消える交番
1953年、昭和二十八年。
長野県のとある町の外れに建つ小さな交番には、奇妙な噂があった。
「あそこにある交番はな、夜になると消えるらしい」
町では、そんな話が囁かれていた。
その交番には、新しく配属された警察官になったばかりの岡田流一と、ここに長年勤務してる大村健一郎の二人が勤めていた。
噂が広まる数日前、一人の男性が交番を訪ねてきた。男性は山の中腹にある小さな祠にある地蔵が、忽然と姿を消したという。
その祠は約百五十年前に交番が建っていた場所にあったと口伝されていた。
しかし第二次世界大戦の影響で壊されぬように現在の場所へ移されたのだという。
地蔵の姿が消えた翌日から異変は起きていた。まず警察官の帽子や事件の詳細が書かれてる資料などが消えた。
その翌日には時計や棚までも消えていた。
物が消えたことを話すと、大村健一郎はしばらく黙り込み、やがて一人の人物の名を口にした。
「流一、岩熊 辰吉という人物は知っているか」
「知らないです」
「岩熊 辰吉は江戸時代初期にいた人だ。そいつは町一番の剛腕でな、ひどい酒好きだったそうだ。
酒が切れると家族や近隣の者にまで手を上げ、皆に恐れられていた。
そして死んだ後も、妙なことが起きた。酒や金目の物が、理由もなく消えるようになったらしい。それを鎮めるために建てられたのが、辰吉の祠だ。
……そしてその祠の上に建てられたのが、今の交番だ」
その日の夜忘れ物をして交番に戻ろうとした。そこで彼は、交番が消えてることに気づいた。
そのとき、背後から健一郎が現れた。「怒りを鎮めるためには、地蔵を見つけるしかない」そう告げられ、その夜の捜索は翌日に持ち越されることになった。
翌日、二人は近くの川を捜索した。
川底から引き上げられたのは、泥にまみれた地蔵だった。
それを元の祠へ戻すと、あれ以来、妙なことは起きなくなった。
町に流れていた噂も、いつしか消えていった。
健一郎はその後も何も語らなかった。ただ、夜勤のときだけ祠の方を向いて敬礼していた。
健一郎はその後も何も語らなかった。ただ、夜勤のときだけ祠の方を向いて敬礼していた。




