見知らぬ天井
ドラは、一筒、ニ筒、白。
ふと、嫌な予感はした。だが、ツモってきたドラ牌を捨てる右手が止まらなかった。
上等なブランドスーツを着た、五十年配の、社長業をしているという男が、千代の捨てた白板であがった。
「ロンッッ!!!」
社長は半ば叫びながら、手配を見せた。
中中中・發發發發(暗カン)・九萬九萬九萬九萬(暗カン)・一筒二筒三筒(一筒チー)・白単騎。
しめて九十六符。
三暗刻、小三元、中、發、チャンタ(食い下がり)、ドラ四。十一翻。
青天井なので、九十六符を、場ゾロと合わせて、十三回、倍にし、それを更に四倍。百点未満の数を百点に切り上げると……。
96×2×2×2×2×2×2×2×2×2×2×2×2×2×4。
イコール3145800点。
いつもは千点千円だが、青天井レートは二分の一、つまり、千点五百円として、千代はこの局、百五十七万二千九百円を、社長に渡した事になる。
「千代ちゃん、折角競馬で獲った百万が解けちまったね」
千代の対面に座った駄目徳が言った。
「解けたどころか、足が出ちゃった。ま、挽回するわ。まだ三局残ってるし」
千代は強がったが、内心舌打ちしていた。白板を何故捨てた? ドラを切るのは、まあ、よろしい。しかし、社長は緑發と九萬の暗カン、ドヤ腱からの一筒を食っている。普通なら、いや、平生の千代ならまず、ドラの初牌など振らない所だ。
こういうミスが、流れを変えるのを、千代は知っている。ドヤ腱も駄目徳も、ミスを犯した千代を狙ってくるだろう。
千代は気合を入れ直して、配牌を取った。ドラは南。それが三丁、配牌時にあった。ダブ南ドラ三。
――絶対に取り返す! 三十符でも十三翻あれば取り返せる! あと八翻!
だが、八翻など、そう簡単に作れるものじゃ無い。なんとなれば仕事も辞さない覚悟だった。
だが、結局、千代は残り三局でようやっと五十万円取り戻すのが精一杯だった。
「豪気だね。惜しげもなく百万出しちゃうんだから」
「博打で獲ったお金だからね。無くて元々」
そう言って、千代は笑った。当然、心では泣いていた。