◆あなたの不運に乾杯
「ん~良い気持ち」
その青年は駅から降りて伸びをした。青年の名は向井 時弥、170㎝と小柄だが鍛えている事が窺える。
ここは岡山の奥、観光客などまったく見かけない町──彼はここの住人ではない。
有名な温泉街も無ければ名所も無い。なのに何故、彼はここに……?
「ん?」
時弥は駅の近くに駐めてあるワゴンを少し覗いた。彼は好奇心が旺盛なのだ。本当に何の気無しに覗いただけに過ぎなかった。
覗いた刹那──「がっ!?」
後頭部に衝撃が走りアスファルトに倒れ込んだ。
「おいっ見られたぞ!?」
「とにかく縛り上げて積み込め」
「……っ」
俺まだ何にも見てなかったんだけどな……と考えながら時弥は意識を遠ざけた。
パーカーのフードを目深に被った男2人は周りをキョロキョロと窺いながら時弥の手足を縛り猿ぐつわをして彼の荷物を抱えてワゴンに詰め込んだ。
そして1人は運転席に、もう1人は意識のない時弥を見張るために一緒に後ろに乗って車を走らせる。
「どうすんだよこいつ」
「! おいっ」
時弥の服を調べていた男がサイフを取り出し、中に入っていたカードをバックミラーに映す。
「それなんだ……?」
運転している男はよく見えなくて目を細めて問いかける。
「自衛隊員の身分証明書だよ!」
「ええっ!? 大丈夫なのかよ!?」
数秒、沈黙する2人……自分たちの運が悪いのだろうかという考えが過ぎったが、後部座席の男は大げさに頭を振って否定した。
「違うさ! 捕まったこいつの運が悪いんだ」
「そ、そうか……そうだよな」
カードをサイフに仕舞ってそのサイフをパーカーのポケットに突っ込んだ。
車はさらに山奥に入っていく。曲がりくねった坂道を登り舗装されていない脇道に入る。そこからさらにしばらく走らせ森の中に見えた赤い屋根の灰色の建物──
*見切り発車です。ええ、タイトルから想像して暴走すること間違いなし。