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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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長めのプロローグ1

書き直しました。

俺には従弟がいる。

5才年下で男の子。黒く短い髪をボサボサにしている、体を動かすのが好きなヤツでいつも俺と一緒にいてくれる、それこそ親戚以上の家族の様な存在だ。

いや、今は“だった。”になってしまった。

アイツは3年前に何も言わないまま、消えてしまった。

そしてアイツが消える原因の一つになったであろう話を聞いた時、俺はアイツを初めて許せない、と思った。俺達はその程度の付き合いだったのか、と。なんでも話し合える仲だと思っていたのだが残念ながら違っていたらしい、と。まぁ、その時、小学生のアイツと高校生の俺ではそんな事もあるのかもしれないが。

だが、俺がアイツを許せないと、思ったのは。

いや。そうじゃない。

違う。アイツじゃない。

許せないのは俺自身だ。

そう、俺が俺を許せないと、思ったのは。

俺が俺に情けないと思ってしまうのは。

俺が俺の惚けた頭を嘲笑ってしまうのは。

叔母さんから聞き出した事。

アイツの同級生から聞き出した事。

俺は気づいていなかった。

アイツは俺の事にすぐ気づいてくれたのに。

次は俺が助けると誓ったのに。

俺だってした事だ。なんでもないって顔で平気な風を装い、けど内側はボロクソになっていて。

俺は気づかなきゃいけなかったんだ。

何故、気づかなかったんだ。

アイツが孤立いじめさせられていたなんて。

アイツが消えてしまった日に。

アイツのいない時に。

俺と遊んでいたオンラインゲームのデモ画面の音楽がただ、流れているだけの部屋で。

何も知らないまま、茫然と立っていた俺は。

全てが終わってからそれを知った俺は。

おそらく日本一の大バカ野郎だ。


「随分、遠くまで遊びに行ってるみたいだな。そろそろ帰って来ないと、怒るぞ。」


叔父さんも叔母さんもそう、言っている。3年経っても今でも帰って来ると信じている。約束事を守る事に煩かったアイツがこんな大事な約束を破る訳が無い。だから、信じている。

二人共、すごく強い。


「「行ってきます」の次は「ただいま」だろ。司。何時になったら帰って来るんだ。」


もちろん、俺も帰って来ると信じている。

けど。


「帰ってこい。俺が信じていられるうちに。」


俺はそんなに強くない。

お願いだ。俺にお前の事を忘れさせないでくれ。

思い出の中で生きている、なんて言わせないでくれ。

気づいてやれなくてごめん。て俺は謝るから、お前はもっと早く気づけよ、て怒ってくれ。

お願いだ。俺にもう一度だけでいい。チャンスをくれ。

お願いだ。このまま、終りなんて嫌なんだ。

帰って来てくれ。

心の中からそう、願った俺に。そして。


……俺には従弟がいる。いや、いた。

3年前はまだ、小学生で高学年。黒い髪を短く苅りイタズラが好きでそのくせ几帳面。運動する事が好きで“にぱっ”て笑う男の子だ。

今なら中学生になる。そろそろ高校受験なんて考える頃だ。

アイツなら俺と同じ高校に行きたい、なんて言い出しそうだし俺がカテキョする事になっていただろう。

アイツは机に座っていられる性格じゃないから、俺は逃げようとするのを捕まえて椅子に縛りつけて机に向かわせていたかもしれない。頭は悪くないのだから、やる気があれば大丈夫だ。俺はアイツを叱りつけながら、合間に誉めながら飽きさせない様にしながら、諦めさせない様にしながら、アイツの受験を応援しただろう。

アイツが受験に成功したのなら、何をして祝ってやっただろうか。

俺は少ない小遣いの中から、最大限の出来る事をしてやっただろう。

アイツがいたなら。

もう、有り得ない未来かこになってしまったのだが。

………ところで、いきなりな話になるが、俺は親戚が多い。

しかし、日本人しかいない。

日本から出ていった親戚はいるが、まだ子供はいないはずだ。

だいたい、歓極わって涙を流す様な女の子自体が身近にいない。

「ただいま。お兄ちゃん。」なんて言うのは、まだ帰って来ていないアイツぐらいだ。

そのはずだ。


「会いたかった。スッゴク会いたかった。ずっと会いたかった。」


なんて言いながら抱きついてきた、肌が白くて短い金髪で碧眼のこの女の子は、誰なんだろう。


「ホント、ひさしぶり。元気だった? 僕の事、分かる? 司だよ。」


ウソだ。

どう見ても日本人ではない。そして、俺は外人に知り合いはいない。と言うか、司は男だ。赤ん坊の時、紙おむつを替えてやっていたし、一緒に風呂に入っていた事もあるから間違いない。

ちゃんとついていた。

そして、この女の子は、何処から入って来た?

いや、見ていたから分かるのだけど。

だけど、俺は今。

有り得ない現象を見た……と、思う。たぶん、見た……はずだ。見たんだよな…………?

俺の目がおかしいのかも。いや、頭がおかしいのか。

本当に今、あった事は今の事なのか?

俺、今、何を、見た?

……俺は俺が信じられない。

俺の知らず知らず浮かべたひきつった笑い顔と。

俺に抱きついて離れない女の子が浮かべた怪訝そうな不満顔と。

俺の部屋に唐突に入って来た妹の少しの怒りと大きな驚きが混ざった顔と。


なんだ、これ。

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