15
今俺たちはリザードマンを除いた全員で、街に繰り出している。必要な物を買うために。ギルドに行くために。
俺とミノタウロス6人。カナルとエルザ、エルフのエリーシャ。大所帯で街の中を闊歩する。
のっしのっしと、俺は奴隷たちと一緒に街中を歩いている。一般市民は、俺たちに近寄りたくないのか、道路の端っこを歩いている。
「なぁ主よぉ。なんでみんなあたしらのこと見て逃げるんだ?」
「…………」
しまったと思っている。
少し考えればわかることじゃないか。どんな金持ちも、ここまで奴隷を見せびらかすように歩いてはいない。例え奴隷と気づかれずとも、あいつらはなんだと、そう思うはずだ。
滅多に見れない竜人と、美人のエルフ。加えてミノタウロス6人だ。これで人目を引かない方がどうかしている。
浅はかだった。前回のリザードマン達との買い物時も、少なからず人目はあった。もう少し周りを見るべきだった。
そんな俺たちは街中を歩いていると、小さな子供が指をさして言ってきた。
「ねぇ、おかーさん。あの人たちなにー? お祭りなのー?」
「シッ! 見ちゃいけません!」
うわぁ。まさか俺がそんなことを言われる立場になるなんて……。
これは明らかに目立っている。リザードマン達ですら目立ったのに、こんなやつら連れて歩けばいろんな事件に巻き込まれる。
早いとこ用事を済ませて帰るべきだな。
「カナル。二手に分かれるぞ」
「え? あ、はい。何人ずつに分かれますか?」
「俺は一人でギルドに言ってくる。君らはこの金を持って服屋と武器屋、食料品を買ってくるんだ!」
ザ・丸投げ!
「え!?」
持っていた大金をカナルに無理やり押し付ける。後は頼んだ! 自分でも思うが、我ながらひどい奴である。
「こんな大所帯で、主人がいなくていいのかよ?」
このまま走り去ろうとしたところで、エルザが的確な突っ込みを入れてきた。なんて奴だ!!
「警官隊に捕まらなければ大丈夫だ!」
「おいおい、無責任な野郎だな。それでも主かよ」
その言葉、お前にだけは言われたくないぞ!!
「マスター、でも私たちだけではエルザの言うとおり……」
「カナル、みんなを連れて買い物に行ってくるんだ! 命令だよ!? 誰とも喧嘩せずに帰ってくるのがリーダーとしての任務だ! そうだ、俺の腕時計を貸そう。この針が上を向くまでにここに集合だ。いいね!」
カナルの両手をギュッと握って、腕時計を渡す。両手を急に握られたカナルは、パッと頬を朱に染めた。
「ちょ、え? あ、はい!」
テンパったカナルは無理やり「はい」と言った。
俺はギルドに素材を売りに、走り出す。
後ろの方でカナルの「あっそんな!! 待ってください!」と聞こえたが、俺は振り返らない。
大丈夫さ! なんとかなる! 最悪警官に捕まったらしょうがない! 助けにいくさ!
★★★
俺はギルドに到着した。
すぐに買取カウンターの列に並び、俺の順番が来た。
今俺は、買取カウンターの前に立っている状態である。
素材の売り買いは冒険者登録なしに出来る。ダンジョンに入るのも、冒険者じゃなくても良い。
魔物の素材は誰でも売り買い出るのだ。カウンターに売りに出すのも、俺みたいなやつでも問題ない。問題ないはずなのに、何か足止めを食らった。
「お客様。この素材はどこで?」
買取り係の可愛い女子が、震えながら喋った。プルプルぷるぷる震えている。
「いや、ダンジョンで手に入れたけど」
「階層は?」
「…………」
これって、正直に言うとめんどくさい奴か?
「お客様、ダンジョンの地下何階ですか?」
「500くらい、だったかなぁ……。よく覚えていないな!」
本当は300だが、知らないふりをした。
「500ですって!? そんなところにリッチがいるわけないでしょう!! 「ガイア」と「カオス」のダンジョンに存在しているのは確認できています。しかし竜のアギトではもう何十年も出ていません! 最高深部の800でも、確認されたのはずっと昔! もしそれが本当なら、王都に災害が発生します!!」
買取の美人さんは、急に怒り出した。
これってば、まずい奴だ。
俺は魔物の危険度を知らない。価値もよく分からない。俺は買取り係に嘘を言って、バレてしまったようだ。そういやリッチって、数十年に一度、人間の前に現れるかどうかの敵だったか? ここ最近平和だから分からんな……。
「お客様の言葉が信じられません」
受付嬢はプンプンしている。
「ここは買取所だろ? 俺のことはどうでもいいはずだ。さっさと買い取ってほしい」
「リッチの骨は禁制品です。しかるべき施設でしか使用できません。ここでは買取不可能です」
なんだと!! やっちまった!! カナルも知らなかったのか!? クソ!!
