第7章
ルーディー君と友人になってから既にふた月ほどが経った。
「私って、本当に運がいいんだわ」
学舎からの帰る道すがらに思わずこう呟くと、何かいいことがあったのかとルーディー君が小首を傾げた。
疑問があると小首を傾げるの癖なのかしら? まあ、普段みんなの前でやっているのは、絶対に演技だと思うけれど。
だってその仕草は凄く可愛いくて、大抵の老若男女はつい目を細めて口が軽くなってしまうのだもの。
でも私の前ではわざとらしさがなくなって、今では自然にやってる。
くぅ〜。可愛いぞ。正しく天使だわ。
私の何が運がいいのかいうと、もちろんそれはルーディー君と友達になれたことだ。
両親の仲がずっとギクシャクしたままなので、我が家は毎日どんよりと殺伐とした雰囲気に覆われている。
そのせいで私の気持ちまでも暗くなっていた。
そんな環境の中で、彼と過ごす時間だけはとても楽しいものだったのだ。
だって、彼と一緒にいると、それはもうわくわくすることばっかりなんだもの。
もしかしたら担任のガバナー先生よりも物知りで優秀なんじゃないのか、と思うほど彼は物知りだった。
しかも計算も早いし運動神経もいい。
なんでも魔法を使うには頭と体力がないと使いこなせないのだそうだ。だから勉強だけでなく体も鍛えているらしい。
最初にあの聖地から脱出するときに空を飛んだと思ったのは、単にジャンプをしただけだったらしい。
ルーディー君は体力を強化す魔法というものを使っていたのだという。
まホウキは使わなかったみたいだけれど、やはり魔法だったのだ。
「すごいね。いっぱいいっぱい訓練したのでしょ? 偉いなぁ」
「好きなことだから」
「ルーディー君はやっぱり魔術騎士団の騎士になるの?」
「ならないよ。なりたくないからこの事を秘密にしてるんだから。僕は龍の研究者になりたいんだ」
「龍が好きなの?」
「うん。だからこの町に来たんだ。ここは龍伝説があるから。それじゃなきゃ来なかったよ。
僕を引き取りたいって人はたくさんいたからね」
「・・・・・」
びっくりして声が出なかった。行くところがなくて仕方なくこんな田舎に来ることになったのかと思っていたからだ。
だからこそ、妾の子だと姉や兄に虐められ、大人達に後ろ指を指されて気の毒だと思っていたのだ。
ところが彼は自ら好きでここへ来たというのだから。
でも、引き取りたいって人ってもしかしたら危ない人では……と思ったら、彼がニヤッと笑った。
「君が思うように変態や、僕をペットやアクセサリー代わりにしようとしていた貴族もいた。
だけど、僕の能力を正当に評価して後ろ盾になってくれるといってくれた人もいたんだよ。
でも、自分の将来は自分で決めたいだろう?
だから他人より実の父親の方がまだマシなんじゃないかなって思ったんだ。
世話になった人に逆らうことになったら申し訳なく思うかもしれない。けれど、実の父親ならそれほど気にしなく逆らいやすいだろう?
息子をこんな哀れな立場にした負い目があるだろうし」
この話を聞いた時は、二番目のリーラ姉様と同じくらいの年の人と話をしてる気分になったわ。
でもそれからというもの、私はこの町の近所のお年寄りに話しかけては、さりげなく龍のことを聞き回って情報を収集して、それをルーディー君に伝えていた。
そして、学舎の帰り、二人でその龍に関する隠れた史跡へ足を運ぶのが日課になっていた。
「でも不思議よね。生まれてからずっとこの町に住んでいるのに、龍のことなんて全然気にしなかったんだから。
そりゃあ私の母様が白龍姫と呼ばれていたことは知っていたし、母様の家が白龍姫の末裔っていうのは知っていたわよ。
でも、家の中でそんな話題が上がったことは一度もなかったもの」
「それって何か作為的な感じがするな」
「作為的?」
「不自然とか、わざとらしいって意味さ」
「不自然かな?」
「不自然だよ。オーリス家といったら、大昔からこの周辺を治めてきたというか、護ってきた名門中の名門だろう?
本来氏神様みたいなものじゃないか!
それなのに、その伝統文化を引き継ぐための教育を子供にしないなんて」
「でも、跡を取ったのは母様の妹のアーダ叔母様よ。母様はワントゥーリ家に嫁いだわけだし」
母様は四人兄弟の長子で下に弟二人と妹がいた。
しかし、弟二人は東の国との小競り合いのような争いが起きた時に戦死してしまい、末の妹が従兄を婿にして跡を継いだのだ。
いや、正確に言うと、叔父達は二人とも学園を卒業すると同時に騎士になってしまい、王都から戻ってこなかったのだ。
そのために家を継ぐかどうかわからない息子を待つよりも、末の叔母に継がせることにしたらしいのだが。
「それでもおかしいよ。ワントゥーリ家ってさ、うちのキンペリーや領主のメシトウ家と同じく守護三家じゃないか」
「何それ?」
「古代から白龍姫を産むオーリス家を守る家ってことさ。
やっぱりそれも知らなかったの?
地域の歴史や文化、そして伝統のある伝承を断ち切るだなんて、国の誤った政策の一つだな。強制改宗の弊害だ」
「何を言っているのかわからないよ。説明して」
ルーディー君の話していることがさっぱりわからなくて私は困惑した。
でも彼が眉間にしわを寄せていたから、怒っていることだけはわかった。
だからこそ何に大して腹を立てているのか、それを私は知りたいと思った。
ルーティー君は自分を落ち着かせようとしたのか、深呼吸をした後で、周辺を見回して人けがないことを確認すると、何かぶつぶつと呟いた。
それから何について怒っていたのかを説明してくれたのだった。




