第6話 彼女の真似した髪が残念なことに
純白のレースで囲まれた天蓋つきのふわふわで広いベッドの上、エリーサベト・モルベリは、窓の外で鳴くスズメの鳴き声で目を覚ます。ふわりとした茶髪のパーマでくるくると寝癖がさらに暴れん坊になっていた。最近、彼女の髪型を真似してみようとやってみたが、お手入れが大変で、手こずっていた。無造作ヘアだということにして、そのままやり過ごすと母にきちんと整えなさいと注意されることもあった。もちろん、家庭教師のザンドラ・ピーロネンも呆れてしまうほどだ。
シルク素材のピーコックブルー色のネグリジェを着ていたエリーサベト・モルベリは、あくびをしながら、体を起こして三面鏡のドレッサーの前に座った。昨夜と比べて、肌がカサカサでシミが増えている。あんなに厚塗りしたファンデーションでも紫外線を防ぐことはできなかったようだ。連日の屋外での乗馬で日焼けをして、シミになってしまった。
「お肌が~。こんなにシミ増えてるぅー」
「肌に紫外線は大敵ですからね。今週のレッスンは屋内でバイオリンですよ」
ザンドラ・ピーロネンは本棚からバイオリンのスコアを選びながら声をかけた。そこへ扉を開けて入って来たのは侍女のマーナだった。コルセットを着ける準備を始めていた。
「マーナ、私、シミまた増えちゃったわよぉ。ビタミンがいいって言うから果実酒を飲んでいるんだけど、全然効かないわ」
「エリーサベトお嬢様はいつでもお綺麗ですよ。シミができたくらいでお気になさらないで」
「まぁ、うまいこと言うよねぇ。マーナはいつでも私の味方よね」
「ええ、まぁ……それが仕事ですから」
「マーナ、かなり現実的ね!」
「それしか言えませんから。エリーサベトお嬢様、コルセットつけますよ。朝食のお時間に間に合いませんよ?」
「……もう、分かったわ。やってちょうだい」
エリーサベト・モルベリはザンドラ・ピーロネンとは話せない雑談をできるマーナとの時間を大事にしていた。リラックスして話せるのは彼女くらいだった。いつでも眼鏡をくいっとあげて睨みつけてくるザンドラ・ピーロネンにいつもヒヤヒヤしていた。
「エリーサ、今日はバイオリンの他にピアノ、ティンパニーのレッスン予定ですよ」
「えー、なんで、そんなにレッスンしなくちゃいけないの?」
コルセットを着けながら、話すエリーサベト・モルベリは、苦しい顔を時々しながらザンドラ・ピーロネンに不満顔を見せていた。
「オレリアン王様主催のお嬢様たちのコンサートが開催されるようです。婚活の一つになるようにと花嫁修行のお披露目ということですね」
「花嫁修業でコンサート? 楽器演奏が花嫁なの? 料理のおもてなしとかダンス披露じゃないの?」
「……どれも苦手なものをおっしゃるのですね。オレリアン王様は、エリーサの得意なものをとしてお選びなさったのですよ。お分かりいただけましたか?」
スケジュールを記入した手帳を開き、確認するザンドラ・ピーロネンに下からじーと見るエリーサベト・モルベリはコルセットを着け終わって、近づいた。
「お父様も勝手にお決めになるんだから。いつ私が楽器演奏が得意と言ったのかしら」
「エリーサが唯一得意なのは楽器ですよね?」
「違うわ! 私が得意なのは雑談よ!!」
「……そうでしたか。オレリアン王様に確認をとっておきますか?」
「いいわよ、もうスケジュールが決まってるんでしょう。やりましょう。緊張してできないかもしれないけど、挑戦することに意味があると思うから」
「練習時間はたっぷりありますよ?」
「……がんばりますよ、私なりに。マイペースに」
「期待してますよ、エリーサ。朝食を召し上がったら、レッスンですよ」
「はーい、行ってきます」
(楽器演奏を練習したら、パトリックに会うきっかけ作れるかもしれないし、意味があるわ。確か、パトリックはフルートが得意だったはず……)
鼻歌を歌いながら、食卓にスキップして向かうエリーサベト・モルベリの着ていたドレスはふわりと揺れた。思わず通りかかったキュリアクス・ゲウサの顔も緩んだ。ご機嫌な彼女の姿にほっと一安心していた。




