長めのプロローグ15
俺と妹の七歌は家から裸足で出ていった司を追いかけていた。
司は、あまり感情を爆発させる事が無かったのだが流石に普通の男子小学生から金髪の美少女に変えられ、家族と離ればなれになり、やっと帰ってみれば時間のズレが有り、あげくに家族も思い出の場所も無くなってしまいそうだ、と聞いたら。
限界を越えて当たり前だ。
逃げたくなって当たり前だろ。
父さんは隠さなかった。
ぼかして伝える事もしなかった。
父さんも“異世界”とか、あり得ない話しを受け入れかねて混乱していたんだろうけど事実を教えた。
そして司は裸足で逃げる程、動転して。
だから玄関からではなく居間から直接、外に飛び出て。
嘘をつかないと知っている父さんの言葉を信じられなかったんだろう。
-少しはぼかせよ。
もう少し出し惜しめよ。
慌てすぎだ。ゆっくり教えても良かったろ。なんで一気に行くんだよ。
司の両親が離婚の危機である事。
俺達、親戚とすら話しをしない程、心を閉ざしてしまった事。
たださえ重い話しなんだから、一個づつで良かったと思います。
ただ、父さんは司に憎まれる厭な役割をあえてしてくれた。
俺達なら司を落ち着かせる事が出来ると信じて。
叔父さんと叔母さんと司は俺にとっては理想の家族に見えていた。小太りで優しい叔父さんは何事も笑っていなし。良く言えばスレンダーな叔母さんはなにか、ドジな事をしては誤魔化し笑い。司は二人を見ながら甘えたり怒ったり、そして笑っていた。
よく司は家族の不満を愚痴っていたが、俺から見たら何時も笑っていて眩しいくらいで。司が羨ましかった。
あの日、一晩中、司を探した叔父さんは俺が初めて見た強張った顔で警察に連絡して、泣き出した叔母さんを慰めていた。警察が来た後、俺は追い出されたから分からないが、かなり悔しい思いをしたらしい。そんな思いをして探したが1週間たち、2週間たち。この頃には報道関係者も取材という暴力を振るっていた。
近所に拡がる噂話。
まるであり得ない、男好き扱い。
学校での評価。
クラスで孤立しているとか、苛められたとか。
自殺を仄めかす報道が流れた時は殴りに行こうとして七歌に先を越された。この時は『行方不明少年の隣人、報道関係者に暴力。少年にも日常的に暴力か?』て報道されていた。
1ヶ月が過ぎた辺りから報道がおかしくなった。テレビの向こうでは、なにも知らない人達が笑顔を交えながら、家族のコミュニケーションが取れていない、家族の管理責任が無い、親と子供の溝が……。好き勝手な事を言い始めた。
その報道を真に受け叔父さん、叔母さんに冷たく当たり始めたご近所さん達。
半年も過ぎると怪しい団体が来るようになり、1年が過ぎる頃には叔父さん達はマンションから追い出された。
勿論、ご近所さん達の運動もあった。けど、仕事もしないで司を探していた叔父さん達にはマンションのローンを払う事が出来なくなり自己破産していたのだった。この頃には、叔父さんは黙って暗い目をして、叔母さんはもう笑わない処か俺が会いに行っても、姉である母さんが行っても話しすらしない人達に変わってしまっていた。
そして、この頃の叔母さんを取材した報道関係者は
「このような母親が、それを見て見ないふりをする家族が、帰ってこない子供をつくるのです。」
追い詰められ疲れきった叔母さんをそう評価した。なにも知らない報道関係者は正義の言葉を使って気持ち良さそうだった。俺は、俺と家族は、それ以来テレビを見ていない。
司がいなくなってから3年。
長かった。
俺達が待ち疲れ変わってしまうくらいに。




