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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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戸惑いと裏切りと5

 赤谷が持つ下位爵位である男爵には大き過ぎる、この領地は“魔王軍”に滅ぼされた元公爵領だそうだ。ただ、“魔王軍”によって徹底的に壊された街や潮を撒かれ草木の生えない荒涼とした大地が広がるだけの土地は、日本の技術を使っても復興まで数年かかる筈だった。

 しかし、司と共にこの領地に来てから数週間で塩害に潰された土地は青々とした稲が広がる水田となり、廃墟となった港町はその姿を大きく変えて海を臨む墓地公園となっていた。

 すべては、紫さんが“魔法”で操るゴーレムの群れが不眠不休で作った新たな光景である。

 水田は、これから連れてきた難民達が管理していすく事になるだろうし、難民が数千単位でやって来ても住む場所は余る程だ。

 そんな急激に変わってしまった光景は、感情をコントロールする事に()けた貴族をしても。


「……これは……!」


 公爵家の息子は唖然と呟き、言葉を無くして立ちすくむ。


「お兄……サマの仕業です。」


 さっきまでむくれていた司が、胸を張るようにして誇らしげに言うが、俺のした事と言えば計画をしただけである。その計画も、機材を整える為に一旦帰った苺さんと練り込んだ訳だし、何より秋の収穫しだいでは「赤谷(勇者)の失態」と言われるのだ。豊作かそれに準じた収穫量を確保しないと赤谷達が貴族に嘲笑われる。すでに司を助ける為という事情はなくなったけど、神殿で蒼井さんと話し合った結果、蒼井さん達が住む場所を守るためには赤谷が貴族をしているこの領地で成果をあげて、国と貴族への発言力を高める必要があるのだから気は抜けない。

 この数日、妙に馴れ馴れしく俺に貴族のアレコレ(慣習)をレクチャーしていたアレクは茫然自失といった姿のまま平地になだらかに広がる水田と点在する集落、そして新たにかけられた巨大な橋の袂に作られた街を見ていた。

 特に、首都高にも匹敵(ひってき)する高低差のある巨大な絡まった13の橋。その橋大陸側の入り口には、面積的には東京23区と同じ大きさの街並みが作られている。

 この地域には大小合わせて12の島々があり、その為に海流が複雑で外洋に繋がる好条件な位置にありながら船舶の出入りがしにくい残念な領地だった。しかし、ここは蒼井さんの“魔法”が冴え渡る。

 司と街跡の廃墟で亡くなった人達を見送った後、街跡を更地にして新しい街を作る計画を白紙に戻した俺に、普段は不機嫌な顔か無表情な蒼井さんが、珍しくウキウキして会いに来て


「居城は任せなさい。」


 と言ってきた。

 この時に、スルーしてしまったのだが「居城」。蒼井さんの言葉に、紫さんと同じくゴーレムを使って貴族らしい屋敷を作るんだ、と勝手に想像した俺は建設予定地に向かいながらフンフン鼻歌を歌い歩く蒼井さんに何となく胸騒ぎを覚えたが、聞こえてくるメロディーが何だったか思い出せなかった。しかし、蒼井さんと仲の良い司はニマニマした顔なのを見て嫌な予感が。


「あら? この曲、どこかで……。」


 俺と並んで歩いていた苺さんは、いぶかしげな顔をしてこめかみに指を当てて悩むそぶり。そして俺たちの前を歩いている妹の七歌が何かに気づいたように気迫のこもった声をあげた。


「あんた達、まさか!」

「……! 見て、始まったわ!」


 七歌の言葉に、苺さんも何かに気づいたようで嬉しそうに応える。何がなんだか分からない俺と一緒についてきた赤谷達の前で、ついに蒼井さんが歌詞を呟やいた。


ぜんぜん(少しも)寒くないわ。」


 その言葉は、めったにアニメを見ない俺がブルーレイまで買ってしまった大ヒット映画に使われた有名な言葉だった。


「ちょっ! まっ!」


 ちょっと待てと叫びたい俺の口は上手く動いてくれず単語のような叫びが出ただけで。半端に伸ばされた手は何も掴まず空を漂う。

 その手を優しく捕まえる手があった。

 見ると妹の七歌が俺の右手を抱きつくように捕まえている。

 左手が引かれて見ると苺さんが指と指を絡めるように握っていた。


「黙って見てるの!」


 そしてワクワクした様子の二人から同じ言葉が出て、俺はガクリと項垂れた。

 この先、なにが起こるか分かってしまった俺と、それを不思議そうに見る赤谷達。

 あの映画と同じように蒼井さんが手を広げ


「レディゴー、レディゴー。」


 と合わせて歌う司。違うよ、司。「LET」と「IT」と「GO」だ。明らかに聞き間違いして覚えた司は、みんなの前で間違って歌った事を後で悶絶してもらった訳だが、この時の蒼井さんは司の合いの手にリズム良く腕を振り、その度に津波のようにわき上がる海は青白く輝くクリスタルに変わって固まっていく。

