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記憶を失った白龍姫と聖龍騎士  作者: 悠木 源基


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第20章  父親視点④


 ちょうどその時だった。街中に警報が鳴り響いた。緊急招集の合図だ。

 俺達はすぐさま店を飛び出すと、人々の流れに加わった。

 やがてその流れは王城と騎士団のふた方向へ分かれたので、俺達は王城を選んだ。

 そして城門に足を踏み入れようとした時にこんな会話が耳に入ってきた。

 

「北の辺境伯領が魔物に襲わて壊滅したらしい。そして魔物達の侵攻はさらに進んで、国の中心部に向かっているみたいだ。

 これから第二、第三騎士団が北へ派遣されるそうだ」

 

 それを聞いた俺達は方向転換をして、人波に逆らって駅に向かって走った。

 そして走り出そうとしていた北方行きの汽車に飛び乗った。

 そして、昼過ぎ、目的地まで後半分という辺りで俺は再び胸に激痛に襲われ、目には涙が溢れた。

 俺が蹲ると同時にハルトンも呻き声を上げた。

 

「どうしたんだ、二人とも!」

 

「「白龍姫様!」」

 

 俺達は同時に叫んだ。

 ヒラリス嬢が白龍に変化したのを本能で感じ取ったのだ。白龍姫は怒り狂っている。そして泣き叫んでいるのがわかった。

 彼女はこの国の近衛騎士達に暴言を吐かれ、脅しを受け、暴力を受けた。

 そして辱めを受けようとした瞬間に防御反応で、人としてのリミッターが振り切れたのだ。

 

 早く、早く姫の側へ行かなければ、怒りを抑えなければ、人に戻れなくなる。

 俺とハルトンは焦りを感じ、イライラしながら痛む胸に手を当てて、車窓から睨むように外の景色を見ている以外に術がなかった。

 そして夕方近くになって、汽車は急停車した。

 

「龍だ! 逃げろ!」

 

 周辺に悲鳴と叫び声が上がった。

 急いで客車から出てみると、北方の空に白龍が空中を旋回しているのが見えた。

 しかもあちらこちらから火の手と白い煙が上がっていた。

 

 辺りを見渡すとそこは草原で、囲いもあることから牧場であることがわかった。そちらに向かって走って行くと、馬達が興奮して暴れ回っていた。

 厩舎に入ってみると馬具が置いてあったので、とりあえず手頃な馬を捕まえて、(くら)頭絡(とうらく)、ハミ、そして手綱(たづな)を装着して飛び乗った。

 

 馬は臆病な生き物だ。見知らぬ人間に乗られた上に魔物の異様な邪気に向かって進むなど、本来のあり得ないことだった。

 しかし、これが神や精霊の血のせいなのだろうか、馬は恐れることも嫌がる素振りもなく俺達の指示に従った。

 

 俺達が辺境伯の城に辿り着くと、城は真っ黒に焼け落ちて崩壊していた。

 そして、血の色に染まっていた。しかしそれは人間ではなく魔物の血だった。有象無象の魔物が無残な姿で当たり一面を覆っていた。

 

 数人の生存者を見つけて説明を求めると、魔物が大量に攻めてきて、火を吹いたり踏み潰したりして、城や城下の街並みを破壊していったという。

 辺境騎士団は何の抵抗もできずに一目散に逃げ出したという。

 そこへ立派な護送車が三台現れたので援軍かと喜んでいたら、轟音とともに爆発したので、みんなあ然としたという。

 魔物に攻撃されたわけでもないのに破壊されたからだ。

 

 その直後に大きな白龍が現れて魔物を殲滅させたのだという。

 

「あの白龍が城や民家を襲ったわけじゃないんだな?」

 

「もちろんです。あれは魔物がやったのです。あの白龍姫様は我々を助けて下さったのです」

 

「白龍姫様?」

 

「護送車に乗っていた騎士らしき男が、死ぬ直前に『我々はとんでもない過ちを犯しました。お許し下さい、白龍姫様……』と呟いたんです」 

 

 俺達は顔を見合わせた。やはり自分達の考えていた通り、近衛騎士達はヒラリス嬢に悪辣非道な扱いをしたのだろう。

 

