第5章
この世界の王都以外に住む子供達は、身分に関係なく「学舎」という場所で七歳から十五歳まで学びます。
そこを卒業してさらに勉強をしたい者は、王都の学園に編入することになります。
更に専門的に学びたい人のためには大学もある、という設定になっています。
しかしかなり優秀でお金に多少余裕のある者でないと編入できないという設定です。
学舎裏の大きなもみの木の下が待ち合わせ場所だったらしい。
そこに立っていた少年を見て私はびっくりして目を見張った。
波打つ金髪に明るい空色の大きな瞳、透けるような真っ白な肌。
サーラ姉様の大切にしている人形みたいに綺麗だわ。パンツをはいていなければ完全に女の子に見える……
ただし、驚いたのはそこではなかった。目の前の美少年を目にするのは二度目だったからだ。
ところが、向こうは驚く様子もなく、私達を見てニコニコしていた。
「ルーディー君、こっちが私の妹のヨアンナ。あなたと同じ九歳よ。
小柄で一年生くらいにしか見えないかもしれないけれど。
自慢じゃないけど、学校始まって以来の天才少女と言われるくらい頭がいいの。
それにモフモフしていて、子猫のぬいぐるみみたいに可愛いでしょ」
「うん」
「でも虚弱で大人しいから、あなたの兄弟から虐めに遭っていて、学校を休みがちなの。
守ってとは言わないけど、愚痴を言い合う友達になってやって」
姉様、何と言う紹介をしているの! それ褒めているの? それとも貶しているの?
「ヨアンナ、こっちがキンペリー家の末っ子のルーディー君よ。
あんたが以前夢で見たという王子様って、こんな感じじゃない?
綺麗な子でしょう? サーラ姉様の大切にしている人形みたいに。
守ってはくれないかもしれないけれど、目と心の保養にはなるでしょ? 良かったわね」
姉様、またまた何と言う紹介をしているの!
私が絵本好き、しかも頭の中がお花畑のようなドリーミーな女の子だと誤解されたらどうするのよ!
それに夢で見たんじゃなくて、実際に見たのよ。王子じゃなくて天使をね。それが今目の前にいるそのルーディー君よ!
私は姉様をキッと睨んだ。けれどルーディー君はそんなことを気にする様子もなく、にこやかによろしくと言った。まるで初めてあったかのように自然に。
それって演技? それとも本当に覚えていないのかしら?
二か月とちょっとしか経ってないというのに。
まあ、華やかで煌びやかなあちらと違って、私はチョコレート色のふんわりヘアーに薄茶の瞳をした地味な見た目だから、覚えていないのかもしれない。
けれど、ふんわりヘアーが可愛いとか、目が大きくてこぼれ落ちそうだと言われるから、特徴は結構ある方だと思っていたのに。
どうしたらよいのかわからなくてまだ動揺している私を気にすることもなく、今日は日直だから先に行くねと姉様は消えてしまった。
すると、ルーディー君が
「久しぶり。また会えて嬉しいよ」
と言った。やはり知らない振りをしていたらしい。
「なぜ初めて会ったような振りをしたの?」
「だってさ、二人で会った場所のことは説明できないでしょ。
ご禁制の場所だったのだから」
そりゃあそうだ。私は別に構わないけれど、彼からすると知られたくないだろうなと、今さらそれに気が付いた。
そういえば、なぜ彼があそこにいたのかしら?
「お母様のことをお聞きしました。ご愁傷さまでした。心よりお悔やみ申し上げます」
私が頭を下げると、はっと息を呑む音がした。顔を上げると、彼の顔から笑顔が消えて泣きそうな顔をしていた。
「ごめんなさい。あの時力になれなくて」
「なんのこと?」
「二か月前、あなたはあそこで、お母様の病気か怪我を治したくて龍の遺骨を探していたのでしょう? 爪とか骨とか」
ルーディー君は目を見張った。
「私も一緒に探せば良かったのに、それができなくてごめんね。
あの時、小さないとこ達を洞窟の前に置いてきてしまっていたの。だから長くは放っておけなかったの」
すると彼は頭を横に振った。
「気にしないで。君が現れる前にすでに散々探し回っていたんだから。
それにあるわけがないってわかっていたんだ。
だって、最後の白龍姫が亡くなってからもう百五十年も経っているんだもの。
でも、何かに縋りたかったんだ。僅かでも希望を持ちたかったんだ」
私にもなんとなくその気持ちはわかるような気がした。
伝説なんて作り話だという人もいるけれど、大抵のおとぎ話には元ネタがあるそうだ。単なる作り話で後世まで語り継がれたりするものは滅多にないらしいし。
私の住む町には白龍姫の伝説があって、なんと母様の生家がその末裔だと言われている。
母様が町の人達から白龍姫と呼ばれているのはそのせいだ。
もっとも、みんなは本気で白龍姫の生まれ変わりだと信じているわけではなく、母様が絶世の美女で気品があるからそう言っているだけなのだと私は思っていた。