 虹が伸びるのを見るような光景は10キロは向こうの12の島々を結ぶまで続き、島々と俺たちがいる海岸をつなぐ橋の中央部は全ての橋が繋がった大きい広場になった。その広場の真ん中に“空飛ぶホウキ”で降り立った蒼井さんはタンッと右足で叩くように橋を打つ。無論、魔方陣じみた輝きが広がっていき、今度は青白いクリスタルが円柱が幾本も延びて塔となり、塔と塔を繋ぐ回廊が形取られていくと、本城と言って間違いない巨大な建物が魔方陣から競り上がるように天へ延びていく。ただ、その形は蒼井さんと司が口ずさむ映画を製作した会社の名前を冠した城にしか見えなかったが。

 

「流石にトランプの兵隊は作れなかったわ。」


 日本人にとって西洋の城と言えば「これだろう」というシンボルタワーを“魔法”という技術を持って作り上げて、満足気な蒼井さんは、一仕事終わった、とでもいうようにひたいの汗を拭い、これは完全に突っ込み待ちとしか思えない事を言った。

 しかし俺はどこに突っ込みを入れれば良いのだろうか。


「この城の名前はシンダー・エラー城ね!」

「いやいや、それまずいだろっ!」


 珍しくボケる蒼井さんに鋭く返した俺だが、“魔法”という概念が俺たちの世界での“兵器”でしかなかった世界の“魔法”らしい“魔法”にポカンと口を開けて見ている男性陣は、奇声というか歓声をあげた女性陣の勢いに呑まれたらしく、俺の「下位貴族の男爵が城持ちで良いのかよ」という主張は賛同者がいないまま聞き流され、蒼井さんは更に島々に掛けた橋を変形させて、海流を塞ぎ、または流れを集める事で人口の入り江を作り上げてしまった。

 そして今この国唯一の公爵家の嫡男は、あの時の男性陣を彷彿させる顔をして巨大な橋に立ち遠くに見える城を眺めている。


「……こ……これ……は……。」


 しばらくしてから、ようやく我に返った彼は


「ありえない……こんなことは、ありえない。」


 小さく呟き(かぶり)を振ると


「……春に男爵を拝命し領地を得てから数ヶ月で、あの荒野を領民に飢えさず暮らせるようにするなぞ、有り得る筈がない。しかし、私の目の前には有り得る筈がない光景が広がる。」


 唖然としていたアレクの言葉は、徐々に力を帯び爛々と目が輝き始める。


「流石は“英雄”と“英雄に認められた者”。」


 快活な笑い声をあげたアレクに司がふんぞり返り、蒼井さんは「フフ」と妖しく笑う。蒼井さんは、ともかく司は完全に地の部分が出ていたがそんな事にも気づかないまま


「我が王家も安泰というもの。」


 アレクは城を見据えながら宝かに宣言する。


○○○


 外見だけかもしれないと思っていた“男爵家の居城”だったが、不思議な光が天井から振り落ちて既に日が落ちているにも関わらず“昼間の明るさ”を保っている。案内された部屋に連れてきた部下の中で、信頼できる数人と会談を始めたアレクは、ため息をつきながら部屋を見渡した。

 急ごしらえで揃えられたと言っていた家具は、確かに量産品には見えたが表面が艶やかな輝きを持ち触れても滑らかで引っ掛かりがない。平民が使っている家具を触った事があるアレクとしては手を抜かれて作られた様には見えない家具に違和感を覚える。

 タンス、キャビネット、机、椅子に寝台。椅子は何やら柔らかい素材で包まれており、座り心地が異様に良い。寝台なんて


「安物だから、公爵家の物と較べないでください。」


 と言っていたから油断していたが、先ほど寝転んだ感じを思い出すに、公爵家の物とは較べ物になら無い程の寝心地だった。公爵家の物の柔らかいだけで寝苦しい事すらある寝台より、適度な固さで身体を支え、転がっても痛さを感じないこちらの寝台の方が良いに決まっている。


