麦
「あっははー。また派手にやったねー」
転んで出血した戸澤君が、猿飛佐助に付き添われて、保健室で根津末広の診察を受けていた。
「とりあえず消毒しとこっか」
「お願いします」
末広は、デスクの上に置いてあった、焼酎のビンを掴んだ。すぐさま佐助が止める。
「だから、やめろよそれ」
「いいえ、是非ともお願いします!」
前回は佐助に押し止められたが、今回こそは、末広の口からブーッ! を、戸澤君はして欲しかった。なんの因果か戸澤君、末広にホの字|(死語)なのだ。
「戸澤――それほどまで……」
――三百六十五日二十四時間酔っ払ってる、駄目人間の事が。
と、これはすんでの所で佐助は飲み込んだ。
「よし。俺も男だ。戸澤、お前の好きなようにしろ。ただし、これからはちょっと距離を置かせて貰うけど……」
「ありがとう佐助! さすが俺の親友だぜ!」
「うん。もう親友じゃないぞ?」
「さあ、根津先生! お願いします!」
「よし来た」
末広は焼酎を口に含み、そのまま嚥下した。
「……あ~、おいし」
その一飲みが、リミットだったようだ。末広の瞳がトロリとして、直後、潰れた。
「……ええーーーーーーーーっ! そぉんなぁーーーーーーーっ!」
この戸澤君のがっかり声を、佐助は出来る事なら、早く忘れたい。