*思案中
「……」
その様子を見ていた杜斗は冷静に分析する。
少女を連れてきた男2人は20代後半くらいだろう。ガキ3人が慕っているようだが暴力団系とも違うようだ。
「慕っている」といえば聞こえは良いが、どちらかと言えば「使われている」に近い。
杜斗は小さく唸った。
あの3人だけならさして問題ではなかったが……あの2人には少し注意が必要だと感じた。少なからず、まったく闘い慣れしていない訳でもなさそうな感覚がある。
とはいえ日本での闘い慣れなど知れている。相手が本物の銃を持っていたとしても勝てる自信が杜斗にはあった。
そんな自信が何故、彼にはあるのか──実は杜斗は10歳頃までアメリカで暮らしていた。友人の父親が米軍の兵士で杜斗に戦闘のノウハウを教えていたのだ。
「格闘技や体力はあとから鍛えればいい」
そう言って杜斗に色々な戦闘や格闘の技を教えていた。もちろん彼のためではない。単に自分の知識をひけらかしたかっただけだ。
ある意味、はた迷惑な話だが杜斗は従順にその学びを吸収していった。そうして日本に帰国し今は自衛隊に入隊している。
帰国子女は異性にモテる。が杜斗は愛想の良い性格ではない。アプローチする女性に優しくなど出来るハズもなく、大抵は嫌われて終る。
別に自分からすり寄った訳でもないのに嫌われるというのは押し売りに近い。
話が逸れた感はあるが……とにもかくにも杜斗の自信は単なる勘違いや思い込みではない事だけは解っていただけただろうか。
「大丈夫?」
「……うん」
少女と一緒に倉庫に閉じこめられた時弥は気遣うように声をかけた。冷たいコンクリートの床に毛布を敷いてその上に2人は両手を後ろ手に縛られてまとめられている。
15~16歳ほどと思われる少女は肩までの黒髪を緩くカールしていて大きめの瞳は可愛く潤んでいる。
「俺、時弥」
「あたし……理絵」
「理絵ちゃんか。怖がらなくていいよ。きっとなんとかなるから」
「うん……」
理絵はか細く発して頷いた。
本当はもう1人仲間がいる事を教えて安心させてあげたかったが、いつどこで彼らに知られるか解らない。
心苦しいが杜斗の事は伏せておく事にした。
「理絵ちゃん」
「はい」
「捕まった理由は解る?」
優しく問いかけると少女は少しからだを強ばらせる。捕まった時の事でも思い出したのだろうか、瞳の潤みが増した。
「きっとパパのお金だと思う」
「! 君のお父さんは何をしてる人?」
「IT企業の社長してるって……」
詳しい事業内容は解らないのだろう。まあそんなものだ。時弥は納得付けて続ける。
「いつ捕まったか解る?」
「昨日……ショッピングに行こうとして歩いてたらいきなり後ろから」
「そか。怖いこと思い出させてごめんね」
無言で首を振った少女から視線を外して聞いた事柄を整理する。
歩いていたって事は今までそんな危険は無かったという事だから大きな会社じゃないのかな? IT企業っていうのは最近、知名度の上がってきた業種だから金持ちが多いと思われがちだ。
しかし実際は他の中小と変わらない企業がほとんどである。見た処、少女はブランド物に身を固めている訳でもなさそうだし。
誘拐した彼らの勘違い? と、あの3人だけならそう思えた。
しかしスーツの2人がいる事でその予想は見当違いな気がしてならない。
「俺そんなに頭良くないんだよねぇ……」
「え?」
「独り言」
とりあえずまあ。この情報をどうやって杜斗に知らせるか……
「やっぱ」
抜け出して教えるしかないよね。時弥は口の中で発した。