14
俺は体を慣らすため、アイリちゃんとダンゴ虫君を見るため、牧場部屋にやってきた。
アイリちゃんは相変わらず愛らしい。ウモーと言って、俺の手をべろべろ舐めてくれた。
対してダンゴ虫君は、餌置場からまったく動かない。餌置場には、たくさんのフルーツ、肉、魔石などが置いてある。彼はそれをひたすらむさぼっていた。
「おいダンゴ虫君。俺の声が聞こえているか?」
彼は返事をしない。
飯を食いながらキューキュー言っているだけだ。
「ダンゴ虫君。君は何者だね」
「キュー」
うーむ。意味が分からん。飯を食い続けるだけだ。
つぶらな瞳と、せわしなく動く触角は可愛いのだが。ダンゴ虫らしく、足がワシャーっていっぱいあるのが気持ち悪いな。
「一緒に俺たちとくるか? 売られる方がいいか?」
一応聞いてみよう。
するとダンゴ虫君。俺の言葉に反応した。こっちを見る。彼の丸い瞳が俺をじっと見る。
「お?」
すると彼はお腹の方から触手をにょろにょろと出した。
「お、お? 触手?」
ダンゴ虫君は触手を伸ばし続け、俺の額にピトッと触れた。
『契約スル』
ピカッっと、触手が光った。ビリッと電気が走った。
「なんだどうした。契約だと」
『ご主人様。ご飯ちょうだい』
「え?」
『ご飯』
どうやら念話? ダンゴ虫君が喋っているようだ。少年のような声である。
「ご飯っておま、目の前にいっぱい餌あるだろう」
『ご主人様の魔力ちょうだい』
「魔力? どうやって」
『僕の手を握って』
触手が目の前で揺れる。これが手らしい。
俺はムギュッと触手を握る。とても柔らかい。
『あっはーん。すごぃいいい。この魔力すごいいい。うふーん』
エロッちぃ声が脳内にさく裂する。
「その声やめろよ。気色悪い」
『あひぃーん』
ダンゴ虫君はくねくねと体を動かし、丸まって寝てしまった。触手はだらりと垂れたまま。
うおーい。どういうことだこれは。説明しろ。ダンゴ虫!!
『ひん、ひん。あひぃ』
ダンゴ虫は口? から涎を垂らしているようだ。
うーん。イッタらしい。
よく分からんが、危険な生物ではないな。契約とかしちゃったみたいだし。売らずに放置だな。
俺はよく分からんまま、牧場部屋を出た。
★★★
俺は飛空艇内を歩いていると、カナルから声がかかった。
「マスターが倒されたリッチの素材はどうしますか?」
リッチ? 素材?
「リッチが残した素材、というよりも、骨とマントがあります。ボクもリッチについてはよく分かりませんが、多分相当な額になりますよ」
ほう。リッチの骨か。確か魔法資源になるんだっけか?
「んじゃ冒険者ギルドに売ってこようか。俺らじゃ使い道ないし。金もそろそろ補充しないと」
「分かりました。ギルドに行く準備をします」
カナルそういって立ち去った。
それから俺が飛空艇をふらふら歩いていると、次に声をかけ来たのは竜人エルザだ。
「よう主、ここにいたか。あたしはどうすればいい? 今いる部屋とかもどうすればいいんだ?」
あぁ。忘れていた。彼女の部屋、ミノタウロスやエルフお嬢様の部屋も用意しないと。やることは山積みだった。
「これからギルドに行くんだ。ちょうどいいからさ、街に一緒に行って、必要な物を買わないか? 服とかいろいろ必要だろう?」
「お? 買ってくれんのか?」
「いや、お金をあげるから、好きな物を買ってきなさい。いちいち俺が選ぶのは大変だ」
「え? 本気か?」
本気って、当たり前だろう。俺が女物の下着を選ぶのか?
「ずいぶん太っ腹だな。前の主人とはけた違いに親切だな」
「前の主人がどうかは知らん。ただお前たちが汚らしい格好をしているのは、俺が許さん」
「ああ、分かったよ。それと」
「なんだ?」
「武器が欲しいし、稽古がしたい。ダンジョン攻略するんだろ?」
武器か。そうだな。
「分かっている。用意するよ。稽古はそうだな、どうする……」
うお!! エルザからいきなり拳が飛んできた。鋭いパンチだ。
俺は最初に喰らったワカメのように避けるのではなく、一瞬でエルザの背後に回り込んだ。
「何すんだ!! 俺は主だぞ!!」
後ろからエルザを羽交い絞めにする。暴れられたらたまらん。
「なに!! いつの間に後ろに!!」
エルザは目を見開いて驚いた。驚愕、という表情だ。
「マジかよ。信じらんねぇな。今のを避けて後ろに回り込む打だと? しかも完全な不意打ちだったのに?」
そんなことを言っているんじゃない! 急に殴るとは何事だ!
「あんたのレベル、普通じゃないだろ。なんだか最初にあった時とは別人だ。底知れない魔力も感じる」
う。この女、俺のレベルに感づきやがった。さすが戦闘のエキスパート。殴ったのはそれを確かめるためか。俺はエルザに暴れないように言って、拘束を解く。
「いいか、俺の強さを確かめるつもりでも殴るな。もし当たれば、エルザが苦しい思いをするだけだぞ。主への攻撃は、倍になってお前に跳ね返る」
呪令印は伊達じゃない。奴隷への「隷属契約」はすごいのだ。
「知っているよ。だけど、呪令印は一時的なカットも出来るんだぜ? 主と稽古する時とかな」
ん? そんなことも出来るのか? 説明書を読もうかな。
「あんた、あたしより強ぇーかもな。初めてだぜ。男がこんなに強いのは。ふはは腕が鳴るぜ」
おいおい! 俺は一般人だぞ! 竜人と一緒にするな! 竜闘気だっけ? それを使えば上位ドラゴン並に強くなるんだろ? 俺がいくら高レベルでも無理だ。殺されてしまう。
「いいか、俺は弱いんだ。だから変な気は起こすなよ」
「あんたが弱いだって? 冗談も休み休み言え。伝説のハイヒューマンのくせして」
なん? はいひゅーまん? なんぞそれ。
「なにそれ?」
「は? 知らねぇの? お前みたいな人間を超えた魔力を持っている奴をハイヒューマンっていうんだよ。竜人よりも魔力が多い人間がいるわけねぇだろ。あんたは人間を超えてるよ」
ぴょ!? 人間じゃないの俺!?
「戦争時代、英雄と呼ばれた人間は皆ハイヒューマンだった。竜人よりも強い人間がいたんだよ」
「…………」
いやボクは違います。ただの詐欺です。
運よくリッチを倒したら、レベルの限界を突破しただけです。嘘なんです。
「とにかく、俺に不意打ちはしないように」
「分かったよ」
二カッと笑うエルザ。ボーイッシュで少年らしい笑顔だ。胸と尻がとんでもなく大きくなければ、美少年に見えたな。
「ミノタウロス君たちに伝えてきてくれ。彼らの自己紹介もろくに済んでいないし、一緒に買い物に行くぞ」
「おう、分かった」
エルザは笑って走って行った。
飛空艇の通路は走るんじゃない! お前の巨体だとぶつかったら壊れるだろ!
俺は思ったが、馬の耳に念仏だと思ってやめた。




