第6章
「ねぇ、ターリャ姉様に助けられたって話、それ嘘よね?」
私がそう訊ねると、ルーディー君は可愛らしく頭を傾げた。けれど、私はもう騙されないわ。
「あなたは魔力持ちでしょ。あの二人に大人しく虐められているなんて信じられないわ」
だって私はあの日、ルーディー君が空を飛んだのを見たんだもの。しかもホウキも使わずによ。
魔法使いってホウキに乗って飛ぶのよね? 見たことはないけど。
「魔力持ちだって知られたくないんだ。だからやり返さない。
君も秘密にしてくれると助かるよ。その対価として君を守ってあげるよ」
「対価?」
「埋め合わせ? 見返り? 報酬? わかる?」
「意味は分かった……
でも、ルーディー君。あなたって本当は何歳なの? 難しいことばかり言ってるし、平気で嘘尽くし、同じ年とは思えないわ。
それにその対価で私を守ってやるってどういう意味?
これから友達になる人の秘密を守るのにそんなものを要求しないわ。馬鹿にしないでよ」
「ごめん。馬鹿にしているわけじゃないんだけど、僕の住んでいた所じゃ、お願い事するには家族でも友達でも対価が必要だったから」
「まあ!」
信じられない。
「王都には無償の愛というものは存在しないの?
あなたのお母様も?」
驚き過ぎて思わず話題にしてはいけないことを口にしてしまった。
「う〜ん。母さんは自分が生きるために僕を産んだんだ。子供がいればあの人に捨てられないと思って。
でも、生まれてきた僕を愛してくれてはいたと思うよ。
それが綺麗なドレスを得るための対価としてかどうかはわからないけれど」
正直、あの時は彼の言っている意味がわからなかった。
でも、私は彼は母親に愛されていたのではないか、と単純に思った。
だって、願い事が叶うと言われる白龍姫の角や爪を探して、こんな遠い場所まで来たんだもの。
そんなにお母様を愛していたということは、きっとお母様からも愛されていたんだと思った。
愛情ってそんな単純なものじゃないというのにね。
どうやら無償の愛というものは神様にしか持てないものらしいし、そもそもそれがそれほど良いものではないってことをその後思い知った。
だってその無償の愛を貫くということは、他の誰が傷つこうが関係ないってことなんだもの。はた迷惑な話だわ。
ただし、だからといって、友人に見返りや報酬を求めるのって、やっぱり違うと思った。
単純だろうが好きな子の喜ぶことはしてあげたいし、悲しんでいる子がいた慰めたいと無意識に思ってしまうんだもの。これって仕方無いことよね?
まあ目の前の男の子と会ったのはまだ二度目だった。けれど不思議なことに、何故か彼は大切な友達にはなると感じたのだ。
見た目と性格のギャップが激しくて驚きはしたものの、この子は絶対に裏切らないと、本能的にそう思ってしまったのだ。
「ねぇ、魔法を使わないでどうやって私のことを守ると言ったの? 自分の身だって守るのが大変なのに難しいんじゃないの?」
私が疑問を投げかけると、彼は再び怪しげな笑みを浮かべてこう言った。
「魔力持ちだって知られたくないとは言ったけれど、魔力を使わないとは言ってはいないよ」
「あ!」
「授業中だけでなく、休み時間や下校時も一緒にいれば僕が君を守るよ。
でも朝は必ずターリャ先輩かモーリさんと一緒に来た方がいいよ。
君、勉強好きなんだろう? そらならあいつらのせいで学舎に来るのを諦めるなんて勿体ないよ」
「うん。ありがとう。でも、モーリ兄様のことも知っているの?」
「今学舎に在籍している生徒と先生の名前と顔と関係性はもう覚えたよ」
私は仰天した。天才だわ、この人。私だって記憶力はある方だと思っていたけど、レベルが違い過ぎるわ、と思った。
ちょうどその時予鈴が聞こえてきた。するとルーディー君は私の手を握ると、昇降口へと向かった。
一月も休んでいたから、私が入り辛いと思ったのだろう。意外な優しさが垣間見えて、私は嬉しくなった。そして同時に恥ずかしくなってしまった。
これまで男の人と手を繋ぐだなんて年下の従弟のタントくらいで、兄達とだってなかったのだから。




