*ご対面
「!」
時弥はハッと気がついて体が動かない事に眉をひそめる。パイプイスに両手を後ろ手に縛られていた。
「おい、おまえ!」
「!」
男の声に前を向く。
そこにいたのは3人の男性。時弥と同じ20代前半だと見受けられる。
「こんな処に何しに来たんだよ」
「何しにって……ちょっとした旅行だよ」
「こんな田舎町にかよ」
「観光地は興味無いの」
ヒトの趣味をとやかく言わないでくれるかな……と時弥は心の中でブー垂れた。そうして周りを見回す。
どこかの倉庫跡のようで、時弥の両端に木製のパレットがうずたかく積まれていた。前に見えるのは入り口が開け放たれたコンクリートの地面。
「君たちこそ、こんな田舎で何をしようとしてるんだい?」
「田舎って言うな!」
と自分で田舎と言った青年が声を張り上げた。
あ、俺が言っちゃだめなんだ……とその青年を見つめる。3人は3人とも草色のジャケットとカーゴパンツで揃えていた。
戦闘服をイメージしているのかな? 時弥は冷静に青年たちを分析する。
「それで、目的は?」
時弥は改めて問いかけた。髪を茶色に染めた短髪の青年は少しおどおどする。
「うるせぇ! てめぇには関係ねえからそこで大人しくしてな」
と両耳にピアスを付けた男が言い放ち出て行く。その後を2人が追い、時弥は1人残された。
「……」
普通、監視1人くらい置くもんじゃない? などと考えながら後ろ手をもぞもぞ動かす。しかし思っているより頑丈に縛られているようでにっちもさっちもいきそうになかった。
「はぁ~」
ガックリ肩を落として溜息を吐き出す。
すると──
「おい……」
「!?」
後ろから声をかけられパイプイスが少し動くほどビクリと反応した。
「……だれ?」
恐る恐る顔を後ろに向ける。
「しっ黙ってろ」
そこには、身を隠すようにして時弥の腕を縛っているロープを解きにかかっている男の顔。
「君は?」
問いかけた時ロープが解けた。手首をさすり立ち上がると、その男も立ち上がった。
「……」
ちょっとガッシリした顔つきだったが……なるほど、体格もガッシリしている。170㎝の時弥より15㎝ほどは高いと窺えた。歳は近そうだ。
「俺は向井 時弥」
「八尾 杜斗」
ぶっきらぼうに発して気配を探り時弥を奥に促した。
2人はパレットの山の中に身を隠す。
「どうしてここに?」
声を殺して時弥が訊ねる。
「……あんたが車に詰め込まれてるのを見たんだよ」
この青年も時弥と同じようにこの町を訪れ、偶然にその場面を目撃した。
「警察には?」
「取り急ぎ近くの交番に伝えたがな。本気にしてくれたかどうか」
成人した男を連れ去る事件など田舎町の警官が信じるかどうか疑わしかった。
「じゃあ携帯で……」
「生憎とここは圏外だ」
杜斗は自分の携帯を取り出して示す。
「あっそうだ。俺の携帯とサイフ」
取られた事を確認して時弥は立ち上がった。
「! おいっ止めろ」
杜斗の声をスルーして時弥は3人がいた付近を探し始める。
「あ、あった」
腰まで積まれたパレットの上に革のサイフと赤い携帯が乗っていた。のんびりと歩いてくる時弥を急かすように手巻きする。
「バカか!」
「大丈夫だって」
しれっと言い放つ時弥に杜斗は呆れて頭を抱えた。