長めのプロローグ11
俺と金髪の女の子の間には妹の七歌が立っていた。七歌は横目で俺を睨みつつ、女の子にも険しい目線を送っている。女の子はそれまでの拗ねた様な態度をやめ、つまらなそうな顔つきで七歌を見ていた。
「セツメー…。ナナカねーちゃん、ここが日本じゃないのは、分かったよな。なら、次は……。」
先程まで、俺も七歌も部屋を意味も無くうろうろ歩き回り窓からの風景に見とれていたのだから日本では無いのは分かる。じゃあ、ここは、何処なんだって言われると俺は黄金とか、銀とか、青銅とかの、あの番組しか出てこない。そういえば、あの女の子は”女神様“って言ってたな…。
女の子は小声で何かを呟き、七歌の腕を取る。
「神なる力あれ。」
小声だったが、聞こえてしまった。七歌も聞こえたらしく、えぇ~って顔になっている。だが、すぐに驚きの顔にかわった。
女の子が掴んでいる腕から仄かな光が広がり七歌の擦り傷を覆っていく。瞬間、傷が消えていく。
「”神力“の一つで”治癒術“から”軽傷治癒“。僕は”回復特化“のサポートキャラなんだよ。ホントは”前衛職“をやりたかったのにさ。お兄ちゃんがパーティーに”回復職“がいないからって無理矢理、”回復職“にさせられて”回復職“なら女の子だ!って女の子、女の子で神職なら”話を聞かないのんびりシスター“だって金髪の女の子に決められて。……おかげで、ネカマ扱いだったよ。」
まて。お前は何を言っている。
「この”力“と”女神様“のおかげで僕は、こっちの世界で”聖女“になったんだ。同じように”賢者“や”神戦士“もいるよ。僕達は7人で5年かけて魔王を追い詰め、倒したんだ。」
まて、と言っている。お前は……。
「みんな、早く戻りたかったんだ。元の世界に。家族の所に。僕はお兄ちゃんの所に。」
アイツがゲームを始める時、アイツのキャラメイキングを勝手にしたのは、俺だ。勝手にアイツに似せた金髪の女の子を年齢を合わせて登録し使わせていた。回復メインの万能キャラにするつもりで、何時の間にか回復特化キャラになっていた。だが、それだけだ。そんな訳が無い。有る筈がない。
「けど、魔王を倒して……僕は気づいたんだ。僕は女の子だって。お兄ちゃんが自分の好みで作った、お兄ちゃんの女の子だって。」
だから。
まて。
まてって言ってるだろう。
何を言っているんだ。
「お兄ちゃん、僕は女の子になれて良かったって思った。女の子なら……最後までしてくれる、よね。」
さ、さいごぉー?
最後ってなんだ。
今まで呆然と俺と女の子を見ていた七歌がその言葉にギっと俺を睨んだ。
アンタ、アトデオハナ、シネ。
七歌は目で語りすぎたと思う。
「僕は”司“だよ。姿も……性別も、変わっちゃたけど、お兄ちゃんと一緒にいた、”司“なんだよ。おねがい、お兄ちゃん。僕を否定しないで。」
女の子は涙を流しながら七歌を迂回して抱き付いてきた。
……冷静に判断してんじゃねぇか。
七歌もイラって顔で女の子の後頭部を叩き
「だから、なんなのよ、あんたは。」
怒鳴った。女の子は頭を俺に擦り付け、また小声で呟いていて叩かれた事にも気づいていなさそうだが。
「うへへへ…。お兄ちゃんだ。お兄ちゃんの臭いだ。うふふふ…うひひひへ……。」
今度は俺だけしか聞こえなかったろう。
「ちょっと、あんた。この子の言った事…。」
聞こえないだろうが、俺から離れない女の子に勘ついたのだろう、先程より強く後頭部を叩いた。
「ヘンタイかっ!」
バシッ!
かなり、いい音で叩かれた女の子は、ハッと我を取戻して、えへ~、と笑った。
「…。お兄ちゃん、信じて。僕、”司“だよ。」
目に涙を浮かべ言った。俺も、そろそろ分かってきたが、この女の子は良い性格をしている。悪い意味で。
「司…か、どうか分からないが、ちゃんとした説明を頼む。今のままだと信じきれない。」
少しきつめに言いながら女の子の肩を掴み体をはなした。
「うん。やり過ぎた、ね。」
女の子は素直に言うと七歌に頭をさげた。
「ナナカねーちゃん、ごめん。ずっと会ってなかったから、少し、しつこかったかも。…えっと…許してくれる?」
俺に見せた上目使いで七歌をじっと見る。暫くこらえていた七歌だったが、「仕方がないわね。」ボソリと答えた。
七歌、陥落。
その言葉と共に
オマエ、チョロイ。
目線で七歌に送る。
ハァ~?別に陥落して無いし。て言うか、あんたに言われたく無いし。なぁに、さっき、最後までしてくれる?って言われた時の長い鼻の下。1メートルはあったし。犯罪よね。未成年者に何、考えてるの。お巡りさぁん、この人でぇす。
七歌からは止まらない文句が、それこそ口を挟む間も無く返ってくる。だから、何故、目線でそんなに語る。俺も何故、分かってしまう。そして、何故、目線で漢字表記が出来る。何故、俺の一言、二言にそんなに返してくる。お前は俺をどうしたいんだ…。
俺は項垂れ力無く石床に倒れこみかけ、踏みとどまった。ともかく今は分からない事が多すぎる。この辺で纏めなくてはこの子が”司“なのか、判断が出来ない。落ち込んでいる場合ではない。
「悪いが、もう一度、最初から説明を頼む。」
「うん。分かったよ、お兄ちゃん。とりあえず疑問も有るだろうけど最後まで聞いてね。ナナカねーちゃんも、お願いするよ。」
「分かった。……信じるか、どうかは聞いてから決める。」
俺の言葉に自称”司“な女の子が頷き七歌が気持ちを入れ換えた。弛緩していた空気がピリッと締まる。
「僕が”女神様“に呼ばれてゲームの世界に来たのはお兄ちゃんと中ボスの攻略をする約束をしていた、あの日なんだよ。」
ようやく、あの時、何があったのか知る事が出来る。
「ゲームを立ち上げて、すぐに僕はさっきも言った通り女の子のキャラになってこっちの世界に立っていたんだ。」