「これが世界の違いというものか。」


 思わず洩れた言葉に部下達は頭を下げるのみで答えた。

 彼らは“英雄”達が異世界からやってきた事を知っている。その世界を見て、世界の人々と話し、文化のあり方すら違う事も知った。彼らが自らの世界と(たが)える世界を知ったのは、“聖女”が住んでいた家屋に残されていた“鏡”を見たからだ。

 “聖女”がいなくなった後、“勇者”アカタニがスラムと化していた避難民街の住人を根こそぎ連れていった時に、“聖女”の家を守っていた3人の女神官も着いていき誰もいなくなった家屋を摂取したアレクは、“聖女”を調べ始めた。

 “英雄”達は、いつの間にか現れ“魔王軍”と戦い、大陸中の国々を回りながら“魔王軍”を撃退し歩いた。この結果、数年に及ぶ戦いの末、かつては大陸の全ての国を平らげようとしていた“魔王軍”は「大陸の食糧庫」と呼ばれた北の一国に封じられ内戦を繰り返す程度にまで墜ちている。

 アレクは“偶然”現れた“英雄”に常々疑問を持っていた。そして、疑問を解消出来るのは“女神の巫”である“聖女”しかいないとも考えてはいたのだが、“聖女”が囚われた神殿はポートプルー伯爵の権力が強く手出しが出来なかった。

 そこにポートプルー伯爵を蹴落とせるチャンスである。ポートプルー伯爵が“英雄”を絡めとる策略を練っている間に、アレクもポートプルー伯爵を蹴落とす為の策略を練り始め。そしてそれは実を結び長年の鬱憤を晴らす事が出来たアレクは神殿長と大神官を武力で脅して神殿内にあった“聖女”の家に押し入った。 


「我々が捕らえた者の言葉では、太陽から“デンキ”という“魔力”を得る法も有るとの事。この明るさはおそらくはそれかと。」


 神殿に残されていた“鏡”には、ここではないどこかの風景が映っており、その光景は日によって変わっていく。その内に“鏡”に入り込める事に気づいたアレクは部下を何人か“鏡”の向こう側に送り、向こう側の平民を幾人も捕らえている。

 捕らえた平民達はさほど痛め付けなくても素直に質問に答え尋問は楽だったのだが“英雄”のような強さは無いらしく、かつての“聖女”の家には、言葉を話せず身動きもしなくなった人形(ひとがた)が何体も並んでいた。その内に神殿長が秘密裏に処理をするだろう。


「“デンキ”とは途切れぬ力であったな。これがそれなのか。」


 アレクは頷き、部屋の窓から外を見た。

 薄く輝く城の向こうには、明るく光る幾つもの光点。あのひとつひとつが家族が住む家だというのだ。“勇者”アカタニの言葉では「今は数百数千の人口だが数千万は住める街を作るつもり」だという。確かに数ヶ月でこのようなモノを作り出す“英雄”であれば可能だろう。この国の王都が一万程度だとしても国中の人口が十万程度だと言っても、大陸中から住む人を集めると言っていたアカタニには出来る自信が有るのだろう。


「ククク……出来る! 出来るぞ! あやつらを使えば、この大陸を統べることが出来る!」


 光点を見ている内に、ついに心奥底に隠した本心が笑いと共に出た。

 “英雄”達は仲間を大事にしている。しかし、“聖女”を神殿に囚われたり、伯爵とはいえポートプルー伯爵に言いように操られたりと守る力が弱いようだ。

 もし公爵家の(アレク)が“聖女”を守り共に暮らすようになれば、他の“英雄”も国を守りまたは他の国を併呑する圧力となってくれるだろう。そうなれば“魔王”ですら成し遂げなかった“大陸の王”になれる。


「ククク……ハーッハッハッハッ!」


 アレクの脳裏には大陸を統一した自分が“聖女”を傍らに置き“英雄”を従えている幻想(野望)が浮かんでいた。

 その想像は部下にも伝わりアレクと共に酔いしれる。


「我らが王に!」


 “英雄”が用意してくれたワインを持つ彼らは派手にグラスを掲げるとそれを飲み干す。アレクはそんな彼らに“王”としての顔で


「貴君らにも高位の爵位を用意しよう。これからも私の友でいてくれ。」

「御意に!」


 膝をつき臣下の礼をする彼らとそれを受けるアレク。

 まるで寸劇のような風景だが、彼らは大真面目だ。そんな彼らの行いがこの国の命運をねじ曲げていく……。

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