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18.5

 俺はリザードマンのザイツだ。


 ダンジョンでは主に斥候、前衛をこなしている。リーダーには竜人のカナル様が務めておられる。


 普段は飛空艇での掃除や機械メンテナンスを、エリーシャ様の下で働いている。


 マサト様は“タイムカード”なる物を用意して、朝9時になったらタイムカードで打刻しろとおっしゃった。作業終了時間は夜の5時で、そこでもタイムカードを打刻しろと言った。


 時間外作業は超過勤務となり、手当てを出すとのことだ。


 俺はそこまでやる主人は出会ったことがない。俺たちを人間扱いしてくれる主人は初めてだった。


 しかも休みをくれる。奴隷の俺たちは休みがないはずなのに、休みをくれるのだ。素晴らしい主である。

週休二日とのことだ。休みは働いてもらった給料で、好きに生きていいとのことだ。金を貯めて自分を解放しても良いとおっしゃった。すごいお方だ。


 俺はマサト様に一生ついていくと決めた。


 ならば俺は強くならなければならない。カナル様やエルザ様ほど強くなるのは、残念ながら無理だ。いかに鍛えようと、リザードマンの身体能力は高くない。魔法も水魔法以外得意じゃない。まれにドラゴンに進化する奴もいるが、滅多にいない。俺には厳しいだろう。


 俺が出来ることと言えば、斥候としての技術を身につけることだ。


 索敵能力や罠の解除などだ。地図の作成能力もいいだろう。俺はマサト様の為、最終的には自分の解放を目指して頑張ると決めた。


 そんな俺は休日に倉庫街に向かった。本屋に行くためだ。斥候の技術書が欲しい。


 俺は気分よく倉庫街を歩いていた。途中で串焼き屋を見つけたので、少し無駄遣い。


 何事もなく本屋に到着し、目的の物も手に入れられた。俺は奴隷で差別される種族だが、店に入っただけで警官隊や騎士団が来ると言うことはない。金さえ払えばきちんと商品は買えるのだ。


 欲しいものを手に入れた俺はこのまま帰ることにした。歩きなれた倉庫街。問題なく帰れるかと思われたが、俺はそこで嫌な物を見つけてしまった。


 奴隷が売っていたのだ。


 それも、同族だ。裸にひん剥かれ、鎖につながれたリザードマンが立っていた。見ると、まだ少女だった。他に奴隷はいなく、一人しか売られていない。どういうことだろうか?


 売られている場所は露店で、通路に布が敷かれ、魔道具の類がたくさん並べられている。その並べられた魔道具のわきに、おまけのように少女は売られていた。


「店主、コノリザードマンダガ、ドウシテ、ヒトリナノダ」


 俺は片目のない、ガラの悪い店主に聞いてみた。 


「何だてめぇは? リザードマン、だよな? 客か?」


「キャクダ。シツモンニ、コタエロ」


「ずいぶん偉そうなリザードマンだな。まぁいい。このリザードマンのガキは、俺が捕まえた奴隷よ。ダンジョンで一人になってうずくまっていた所を助けたのよ。聞くと主人はダンジョンで命を落としたらしい。地上に帰れなくなっていたんで、俺が捕まえたんだ」


 いやらしい笑みを浮かべる店主。どうやらこいつは冒険者で、ダンジョン攻略者のようだ。この子は運悪く主が死亡し、さらにこの冒険者に捕まったということか。


 それにしてもこの冒険者、なぜ少女を裸にして売り物にする。服くらい着せたらどうだ。それにガリガリだ。食事はとっているのか? 


 俺は少女を見るが、うつろな目をして何も言わない。


 俺は今すぐこの店主を殺し、少女を助けたくなった。同じリザードマンというのもあるが、裸でこんな往来の場所に立たせるとは許せん。見ればまだあどけない少女。俺はこの心無い店主を切り殺そうかと思った。


「買うんなら、150万だ。安いだろ? どうする?」


 150万。ダメだ。まだ買えない。マサト様はとてつもなく金払いの良いマスターだが、さすがにまだ150万は貯まっていない。俺ではこの子を買えないし、救えない。何より自分は奴隷だ。奴隷が奴隷を買ったら、マサト様はどう思うだろうか?


