*あらあなたって……
「あー俺のバッグが無かった。どこにやったのかな」
「とりあえず民間人はむやみに動くな」
「え……?」
青年の言葉に時弥は思わず聞き返した。
「……」
そしておもむろにサイフを取り出し中からカードを抜いて見せる。
「!? お前も?」
つい張り上げた声に杜斗は慌てて自分の口を塞ぐ。辺りを確認したあと声を殺して続けた。
「しかも俺と同じじゃないか」
「あ、そうなんだ」
時弥は今年、自衛隊に入ったばかりの新人である。
「ていうか、なんでサイフに入れてんだよ」
「丁度その時はお金が無かったんだ」
多くの自衛官・自衛隊員は隊内の売店で販売されている隊紋章入り専用パスケースを使っている。
買おうとした時に買えないと買うチャンスを逃す。というパターンである。
「とりあえず出るぞ」
杜斗は守る必要の無い相手だと解り次の行動に移った。気配を探りながら外に出る。
「わ……ホントに山の中だ」
「ここは農家の倉庫だったようだな」
見渡すとあちらこちらに倉庫や家屋が点在していた。
「!そういえばどうやって追いかけたの?」
同じ旅行者なら乗り物は無いハズだ。
「警官に身分証見せてバイクを借りた」
そんな事が許されるのかどうかは解らないが……とにかくあの時に考えられるだけの事を考えて出た結論がそれだったらしい。
「昔のドラマで刑事がやってた事を堂々とやったんだね」
「遠回しに皮肉並べてんじゃねぇよ。それとも何か。あのまま放っておいた方が良かったか?」
「いやいや、それはそれで困るよ。1人で解決させるのはしんどそうだし」
「だったら文句言ってんな」
警戒しながら近くの森に身を隠す。
「警官、来ると思う?」
「……」
時弥は問いかけてみたが杜斗は目を据わらせて少し口角を上げた。彼も時弥と同様に自分たちで解決するしか無いと思っているようだ。
「お前、車の中をのぞき込んで捕まったんだよな」
「うん」
「何が見えた」
「なんにも」
その応えに頭を抱える。
「何か見とけよ」
「無茶言わないでよ」
しばらくの沈黙──
「ねえ」
「なんだよ」
「彼らの服装、気がついた?」
「ただのミリタリーマニアだろ」
「どっちかっていうとファッションだと思うけど」
「だったらなんで訊いた……」
「ああごめん、服装じゃなくて装備」
「装備……? ああ、改造モデルガンか」
男3人は腰のベルトにヒップホルスターを装着しハンドガンを納めていた。因みにホルスターとは拳銃を納めるケースの事である。
杜斗と時弥はあれが改造モデルガンだとすぐに気がついた。
「何するつもりなのかなぁ?」
「それが解らないから動きようがねぇんだろうが」
「あ、戻ってきた」
「!?」