ラグナロク
霧隠才麗の授業は、生徒達から、すこぶる評判が悪い。
「で、だ。この黄昏という言葉は、夕方に日が落ちて、辺りが暗くなったとき、少し遠くにいる人の判別が難しい所から来ていて――」
才麗が黒板に『黄昏』と書いたのち、語源の解説を始めたのだが――。
「先生。あのう、窓、開けてもいいですか?」
「……今日、寒いからダメ」
「じゃあ、タバコやめて貰っていいですか?」
「あ。無理。あたしニコチン摂取し続けないと、死ぬから」
「正直、先生のタバコの煙で、黒板どころか、先生の顔すら見えにくいんですけど」
「そういうのは、黄昏とは言わない」
「言ってませんし、そういう事を言いたいんでもありません」
松永君が言った刹那だった。
ばたん――っ、と誰かが倒れた。
「ひろみっ!?」
ひろみと呼ばれた子の、隣の席の女子が叫び、慌てて抱き起こした。
「ひろみ! しっかり!」
「うう……気持ち悪い……肺ガンに……なりそう」
首が、がっくり。
「ひろみ! ひろみー!」
「保険委員。保健室連れてってやれ」
と、丁度、チャイムが鳴った。
「お? 今日はここまで。明日の予習、ちゃんとしとけよ」
才麗はそう言って、教室を後にした。直後、生徒達が窓を開けて換気をし、ファブったのは、言うまでも無い。