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記憶を失った白龍姫と聖龍騎士  作者: 悠木 源基


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第11章


 ルーディーの話をそこまで聞いて、私はなるほどとようやく納得したことがあった。

 それは生徒達に人気のあるマータン=メシトウ先生が、他の教師や父兄からあまり良く思われていない、その理由がわかったからだ。

 

 マータン先生は領主のメシトウ侯爵様の息子なのだ。まあ三男なので教師なんてものをしていられるわけだ。

 知識が豊富で教え方が上手い。しかも生徒思いの良い先生で、生徒達に好かれている。もちろん私も大好きだ。

 けれども陰で、先輩教師から嫌味や意地悪をされているのを知っている。

 担任がマータン先生だとわかってクラス替えを要求した親もいたわ。私とならすぐ代わってあげたのに。

 

 でも、なぜあんなに疎まれているのかって不思議だったけれど、メシトウ家が嫌われていたせいだったのね。

 でも、マータン先生がメシトウ家の人間だということは、白龍姫を裏切った一族家ということよね。

 つまりは我が家とは敵同士ってことよね?

 となると、先生とサーラ姉様は禁断の恋人達ってこと?

 

 マータン先生はサーラ姉様は学舎時代の一年年上の先輩だった。

 二人は常に首位の成績を取り合うほど優秀で、剣の大会でさえも優勝を争うライバルだったそうだ。しかも生徒会では共に役員をしていた。

 

 二人は密かに悲運の恋人達と呼ばれていたらしい。実際は付き合っていたわけではなかったのに。

 とにかく二人は一緒にいるだけでお似合いで絵になったのだという。まるで王子様とお姫様のようだと。

 ただし、王子様はサーラ姉様で、お姫様がマータン先生だったらしいが。

 

 有名な騎士だった父親似のサーラ姉様は、色黒で目鼻立ちがはっきりした凛々しい顔立ちをしている。

 それに対し先生は雪のように真っ白できめ細かい肌をしていた。

 明るい茶髪は柔らかくてウェーブがかかり、同じく明るい茶色の大きな瞳にはカールした長いまつ毛がついていて、瞬きする度にバサバサと音が聞こえてきそうなほどだ。

 とにかく先生は庇護欲を誘うような容姿をしているのだ。

 しかし性格は二人とも見かけとは全く違っていた。

 

 姉様は六人兄弟の長子であったために、物静かで我慢強く、自分の気持ちを内に閉じ込めるタイプだった。

 それに比べて先生はなんと九人兄弟の真ん中で、下に四人も弟や妹がいたのだが、上にも三人の兄がいたために弟気質だった。

 つまりやんちゃで曲げす嫌いで喧嘩っ早い性格らしい。

 

 リーラ姉様がマータン先生の妹と同級生だったので、彼女からよく兄の愚痴を聞かされていたらしく、その実態を私達姉妹もよく知っていた。

 

「可愛い、可愛いって兄ばかり可愛いがられて、他所様から色んな物をもらうくせに、私には少しも分けてもくれないの。それどころか、私のおやつを横取りするのよ」

 

 それだけ聞くとどうしようもない兄のようだが、虐められているとすぐに助けに来てくれる優しさもあったという。

 リーラ姉様に言わせれば、マータン先生は喧嘩がしたかっただけじゃないかとのことだったが。

 

「サーラ姉様は優しい兄という存在に憧れていたんでしょうけど、あの方はがき大将で兄って感じじゃないわよね。

 それにしてもあれほど見かけと性格にギャップがある人も珍しいわ」

 

 と呆れたようにリーラ姉様呟いていた。

 

「サーラ姉様の片思いなの?」

 

「それは分からないわ。でも、マータン様には隣国にすでに幼い頃からの婚約者がいたのよ。

 だからサーラ姉様は自分の気持ちを胸に閉じ込めていたし、彼の方も気を持たせるような真似はしなかったと思うわ。

 そもそも、生徒達はお似合いだって無責任なことを言っていたけれど、大人達がそれをよく思っていなかったことは、二人がよく分かっていたと思うし」

 

「なんでよく思われなかったの? あちらが領主の息子でこちらが貧乏だから?」

 

「私も詳しくは知らないわ。でも、家柄だけならうちの方が上なのよ。

 釣り合わないというのなら、あっちが裏切り者の一族だからよ」

 

 裏切り者の一族という意味が当時の私には分からなかったけれど、おそらく姉も正しくは分かっていなかったと思う。

 ただ周りがそう言っていたからだと思う。

 でも叔母は知っていたと思う。サーラ姉様とこんな会話をしていたのを聞いてしまったから。

 

「あなた、卒業してからもメシトウ家の息子と付き合っているの? 図書館で一緒にいる所を見たって人がいるわよ」

 

「付き合っているわけじゃありません。偶然に会ったので、お勧めの本を教えてもらっていただけです。

 私は王都の学園に進学できなかったので独学したいと思って」

 

「あら、そうなの。あなたは勉強が好きだったものね。

 お義兄様に甲斐がないからあなたも可哀想に。

 でも、役所に勤められるようになったのだから、あまり無理することはないのよ。

 

 あそこは裏切り者の家だから、三代に渡って嫁の来てがなくて他所の領地から嫁をもらっているのよ。

 あの三男も王都の学園を卒業したら隣国の領主の娘と結婚するんでしょ。

 メシトウ家はよそ者の血の方が濃いのだから、もうこの領地の人間なんかじゃないわ。

 それなのに領主を続けているんだから図々しいというか、恥知らずよね。

 だから、あんな家の息子とは親しくしないでね。」

 

「・・・・・・」

 

 姉様は俯いていた。返事をしていたのかどうかは分からなかったが、叔母様はその後何も言わなかったから、おそらく了承したのだろう。

 あの時はなぜ叔様があんなことを言ったのか理解ができなかったが、今ようやくわかった。

 確かに三守護家だったのにオーリス家というよりこの地を裏切ってドラティス王国に寝返ったのだ。そりゃあ裏切り者だと陰口を言われても仕方ないわよね、と思ったのだった。

 

 

 

 

 

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