確執だらけのメインパート1
女の子になった司と叔母さんの初顔合わせは、あっさりと終わった。“女の子の司”と“息子の司”を同一視した叔母さんは目の前にいるのが女の子だと気づくと肩を落として悲しげな顔になった。
「司じゃないのね。」
そして、司に自分の子供が行方不明だと、その子供とそっくりな事を告げ
「…ごめんなさいね。息子と間違えちゃって。こんなに可愛い女の子に失礼よね?」
もう、ケンカしちゃダメよ。直樹さん、お姉ちゃんに今度、会いにいくって伝えてね。
言いながら背を向け去っていく叔母さんに俺は司の事を言いかけ、袖をひかれた。固まったように動かなかった司が袖口をひき首を振っていた。司は今はまだ、これで良い。と呟く。お母さんに信じてもらえるか、分からないから、これで良い。信じてもらえなかったら。僕。
小さな声で震えて言う司に俺も動きを止める。
結局。俺は、七歌も。司と叔母さんに言葉をかける事が出来なかった。
一晩明けた朝、司は七歌の子供の頃の服を着て鏡の向こう側に消えていった。何でも“聖女”としての“仕事”が有るのだそうだ。昨夜と違って明るい顔で戻って行った。
「司、ずいぶん明るくなっていたな。…七歌、ありがとな。」
同じ部屋にいた七歌が励ましたのだろう。俺が出来なかった事をしてくれた七歌に礼を言った。七歌は、ため息混じりに答えてきた。
「…別に。あんたに、お礼を言われるような事はしてないわ。」
翌日、俺は大学の2講目に出席する準備をしながら、司と叔母さんの事を考えていた。そこに司が鏡から飛び出てきた。
「お兄ちゃーん。」
司は床に飛び出み正座をすると両手を大きく振った。
「…どうした。司。」
「みんなが、大変なんだよぉ。」
「…司、どう大変なのか、教えてくれ。」
「大神官と大公家の一つが爵位を授けるって言ってるんだよ。」
「………。」
俺は机の上に置いておいた“餡をカステラ風生地で覆った食べ物”を何となく見た。俺は、こいつを大学の学食で食べるつもりだ。三個あるが味が違うから飽きる事は無いだろう。特に楽しみにしているのが抹茶餡のやつだ。甘さが控え目でちょっと苦いのがツボにはまって週一で食べている。今日は週一の楽しみの日……。
「お兄ちゃぁん。そんな分かりやすく現実逃避しないでよー。」
ガックンガックン揺すられ我に返った。
「ま、待て。…まてまてまてまて。」
揺すってる内に楽しくなってきたのかリズムを取り始めた司を抑え
「何がなんだか訳が分からん。最初から説明してくれ。取りあえずシャクイ?ってなんだ?それってなんで貰う事になったんだ?」
司は揺すりを止めると仕方ないなぁーとでも書かれていそうな顔で答えてきた。
「シャクイは爵位だよ。男爵とか伯爵とかの貴族の段階の事で、」
司はここで言い淀み
「貰う理由は、貴族の見栄と陰謀、かな。」




