長めのプロローグ8
俺の「まず、この子に説明してもらおう」の言葉に妹の七歌は拗ねた顔になり女の子は”にぱっ“と 笑顔になった。女の子は、ウンウン、と頷き
「そうそう。さすが、お兄ちゃん。」
嬉しそうに言い、その横で七歌が、ぶつぶつ、呟やいていた。どうせ俺への文句だろう、と流して女の子に促す。
「…うん、セッツメーしよっ、とすると…ヴァァ、どうしようか……。」
女の子が片手で頭を掻きながら唸って眉毛を寄せた。その姿は、金髪の女の子がするには、あまりに違和感が大きい。
横目で見ていた七歌も苦い顔をしていて、おそらく俺と同じ事を思っているに違いなかった。
適当な言葉の使い方。
迷った時の態度。
司は、こんな感じだと。
「どっから行けば良いのかな。サイッショからだと、わかってくれるかな?」
「なら、この鏡から説明してくれないか?」
迷っている女の子に、こちらから問い掛けた。司は、こんな時は、いつまでも悩んでいるヤツだから話を進めたいなら聞きたい事を言った方が良い、と思ったからだ。
その上で確認もしたかった。
本当に、この鏡から出てきたのか、と。
そう、女の子は、この鏡から出てきたのだ。
鏡が淡く光った、と思ったら向こう側に笑顔の女の子が現れゆっくり大きくなり向こう側からこちら側に。
ゆっくりと伸ばされた腕が鏡を内側から押し上げ。
膨らんだ鏡が遂に限界まで伸びきり。
プツン、と音が響き。
ニュル、と鏡が戻って。
鏡からは白い肌の腕が生えていた。
生えた腕はやがて肩を連れて来て。
次に頭が生み出され。
次に体が。
次は足が。
最期に畳に降り立った女の子は俺の顔を見てニィッと笑い。
俺に飛び付いてきたのだった。
昔に見た事がある映画にテレビから長い髪の女性が出てくるのがあったが、初めて見た時はインパクトが有りすぎて夢にまで見た。それが現実になったら例え可愛い女の子であっても驚きより怖さが先に立つ。
その事を俺は身をもって知った。
女の子に飛びつかれた時に「死んだ。」なんて考えたぐらいに。
「七歌はさっきのを見ていないし、俺も説明して欲しい。」
女の子はまた、にぱっと笑い頷いた。
「なら、繋がったままだから、鏡を見て。何が映っていると思う?」
そりゃ、俺の部屋だろう。
七歌もチラリ、と俺を見て部屋を見渡す。
畳も壁も色褪せた部屋。
鏡の正面にはメタルラックに置かれた黒のキレイなデジタルテレビが有り。
その両側には音質にこだわった木製のメインスピーカー。
メタルラックの上の方にはサブウーハーも置かれ、イメージは映画館の様に迫り来る”音“。
鏡を見た。
鏡から見て右手の方、と言えばいいのか柔らかな日射しがこぼれている。
日射しは白い石壁に反射して部屋全体を照らしていた。
石壁には複雑な模様の飾り布が掛けられて。
飾り布は、何処からか風が入ってきているのだろう僅かに揺れていた。
その風は部屋の中に置かれた無垢の木机に乗っている男の子を模した人形を椅子に落としていく。
俺と七歌は顔を見合わせた。
女の子が「鏡を見て」と言ったのだから何かを覚悟をしていた。
していた、つもり、だったが。
「おにぃ……ぅぅん。あんた、鏡にDVD見る機能つけたの。」
妹よ。只の鏡に、そんな機能つけられるか。