ROBOT HEART 【1】
I am looking for the heart.
I am a robot.
Because there is no heart.
ある日、ある国、ある町に、ロボット1体やってきた。
ロボット胸にはポッカリと、穴ぼこ1つ空いていた。
町には1人の優しい少女が、ひとりぼっちで住んでいた。
ばったり出会った少女とロボット。
少女はロボットにこう聞いた。
「あなたは何をしているの?」
ロボットは胸の穴ぼこ指さした。
「ボクはココロを探してるんだ。ボクはロボット、ココロがないから」
すると少女はにっこり笑った。
「それなら一緒に探しましょうよ」
きれいな花咲く並木道。1羽の小さな小鳥が歌う。
「あんなにきれいに歌えたら、きっと素敵な気持ちだろう」
ロボットは小鳥に聞いてみた。
「小鳥さん、ボクにココロをくれませんか。ボクはロボット、ココロがないから」
しかし小鳥は聞く耳もたず、歌いながら飛び去った。
少女はロボットにこう言った。
「小鳥のココロは小さすぎる。あなたの胸には合わないわ」
そして少女はロボットに、少女の知ってる歌を教えた。
二人は歌を歌いながら、ココロを探して旅を続けた。
木の実の実った高い木の下。象が木の実をもいでいた。
「あんな高いところに届いたら、きっと楽しい気持ちだろう」
ロボットは象に聞いてみた。
「象さん、ボクにココロをくれませんか。ボクはロボット、ココロがないから」
しかし象は聞く耳もたず、木の実を食べると行ってしまった。
少女はロボットにこう言った。
「象のココロは大きすぎる。あなたの胸には合わないわ」
そして少女はロボットの、肩に飛びのり木の実をもいだ。
二人は木の実をたくさん抱え、ココロを探して旅を続けた。
白い波立つ海岸線。魚の群れが水面を泳ぐ。
「あんな風に泳げたら、きっと爽やかな気持ちだろう」
ロボットは魚に聞いてみた。
「魚さん、ボクにココロをくれませんか。ボクはロボット、ココロがないから」
しかし魚は聞く耳もたず、ぱしゃんと跳ねると潜ってしまった。
少女はロボットにこう言った。
「魚のココロは水の中。あなたの胸がさびてしまうわ」
そして少女はロボットに、貝殻拾って笛を作った。
二人は笛を吹きながら、ココロを探して旅を続けた。
山を登って雲の上。竜が唸りを上げていた。
「あんな強さを持っていたなら、きっと誇らしい気持ちだろう」
ロボットは竜に聞いてみた。
「竜さん、ボクにココロをくれませんか。ボクはロボット、ココロがないから」
しかし竜は聞く耳もたず、二人に向かって火を吐いた。
少女はロボットにこう言った。
「竜のココロは熱すぎる。あなたの胸が溶けてしまうわ」
そして少女はロボットの、煤けた体を拭いてやる。
「ありがとう。あなたの鉄の体がワタシを、竜の火から守ってくれた」
ぴかぴかになったロボットは、少女とココロを探して旅を続けた。
地面の下の穴の底。悪魔が二人を呼び止めた。
「お前が何を欲しいか知ってるぞ」
悪魔はココロを差し出した。
「オレがお前にココロをあげよう。さぁさ受け取れ。遠慮はいらない」
しかし少女が首を振り、ロボット連れて逃げ出した。
少女はロボットにこう言った。
「悪魔のココロは黒すぎる。あなたの胸が汚れてしまうわ」
ロボットは少女に言い返す。
「ボクはそんなのかまわない。ボクはココロがほしいんだ」
「なんでもいいの? ココロなら」
「わからない。ボクはロボット、ココロがないから」
うつむく少女とロボットは、ココロを探して旅を続けた。
強い風吹く大地の最果て。そこには誰もいなかった。
「とうとうココロは見つからなかった」
少女はロボットにこう言った。
「そんなにココロが欲しいなら、ワタシのココロをあなたにあげる」
「本当に、きみのココロをボクにくれるの?」
「ええ、いいわ。大事にしてね、絶対よ。ワタシはワタシのココロが大好きだった」
少女はココロを差し出した。
少女のココロはロボットの、胸の穴にぴったりだった。
ココロをもらったロボットに、あたたかな気持ちが流れ込む。
あたたかくって優しくて、力強くて美しくって。
誇り高くて気高くて。
少女のココロは心地が良かった。
こんなに近くすぐ傍に、こんなココロがあったとは。
「ありがとう。なんて素敵なココロだろう」
ロボットは感謝をしたけれど、少女は何も答えない。
ココロをなくした少女はもはや、もぬけの空となっていた。
ロボットは教えてもらった歌を歌った。しかし少女は歌わない。
木の実をあげてみたけれど、少女は少しも口にしない。
少女がくれた笛を吹いたが、流れ出るのは悲しい音色。
「何か言ってよ、お願いだ。いつものように笑っておくれ」
ロボットがどんなに頼んでも、ココロをなくした少女は二度と、笑顔を見せはしなかった。
やがて雪が降り出した。吹雪となって二人を襲う。
ロボットは竜の火からは少女を守った。
しかし吹雪の寒さから、少女を守れはしなかった。
するとココロが痛み出し、ロボットは胸を掻き毟る。
ぴったりはまった少女のココロは、胸を締め付け外れない。
「痛い痛い。こんなことになるのなら、ココロがなくてもかまわなかった」
そこへ悪魔がやってきた。
「オレがそいつを外してやろう。その子には代わりにコレをあげるから」
悪魔は黒いココロを差し出した。
ロボットはそれを振り払う。
「いらないよ。この子のココロは渡さない。お前のココロは真っ黒だ」
「馬鹿な奴。それなら自分で見つけに行けよ。ココロを探してあてもなく」
悪魔はロボット睨みつけ、煙とともに姿を消した。
ロボットは再び旅に出た。
ココロを探す旅に出た。
今度は自分のためじゃなく、ココロを持たないロボットに、ココロをくれた少女のために。