「話しがありますので、個室にお願いします」
「なんだって?」
受付のカワイコちゃんは俺の腕をつかんで、無理やり連行した。
うわぁああああ、勘弁してくださいぃいい!!
★★★
「ギルドマスター。この人です」
俺は尋問室みたいなところに移送され、「お巡りさん、この人です!」みたいに言われた。
簡素なテーブルの向かい側には、これまた強面のおじいさん。
この人がギルドの一番偉い人らしい。しわくちゃの顔だが、そのしわの一つ一つに、深い歴史が刻まれている気がした。このジジイ、めっちゃ強いぞ。多分。
「ふうむ。ほうほう。そうかそうか」
爺さんは長いあごひげをさすりながら、好々爺の顔をした。
優しそうだが、目が笑っていない。
「えーと、一体俺が何をしたんですかね? 帰りたいんですけど」
「帰れるさ。質問に答えればのぉ」
「質問ですか?」
「そうじゃ。質問だが……、リッチの前に聞かなかければならないことがある」
爺はそういってあごひげを撫でた。
「それはどんな内容ですか?」
「ほっほっほ。なぁに、簡単なことじゃよ?」
爺は俺の顔をじっと見てくる。何かすべてを見透かされているような瞳だ。
「短刀直入に聞こう。お主、レベルの限界を超えたな?」
ぴょ!?
「ほっほっほ。若いのぉ。すぐに顔に出よった」
な! なんで分かったんだこのジジイ!!
「ハイヒューマンか。王都で現れるとは、珍しいの」
ハイヒューマンまで知っているのかよ。くそ。この爺さんに嘘は無駄だな。
「知っているなら隠すことはないな。だったら聞きたい。爺さんはハイヒューマンを知っているのか?」
「冒険者クラスZになれるやつが、ハイヒューマンじゃ。限界を超えし者と言われておる。王都所属のギルドには、一人だけいるが、今はこの国にいないでの」
冒険者クラスZ? どこかで聞いたことがあるが。どこだっけ?
「昔はいっぱいいたらしいが、今は数えるくらいしかいない。このわしもとうとうハイヒューマンにはなれんかった」
このめちゃくちゃ強そうな爺さんでも、ハイヒューマンにはなれないのか。
そうか。
うむ。
…………。
……。
ごめんなさいぃいいいい!!
俺は詐欺なんです!!
たまたまリッチを殺してレベルが上がっただけの、ラッキー野郎なんです!!
俺自体の強さは対しことないです! 剣も槍も魔法も使えません!!
「深くは聞かんよ。見たところ、お主は善人そうだ。これでも儂は人を見る目は持っておる。ただ一つだけ忠告がある」
「な、なんですか?」
「帝都を滅ぼさんでくれよ」
滅ぼす? は? 何言ってんだ。俺がそんなこと出来るわけねぇだろう!
「お主のレベルは知らん。だが古のハイヒューマンなら、上位竜を遥かに超える強さだ。リッチの遺骸を持ってきたということは、お主が倒したんだろ? リッチはとてもつもなく強いでの。だからお主にお願いがある。癇癪を起しても、暴れんでくれよ。頼むぞ」
…………。
俺の強さは嘘で塗り固められています。
まぁ確かに身体能力は最強クラスかもね。だけどそれだけよ。あとにはなーんもありません。
「リッチの骨はわしの知り合いに頼もう。多分10億は軽く超えるだろう」
10おく!!
「売りさばくまで時間がかかるだろうが、必ず金はお主に届けさせる。リッチのマントは、伝説級の物だ。これも我々では取扱い出来ん。一番いいのはオークションだろう。これもわしの知り合いに任せるが、どうじゃ? あとな、商人の紹介手数料は特別に無料で良いぞ」
無料だと? 何か裏でもあるのか?
「ギルド側としてはな、お前さんに貸しを作りたいんじゃ。何かあった時の為にな」
「正直に言うんだな」
「別に隠すことでもないんでの」
爺さんはギルドマスターだし、リッチの骨とマントを預けても、多分大丈夫な気がする。上手く換金してくれるに違いない。一応そう思いたいが。
「念のため誓約書を書いてもらいたい」
「構わんよ」
「なら、あんたに任せる」
「おう、任された」
紆余曲折したが、商談はまとまった。後は金が入ってくるのを待つだけだ。
俺はさっさとギルド会館を出て、カナル達と合流したい。あいつらもあいつらで心配になってきた。
最後にギルドを出ていくときに、ギルドマスターが直接俺に言いに来た。
「素材は売れれば連絡しよう。それでよいかな?」
「ああ頼む」
「ほっほっほ。貸しは一つじゃぞ」
ちっ。めんどくさいことになったな。
俺はギルドマスターに貸しを作ることになり、その場を後にした。