 

 彼女が今どんな精神状態なのかはわからない。ヒラリス嬢の心なのか、それとも白龍という神としてのものなのかも。

 なんとも悲しげな咆哮を上げて、白龍は空中を旋回していた。行く当てなどどこにもない、どうすれば良いのか分からない、まるで迷子のように。

 

 ああ。俺が素直に自分は守り人なのだと納得して、あのまま故郷に残っていたら、きっと彼女を守れたに違いない。

 俺が、俺が悪いんだ。

 たとえ彼女を思う気持ちが恋愛としての感情でも、そうじゃなかったとしても、大切に思っていたのは事実だったのだから、素直にその気持ちに従えば良かった。

 そうすれば、彼女をこんなに苦しめなくて済んだのだ。

 

 俺は声の限りに叫んだ。

 

「ヒラリス嬢!

 俺がこれから君を守る! 全身全霊をかけて死ぬまで守り続ける。

 だから戻ってきてくれ!

 もう怖い思いも辛い思いもさせないから!

 頼む、戻ってきてくれ!」

 

 すると白龍姫はギャーという怒りの声を上げたと直後に、俺に向かって口から何かを放った。

 激痛が走り、右足から崩れて俺は両手を地面に付いた。

 それでもなお叫び続けた。

 

「必ず君を守る。嘘じゃない。命をかけて君を守る。俺を信じてくれ!」

 

 白龍姫は暫くなんの反応もせずに飛んでいたが、それでも俺が何度も何度も叫んでいるうちに、やがてそのスピードは緩やかになり、徐々に降下してきた。

 そして辺りが暗闇で覆われた頃、丸い月の光りに反射して白く輝く龍が、俺の前に降り立った。

 

 俺は白龍姫の前に跪き、忠誠を誓った。すると、ショータン先輩とハルトンも俺の両脇で跪いた。

 すると白竜はシュルシュルと縮んでいき、暗闇の中に消えた。

 そして俺は、腕の中で気を失ったヒラリス嬢を抱き締めていたのだった。

 

 

 

 

 その後俺とハルトンは、ヒラリス嬢を連れて密かにツーホーク領の領都リューキへ戻った。

 後始末はショータン先輩と北の辺境伯でやってくれた。

 

 魔物退治に非協力的だった国に対して北の辺境伯は長年恨みを抱いていた。

 ようやく手を貸してくれると思っていたら、自分の駒は寄越さずに、卑怯な真似をした。

 自分達がその存在を否定している白龍姫を誘拐して人質にし、魔力持ちを脅迫して招集し、魔物退治をさせようとしたのだ。

 

 結果的にその白龍姫によって、これまで散々苦しめられてきた魔物を殲滅させられたわけだが、感謝すべきは白龍姫であり、国でも騎士団でもドラティア神でもない。

 

 彼らは白龍姫に感謝し、これまでの信仰及び国への忠誠心を捨てた。

 それは生き残った北の辺境伯領内の人々の総意だった。

 だからノコノコと後からやって来た騎士団の調査にも白龍姫のことは一切口にせず、ドラティア神の使い方の方と、近衛騎士の皆さんに助けてもらいましたと、皮肉をこめてそう答えた。

 それが事実ではないことを国の上層部は知っていたが、それ以上深く訊ねることはできなかった。

 そんな国に対して北の辺境伯はこう告げた。

 

「今回の被害はかなり大きかったので、このままでは北方の守りは到底できないので、支援をして欲しい。

 もしそれが無理ならば、領地は手放すので、国の直轄領にして下さい」

 

 そう言われて役人も騎士団も真っ青になった。

 

 屈強な北の辺境伯と辺境騎士団に見捨てられたら、北方の守りはどうすればいいのか。

 ただでさえ東の国が武力を増強しているという噂があるのに。

 しかも西の国境に位置するツーホーク領の領主も、今回のことで嫡男に幽閉されることになり、国に反目することは目に見えている。

 支援金を支払わなければ、領地全体で離脱しようという動きが出てくるかとしれない。

 

 これまで王都や一部の大都市に住む者達だけが平和と自由と贅沢を享受してきた。そのつけが回ってきたのだ。

 

 

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