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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

関西夫夫

お菓子

作者: 篠義

どこもかしこも、かぼちゃだらけな昨今というのに、なんか似合わないものを感じる。アメリカだか、どこかだかの風習らしいが、意味がよくわからないので、なぜにお菓子と悪戯の選択を強要されるのか・・・甚だ謎だ。

 いつものように帰り道のスーパーで買い物をして、ふと、菓子売り場に並ぶオレンジのかぼちゃに目をやる。

 ・・・やっぱ、こういう時は、なんきんの煮物とかだよな? ・・・・

 和風な料理が多い我が家では、かぼちゃのスープとか、かぼちゃコロッケだとかいう洋ものは、まず食べない。そうなると、やはり煮物ぐらいしか適用がないわけで、かぼちゃの四分の一を、買い物籠に放り込んだ。

・・・まてよ・・これ使えるんちゃうか?・・・

 再度、菓子売り場を通り過ぎる時に思いついた。同居人は、甘いものが苦手で、ほとんど口にしない。たまに、団子とか饅頭とかいうものは口にするが、それだって、こちらが用意した時だけだ。

・・・てことはやな、あいつ、選択の余地がないんとちゃうか? ・・・・

 選択したくとも、持ち合わせがなければ、悪戯しか選べないわけで、それは、もしかすると楽しいのではないだろうか。こういう誘い方もありだと思った。

・・・そうとなったら、ちゃっちゃっと、食事の準備して風呂沸かそう・・・・・

 今は、それほど忙しい時期ではないので、帰りは早いはずだ。




 かぼちゃの煮物と焼きさんまという秋のメニューを用意したら、同居人は、「あーうまそー」と、顔を綻ばせた。どちらも一人暮らしが長いので、料理はできるのだが、若干、同居人のほうが帰宅が遅いので、こちらが夕食の担当になっている。

「まあ、食え。風呂も入れる。」

「え? 風呂は俺の担当やのに・・・」

「早かったからな。たまのことや。」

 本当は、疲れるのが、俺の嫁をしている同居人のほうだから、体力を温存させるべく、家事はやってしまった。

「すまんなあー洗濯は俺がするから。」

「いや、それも回した。おまえは、明日、ワイシャツのアイロンしてくれ。心配せんでも、掃除もしたるで。」

「・・・はあ?・・・なんかあったっけ? 」

「いや、たまにやがな、たまに。ははははは。」

 不審そうな顔をして同居人は食卓についた。まだ週の初めだというのに、些か疲れた顔をしている。

「すまんなあ。・・・なんか、月曜日から疲れる用事ばっかりあってな・・・ちゃんとするから。」

「ええよ。まあ、とりあえず、今夜は早めに寝よ。」

「せやな。」

 のんびりと、ふたりして食事する。あまり酒は嗜まないから、食事だけだ。テレビもつけない、ただ、外からの音が聞こえるだけの静かな空間だ。いつもは、ぽつりぽつりと本日の出来事について話すぐらいのことだが、場を和ませようというか誤魔化そうとして、いつもより俺は喋っていた。ちらりと、同居人は俺を見たが、何も言わずに食事を続けた。

 風呂に入って、寝室に入ったら、同居人は、布団の上に転がっていた。

「さて、今日は、何の日かわかっとるか? 」

「あ? やっぱり、なんか記念日やったんか? 」

「ちゃうちゃう、さて、行こうか。『トリック オア トリート? 』 」

「はあ? 」

「今日は、かぼちゃの日や。ハロウィンや。悪戯かお菓子のどっちかを選択する日なんやっっ。お菓子がなかったら、悪戯するぞ。」

 で、まあ、この場合、お菓子なんてものは、ないわけで、もれなく、悪戯に決定のばずだった。しかし、同居人は、がっくりと力尽きた後に、手を動かした。

「ああ、やっぱりか。・・・このどあほがっっ。ほれ。これでええんやろ? 」

 同居人は、布団の下から、小袋のかっぱえびせんを取り出して、俺に投げつけた。

「うそぉぉぉ、なんで? おまえ、こんなん食わへんやんっっ。」

「おまえがやりそうなことはわかるっちゅーんじゃっっ。何が、『トリック オア トリート』じゃっっ。お菓子があったら、そんでええんやろ? こんでええな。」

 同居人は大笑いして、布団に潜り込んだ。せっかく、たまには平日に・・と思ったのが、思い切りバレていたらしい。

「そんなにイヤなんか? 」

「明日も仕事やから、加減をしてくれ。」

「え? 」

「もう一回、言い直せ。」

「なんて? 」

「どあほっっ、『トリック アンド トリート?』 やったら両方オッケーやろうが。」

「ああ、そうかぁー。なーんや、世間の言葉通りに正直すぎたわ。」

「無茶すんなよ。こんな若い身空で、ドーナツ型クッションの世話になんかなりたないからなっっ、俺は。」

「もちろんろんろんろんろ・・へへー。しかし、なんで、かっぱえびせんなんや? 」

「おにぎりせんべいのほうがよかったか? おまえ、好きやろ? 」

「わざわざ用意せんでも、素直に悪戯されたらええんやろうが。」

「関西人としては、ちゃちゃはいれなあかんから。」

 ムードも何もあったものではないが、それなりに楽しい我が家だと思った俺だった。

「ほな、トリックを。」

「はいはい、トリックでもトックリでも、好きにせぇ。」

「ほんま、ムードないわ、俺の嫁。」

「あるかぁぁぁっっ。」

 乱暴に蹴りを繰り出されたものの、かわしてベッドへ飛び乗った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして、めいと申します。「小説家になろう」も初心者なので、感想はこちらで良かったでしょうか?花月が面白くて、優しくて、とっても大好きです!水都も壊れてるとは言え、花月一筋だし、読んでて心…
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