ぎゃわんぶらぁ
「ニュースでよく聞く、脱税と横領の違いが分かりません」
職員室で。
高校二年生にもなって、三好清海はそんな質問を、穴山千代英語教師にした。
三好清海という生徒を知る教師陣にとって、この手の質問は、日常茶飯の事だ。以前など、APECとOPECの違いを、二日続けて、同じ教師が同じ説明をした事がある。
「脱税って言うのは、本来納めるべき税金を納めない犯罪。横領は、本来自分の物ではない公金――会社のお金などを、自分の物としちゃう犯罪。なんでそんな事気になったの?」
千代は、小学生にも解る様な説明をしてから、訊ねた。
「今日の朝、たまたまニュースを観てたら、五千万円脱税した人と、五千万円横領した人がいて、こんがらがりました」
「あぁ、両方競馬に突っ込んだって、やってたね」
「はい」
「全く、五千万も遣うなら、他にもっと遣い道あったろうにねぇ。自転車とか、ボートとかさ」
「本当ですね。そういう健康的なモノだったら、ニュースになんかならなかったでしょうに」
千代と晴海の会話を聞いていた、教師の一人が、隣の教師に小さく、呟いた。
「穴山先生の場合、そう言う意味じゃないよなぁ。きっと」
「と、言うより、そう言う意味じゃなくてもニュースになりますよね? 普通」