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俺はゴミ清掃会社に勤めてる、しがない一般市民だ。
ここ、ノア帝国の帝都は、三百万人の人が住んでいる。
大都会の為、ゴミの量もすごい。ゴミ清掃会社に勤める俺は、毎日魔牛車に乗って、ゴミ袋を回収している。ちなみに魔牛車ってのは馬車を改造した、ゴミ回収車だな。
この仕事はマイペースに仕事ができるのが魅力だ。給料は低いが。それに牛が好きだから俺はこの仕事をしている。決して楽だからこの仕事をしているんじゃない。
おっと、次のゴミ捨て場だ。袋を回収回収。
俺は次々に回収場所を回っていく。会社の魔牛「リチャード」と共に。
仕事が終われば、賃貸の平屋に帰るだけなんだが、俺は毎日の日課を欠かさない。
それは宝くじ売り場に言って、当選番号の確認と、新しい宝くじを買うことだ。庶民の、小さな夢を買っているんだ。
今日もハズレかぁって言って、新しい宝くじを買うんだ。社会人になってからは、毎日買っている。俺は今25歳だ。仕事を始めた15歳からずっと買ってるけど、大当たりは一向にでない。
子供時代に夢見たダンジョンで一発当てるとかも、大人になってみれば無理だと悟る。ひょろひょろの一般市民では命を懸けた戦闘など不可能。仕方がないのでこうやってリスクの低い宝くじを買っている。
俺は会社の仕事を終えて、ロッカールームで普段着に着替える。主任に挨拶して、同僚にも挨拶する。
「お疲れ様でした」
おう、お疲れ。と言って、先輩や主任、同僚は返事を返してくれた。
俺は会社の「駐牛場」に向かい、愛牛を取りに行く。まぁ、駐牛場って、いわゆる牛舎だけども。
ゴミ回収車を引いていたのは、会社の魔牛リチャード。俺の所有している魔牛とは別だ。俺のは同じ魔牛だが、一般人用に品種改良されたものになる。
名前はアイリちゃん。
いつも優しい目で、俺を背に乗せてくれる。俺には恋人はいないので、アイリちゃんが俺の恋人さ!
さて、今日も宝くじ売り場に行きますかぁ。行くぞアイリちゃん!
「うもぉー」
数分して、会社近くの売り場に到着。顔なじみの、売り場のおばちゃんがいた。
「おばちゃーん、この宝くじ、当選かどうか確認してぇー」
「あいよー」
顔見知りのおばちゃんが当選を確認してくれる。いつもの宝くじ売り場にいるおばちゃんである。
「そこのパネルにあたりかどうか出るから、見といてねー」
俺は当選金が確認出来る、モニターを凝視していた。
またハズレかぁ、と思って見ていたが、そこに表示された金額は。
「え?」
表示金額、10億シリル。
人間一人が、いや2~3人程度一生遊んで暮らせる金が、表示されていた。この10億シリル。使い方によっては、まったく働かず、死ぬまで生きていける金だ。帝都には娯楽がたくさんあるし、高額な商品がたくさんあるので、使おうと思えば、数か月で10億シリルは使えてしまう。しかし節約すれば、それこそ大家族ですら養えるだろう。
もう一度表示された金額を見る。
「ひょ?」
間抜けな声を出す俺。
「え?」
おばちゃんも表示された金額に呆然としている。めったに出ない金額だからだ。というか、ここの宝くじ売り場での高額当選は久しぶりのはずだ。確か10年は出ていない。
俺はもう一度モニターを見る。
10億シリルと間違いなく表示されている。
「あんた……、これ、高額当選だね」
「え? ちょ、ちょ、ちょっとまって! おばちゃん、これ、ウソじゃないよね?」
「は? これは機械がやっているんだ。それにあたしは偽のくじを使ってだましてもいないよ! 本当に大当たりだよ!」
「…………」
言葉が出ない。一瞬のうちに、俺の脳内が金の使い道を探す。走馬灯のように駆け巡る。
「ちょっと、あんた?」
涎を垂らし明後日の方向を向く俺に、おばちゃんは心配してくれる。
「うもー」
後ろの方で、愛牛のアイリちゃんが「帰ろうよー」と、鳴いているようだ。その時も俺の走馬灯は止まらない。
俺は思考加速する中で、突然脳みそがパンクした。壊れたのだ。
俺の頭の中は真っ白になった。
真っ白に、燃え尽きた……。