*索敵-さくてき-
「それくらい夜は安心するって事だよ」
苦しい持って行き方だが理絵は時弥の笑顔に安心したのか小さく笑った。
「!」
少女が時弥の胸に寄りかかる。
ラッキー! と思いたいが顔立ちがどことなく姉に似ている気がして時弥は素直に喜べなかった。
そんな姉も今では結婚を前提に付き合っている彼氏がいる。彼氏の趣味はサバイバルゲーム……時弥をいつも誘っては負け続けている。
姉の見方は正しかったとも言えるのかもしれない。
「……」
暗がりの中、杜斗は倉庫の近くにある灯りの点いた家を見つめる。男たちはあそこに集まっていると見たが……
「忍び込むのはもう少しあとだな」
それまで仮眠といくか。と杜斗は草の生えた地面を確認して寝転がった。多少ごつごつして背中が痛いが我慢しよう。
木々の隙間から見上げる空には星が瞬いていた。星座なんか知りもしない杜斗だが、昔の人はそこに神々の伝説や想いをはせたのだろうと目を細める。
「とりあえず俺によっかかっていいから眠った方がいい」
「……でも」
時弥は言い聞かせるように少女に発した。戸惑う理絵に付け加える。
「いざとなった時に動けないと困るでしょ? そのために体力を温存しないとね」
「うん……」
理絵は納得して時弥に寄りかかり目を閉じた。寝付けないのだろう、いつまでももぞもぞと体勢を何度も直している。
「大丈夫。きっと助かるよ」
「……うん」
聞こえないほどの声で少女は頷いた。
数時間後──杜斗がむくりと起き上がる。
「……10時か」
腕時計のライトを付けて時間を確認してつぶやく。あと数時間は待ちたいが……さすがにもう眠れない。
杜斗は小さく溜息を吐くと立ち上がって灯りの点いている家を確認する。警戒しながら山を出て家に向かった。
考えたら俺よりあいつの方が小さいんじゃねぇか。顔をしかめてぼそりとひと言。
「戻すべきじゃなかったか?」
今更、言っても仕方がない。大きな体を揺らして杜斗は足音を立てずに駆けた。
武器が1つも無いというのは心細い。そこら辺に落ちている角材でも持っていようかとも考えたが動きが制限されるのも避けたい処だ。
とりあえず今は忍び込んでいる最中なので余計な事は考えない事にした。