ズボラーウーマン
「海野さん! お願いだから手伝って!」
エプロンをかけた女子生徒が、海野十六夜に叫ぶ。
「……うぁ……?」
女子生徒のあまりの声量に、流石の十六夜も目を覚ました。
「何を……?」
寝ぼけ眼を擦り、寝よだれを拭う十六夜。
「お味噌汁に入れるそこのニンジン、扇切りにして!」
十六夜を起こした女子生徒は、フライパンと格闘していた。その隣では別の女子生徒が、鍋の火を気にしている。
十六夜は顔を緩慢に動かして、ニンジンを探す。すぐに見つかった。
「なんであたしが?」
「調理実習だから! なんでっておかしいでしょ!? そもそも調理実習で寝るか!?」
ふらふらっと立ち上がって、もぞもぞっと歩き、のろのろっと包丁を手にした十六夜。
「……あの」
自分を起こした女子生徒に、訊ねようとした。
「まずピーラーで皮剥いたあと、輪切りにしてそれを四等分にすればそれが扇切りだから!」
先読みして答えた女子学生。
「あたし……この一週間くらい、お風呂入ってないけど……?」
「そのニンジンに触るな!」
「まぁ、熱消毒?」
ニンジンに手を伸ばそうとする十六夜に、
「やめろっ! やっぱアナタ寝てて!」
女子生徒は改めて叫んだ。
「うん。ありがと」
十六夜は席に戻って、ソッコーで手枕になって、寝出した。
「この人……よく三年まで進級できたわね」
女子生徒は長嘆息した。