アイリちゃんには毒になるからな。
俺はギルドマスターに挨拶し、ギルドを後にした。
★★★
俺たちは馬車に揺られ、スライムのぶーを買った魔物商会に到着した。帝都の中央区から少し外れるが、馬車で15分の距離だ。それほど遠くない。
「やぁ、また来たよ。俺を覚えているか? グラビントンスライムを買ったマサトだが」
「おお! あの時の! 覚えていますよ!」
豚商人はあいかわらず豚だった。腹がでっぷりと出ている。
豚商人がオーナーだからか、商会の建物も汚い。奥に魔物牧場があるが、草がぼうぼうで手入れが行き届いていない。従業員の数も少なそうだ。本当にこれで帝都一番の魔物商人なのか? 嘘じゃないのか?
そういやこの豚商人。名前は「ピルグ」というらしい。名前までなんか豚っぽくて、少し哀れに思った。
「マサト様。今回はどのような魔物をお買いに?」
「今回も珍しいスライムが欲しい。それと、ドラゴンが欲しい。用意できるか?」
俺はアポもなしに急に来て、用意もしていない豚商人に無茶を言ってみた。
「ええいますとも! あれからまた来店されるだろうと思い、スライムは用意しておりますよ! ドラゴンですが、うちが仕入れたドラゴンでよければいますが、見ますか?」
用意が良いようで、ちゃんと魔物がいるらしい。
ピルグは腹をタプンタプンと揺らし、俺に近寄ってくる。なんだか体臭が臭いので、それ以上近寄らないで欲しい。
「ぶーはどんなスライムが仲間に欲しいんだ?」
「ぶぅぶぅ」
「ホーリー系のスライムか、メタル系のスライムが良いと言っています」
ホーリー系? メタル系? 帝国語で言ってくんねぇかな。俺にはスライムのことはよく分からんのだ。
「ホーリー系ならいますよ! ホーリーメタルはさすがに無理でしたが、通常のホーリースライムならいます! ちなみに、ドラゴンはランドドラゴンがいます。見られますか?」
ランドドラゴン! 聞いたことがある。確かかなりデカいドラゴンだ。高レベルのランドドラゴンは山のように大きくなるが、普通は馬の三倍程度の大きさらしい。大人しく、人に慣れやすい種だったはずだ
「そうだな。とにかく見せてくれ。カナルとぶーもいいか?」
「もちろんです!」
「ぶぅ!」
「よろしいようですな。ではこちらです」
俺たちは豚商人の案内で、魔物がいる場所に向かった。




