第15章
ルーディー君は先週白龍姫の聖地で私に語ってくれたように、この国の歴史と、白龍姫と守護三家に関する話をしてくれた。
もちろん母様が昔誘拐されて白龍姫に変化した話や、父様が聖龍騎士だった話も。
姉様達は聞いている間も聞き終わってからも暫く絶句していた。そりゃあそうだろうな。
「サーラ姉様、リーラ姉様。もう私を守らなくても大丈夫だよ。ルーディー君が守ってくれるから。
それに家のことはもういいから、自分達の幸せのことだけを考えて」
私がそう言うと姉様達は頭を振った。
「私達がワントゥーリ家の人間として守り人に選ばれたというのなら、ルーディー君一人にその責を負わせることはできないわ」
「そうよ。そもそもそんな重責を背負わされた妹を放って隣国へなんか行けないわ」
「隣国なんて川の向こうじゃない。王都へ行くより遥かに近いわ。汽車で二日で帰ってこられるのだから。
そうだ。サーラ姉様もリーラ姉様と隣国へ行けばいいんだわ。王都どころかここよりよっぽど安全よ」
隣国のエストラード協和国は先進的な国で、融和政策をとっていて懐の深いお国柄だ。他民族や他文化にも理解が深い。
排他主義で旧態然としたこの国よりよほど暮らしやすいに違いない。まだ子供の私でもそれくらいわかる。
「ついでに、兄様達も彼の国の学園に進学した方がいいんじゃないの? 留学生を対象とした奨学金制度もあるというし。ただし、当然隣国で五年働くという条件があるらしいけれど」
「なぜそんなことを知っているの?」
「トムリ=アックムさんに教えてもらったから」
私がそう答えるとリーラ姉様が喫驚した。
トムリ=アックムさんとはリーラ姉様の恋人で、隣国のエストラード協和国の大商会の二男。
姉様の勤めている大型商店街の多くの店と契約を結んでいるやり手だ。
「女性騎士の募集もしているらしいし、サーラ姉様も採用試験に応募してみたら?
トムリ=アックムさんは愛する人のお姉さんなら僕にも大切な家族ですから、仕事が見つかるまで一緒に住みましょうって言ってくれたわ。
もし、騎士がだめでも商会で雇ってくれるって。役所に勤めていた人なら間違いないからって。太っ腹よね」
「「何勝手に進めているの!!」」
息がぴったりだな。
多分私がリーラ姉様にそっくりだから、トムリ=アックムさんは私に親近感を持ってくれたんだと思うわ。
リーラ姉様が嫁いでくれるなら、家族みんな面倒見る覚悟があるとまで言ってくれた。
でも、人間甘え過ぎはいけない。駄目人間になってしまうもの。
だから、兄達の留学手続きの手伝いと、サーラ姉様が仕事を見つけるまで世話をしてもらえるだけで十分ありがたいです、と言っておいた。
残された者はどうにでもなるので心配ないと。
まあ、そう言ったらなぜか泣きそうな顔をしていたけれど。
とにかく頼りがいがあるし、優しいし、リーラ姉様をとても大切に思ってくれる人だと分かって安心したわ。
「姉様達、手に負えないような事が起きたら、必ず助けを求めるから、隣国へ行って幸せになって。
不幸からは不幸しか生まれないって本に書いてあったわ。
姉様達が幸せになれば母様も幸せになる。そうすれば父様のことも許せるようになって、昔のようにみんな仲良くなれると思うの」
私の言葉に姉達は目を見張った。そして二人とも涙をスーッと流しながら
「まだ子供のくせに生意気ね」
「おっとりした子だと思っていたのに、こんなにしっかりしていたなんて驚いたわ」
とはいえ、子供の私の提案にそう簡単には乗ってくれなさそうだった。自分達が白龍姫の守り人だと知ってしまった以上、母親や妹を残してこの地を離れることを二人が躊躇っているのを感じた。
正直私は焦りを感じた。
すぐに結論を出せる話ではないことくらいわかるけれど、こういうことは勢いに乗じて進めないと、なあなあになってしまう気がしたのだ。
すると、ルーディー君がそこに救いの手を差し伸べてくれた。
「僕、この国に来てから住民の過去の戸籍を色々と調べてみたんですよ」
えっ? それって例の盗み見?
役所勤めのサーラ姉様の顔が引きつったのが分かった。
「オーリス家と三守護家って代々多産傾向にあるんですよね。
産むのは女性なので先祖の血というよりは、多産系の家からお嫁さんを迎えていたのでしょうね。白龍姫や守り人の後継が生まれるまで産み続ける必要があったから。
四家は平均で五人以上はもうけているですよ」
なるほど。母様は四人兄弟で父様は八人兄弟だったわ。
父様は、お前が生まれたから母様が亡くなったと父親や兄弟達に疎まれて放置されたらしい。けれど、それって父親が強制的に子供を産ませたせいじゃない!
ふざるな!だわ。今生きていたら爺様を殴ってやるところだったわ。あ、伯父さんや伯母さんはまだ生きてるから、いずれ思い知らせてやるわ。
「ええと、僕が何を言いたいのかというと、四家の血を引く子孫はこの国はもちろんのこと、各国にもたくさんいらっしゃると思うのです。
ですからそういう方々を見つけ出して連絡を取り合えば、白龍姫というか、この地を守る包囲網を形成できるんじゃないかと思うのです。
正直このツーホーク領の領主やドラティス王国の王族って怪しいというか、信用できないんですよね。
いつこの領地を裏切るか分からない気がするんですよ」
「つまりクーデターを起こす準備でもしようということ?」
「まさか! そうじゃなくて、いざという時のための備えですよ」
ルーディー君は天使のような笑顔を浮かべながら、コテッと頭を傾けた。
相変わらずのそのあざとい仕草に私は呆れたが、初めてその可愛い様子を目にした姉達は胸キュンしていた。まあ、その気持ちはわかるけれど。
その後なんだかんだと話し合った結果、リーラ姉様はトムリ=アックムさんと来春に結婚することにした。
そして嫁ぎ先のエストラード協和国へ向かう際にサーラ姉様と兄二人も帯同しようということになった。
サーラ姉様はエストラード協和国の騎士採用試験を、そして兄達は学園の入学試験を受けるためだ。
もちろん最終決定はトムリ=アックムさんや兄達の意見を聞いてからだったのだけれど、案の定彼らも皆乗り気になった。
そしてそれまでの約半年間、全員がそのためのに準備に励むことになったのだった。