 俺が黙っていると、店主は言った。


「買えないんなら、他をあたりな」


「テンシュ、イツマデココニイル」

 

 露天商は一か所にとどまらない。明日にはいなくなっているかもしれない。そうするとこの少女は助けられない。


「明日にはここを出るよ」


 ダメだ。この少女は諦めるしかない。ギルドで金を稼ぐ時間もない。


「突っ立ってるんなら、ほかの客の邪魔だ。帰ってくれ」


「…………」


 俺は自分の無力さが悔しくなった。昔からそうだった。兄弟や両親は、ダンジョンで皆死んでいった。誰も助けられなかった。友や恋人もいたが、同じく助けられず今に至る。


 いくら良いマスターに恵まれても、俺はまだまだ無力だったのだ。


 俺は騒ぎを起こすことは出来ない。マサト様の顔に泥を塗ることになる。奴隷仲間に金を借りる事も、頼みづらい。俺は少女を諦めるしかなかった。

   

 俺はトボトボと、飛空艇に一人で帰った。仕方ないことだ。今の俺には何もできない。


 もっと力をつけないと。自分を奴隷から解放しないと。


 しょんぼりして帰ると、飛空艇のボディをせっせと磨いているマサト様が見えた。


「おう、おかえり」


 マサト様はさわやかな笑顔で俺に挨拶をしてくれた。いち奴隷にまで声をかけてくださるとは。なんたる優しい方だ。


「どうしたザイツ。魔力が濁っているぞ。嫌なことでもあったか」


 なんとマサト様は、俺が纏っている魔力の色さえ言い当てた。魔力は気分で威力と色が変わるというが、実際に見れたりする人はほとんどいない。


「イエ、トクニ、ナニモアリマセン」


 俺はごまかすが、マサト様には通用しない。


「いいから言えって。お前たちの心のケアも、俺の仕事だ」


 おお。なんと言うお方だ。涙が出る。


 俺は先ほどあったことを包み隠さず伝えた。するとマサト様、血相を変えた。


「何で早く言わないんだよ!! んなこと聞いちまったら、助けなきゃいけないだろう! 俺は昔とは違うんだ! 助けられるなら助けるよ!!」


 マサト様は自室から大金を持ってくると、俺の腕をつかんでさっきの露天商まで連れて行かれた。


 露天に着くと、まだ店主は店をたたんでいなかった。相変わらずリザードマンの少女は全裸で立っており、見るに堪えない。

 

「おいクソ野郎。そこの女の子になんて格好させてやがる」


 マサト様はマジ切れだ。


「なんだてめぇは? 俺のもんなんだ。好きにしていいに決まってんだろ」


「奴隷は物じゃない。大切に扱え!」


「うるせぇな。他の客の迷惑だ。とっと消えてくれ」


 マサト様はその言葉に殴りかかる寸前だが、思いとどまったようだ。


「150万だったな? これで文句ないだろう」


 マサト様は店主に金を放り投げ、少女の拘束具を素手で断ち切る。分厚い鋼鉄の鎖が、まるで紙のように切り裂かれる。マサト様はやはり桁違いなお方だ。


 鎖が斬られたことで、少女は支えを失ったようだ。電池が切れたように倒れた。俺はすかさず少女を抱きかかえる。


「お前、今度奴隷にこんな真似をしていたら殺すからな? 覚えとけよ?」


 マサト様は店主に捨て台詞を吐く。


 露天商の店主は、マサト様の剛腕にビビりまくっていた。素手で鋼鉄の鎖を斬るとか何者だ。もしかすると店主は、マサト様を高ランク冒険者だと思ったのかもしれない。  


「ザイツ。この子はお前が面倒を見ろ。お前が助けたんだ」


 え? 俺は何もしていない。マサト様が全部やったのだ。


「お前がこの子を見つけなければ、俺は動かなかった。お前が助けたようなものだ。だからお前が面倒を見るんだ」


 うぉぉお。さすがマサト様だ。なんという慈悲深い方だ。俺はマサト様への忠誠をさらに強固にした。


 ちなみに、助けられたリザードマンの少女は、飛空艇で手厚い看護を受けた。ガリガリだった体は見る見るうちに健康を取り戻し、美しい姿を取り戻した。


 少女の名は「マチルダ」。俺を「お兄ちゃん」と呼んで慕ってくれた。


 俺はマチルダとマサト様に誓った。俺は強くなる。リザードマンの中で誰よりも!!



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