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悪役令嬢は有能侯爵夫人と結ばれたいー理解されないと思ったら、あっさり受け入れられましたー  作者: 餅月 響子


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第3話 舞踏会の隅で飲むシャンパンは美味しい

 煌びやかな装飾がされた長テーブルに前菜からデザートまでのフルコースが並べられていた。まるで絵画のような大きなお皿に描かれた前菜のサラダは庶民ならば食べるのがもったいないと感じるほどだった。


 裕福でなければ手をつけられない鹿や猪などの狩猟肉は、栄養価も高く食べ応えがある。今日も将来の花婿を見つけるために舞踏会が行われていた。


 目元には猫や狐などの型取った仮面がつけられていた。

 顔を見ずともお互いに会話をして交流をするという計らいだった。

 顔で判断せずに相手を決められるため、お祭りのように盛り上がり好評だった。


 悪役令嬢であるポジションのエリーサベト・モルベリは、参加者であるバテドロン国のフェリシア・リドマンの妹であるハンナ・リドマン令嬢にいじわるをするというものだったが、そのことに全くを興味を持たなかったため、主催者側であるにも関わらず、隅の隅の方に椅子を運んで、ちびちびシャンパンを飲んで座っていた。本音は胸が張り裂けそうなくらいに寂しい思いをしている。


 邪魔者がいなかったハンナ・ソルベッリは清々しい気持ちでギノノ王国のパトリック・フェリデンの弟であるナマスール・ハミルトン男爵だんしゃくにアプローチを仕掛けていた。身に着けていた兎の仮面が可愛いですねと声をかけられてから既にカップルのような雰囲気になっている。


 本来ならば、リオン・クニーゼ子爵ししゃくは、ロマレウ帝国の令嬢のエウルア・ノスロピと結ばれる設定だったはずが、いつの間にか状況が変わり、隅っこの方でちびちび一人寂しくシャンパンを飲んでいるエリーサベト・モルベリに興味を示した。エリーサベト・モルベリが身に着けた仮面は猫の形で、リオン・クニーゼ子爵が着けていた仮面はコウモリの形をしていた。


「一人で飲むのは美味しいですか? それ」

「……ええ、まぁ。そうですね」


 ここに家庭教師のザンドラ・ピーロネンがマナーが悪いと怒られそうな態度で対応していた。椅子の上で膝を抱えて座っている。ドレスがぶわっと広がって、シャンパンがこぼれそうになった。インナーも見えそうになるくらいだ。


「……とても、大胆で素敵です」


 この時代で緊張感漂う貴族同士の舞踊会に端の方にいるにも関わらず、ひときわ目立つエリーサベト・モルベリに興味津々のようだ。本当はこんなところにいたくなくいのが本音で、すぐにでもパトリック・フェリデンのところに駆けつけたい思いにあふれていた。それでも、既婚者であって住んでいるところも遠い。この舞踏会が終わったら、思い切って馬車を出して行ってみようかと考えていた。


「…………」

 

 頭の中はどうやって外に出ようかと考えるばかりで、リオン・クニーゼ子爵に話しかけられていることを忘れてしまっている。


「エリーサベトさん?」

「へ?」

「……さっきから、何してるのかしら」


 悪役令嬢ではないのに、配役がチェンジしたようでエウルア・ノスロピが恐ろしい顔をして、近づいてきた。これからリオン・クニーゼ子爵にアプローチを仕掛けようとやる気満々のエウルア・ノスロピが腕組をしてこちらを見ている。たまらず、後退してしまった。彼女のマナー家庭教師は厳しいことで有名であった。ザンドラ・ピーロネンより厳しいってどんな環境なのだろうと想像してしまう。


「い……」

「貴方、一体何をしてるの?」

「へ? えっと……」

「女はスカートを広げて見せてはいけないのよ。そんなことも知らないの」

「は、はぁ……」


 見せているわけではない。見えそうになっているだけだった。それでも、それが気になったエウルア・ノスロピは、いじわるするつもりがマナーを教える優しい人になっている。痛くもかゆくもないエリーサベト・モルベリは、椅子を丁寧に元に戻して、煌びやかな長テーブルの方へ移動しようとした。


「ちょっと、お待ち!」

「僕は眼中にないんだよね。戻ろうかな……」

 

 エウルア・ノスロピは、エウルア・ノスロピよりもエリーサベト・モルベリが気になったようで、エウルア・ノスロピはそっちのけになってしまっていた。シャンパン片手に静かにテーブルに戻っていく。

 

「あ、鹿肉だ。食べた事ないものは食べておかないと……」

 

 エリーサベト・モルベリは食事中心からいつの間にか立食パーティのようにみんなが集まって談笑し始めたため、隅の方に移動していたが、もう誰も座っていない長テーブルでメインディッシュの鹿肉に手をつけようとした。前世は日本人で鹿肉なんて食べた事がなかったエリーサベト・モルベリは楽しみで仕方なかった。


「……花より団子ってことでしょうか? 仮面舞踏会だというのに会話に参加しないなんて、主催者さんは婚活する気ないんですね」


 ダリウス・リドマン伯爵は、バテドロン王国のフェリシア・リドマンの弟であり、パトリック・フェリデンの義弟であった。幼少期からの幼馴染でもあって、エリーサベト・モルベリの性格は大体知っていた。


 エリーサベト・モルベリがパトリック・フェリデンを好きということだけ彼は、知らない。


「ダリウス、貴方こそ。真剣じゃないわね。ここにいるもの。一体何にしに来たの?」

「……そうですね。僕は、そう、この鹿肉の調理方法を勉強しに来たところです。いつかの花嫁様にご馳走したいですからね」

「その料理を作るのは誰よ」

「もちろん、コックですよ」

「ふーん。そこで自分で作るっておっしゃったのなら、考えてもなかったわ」

「なぬ!? ……いやいや、間違いました。そうですね、僕が作って見せましょう。マッシュルームソースがとろりとかかった鹿肉ステーキなんて朝飯前ですよ!」

「もう、遅いのよ」


 エリーサベト・モルベリはやけくそにノンアルコールのシャンパンからオレンジジュースに変えてぐびぐび飲んだ。


「ぷはぁ! 生き返るわぁ」

「ハハハ……エリーサはまだまだお子様ですね。それジュースじゃないですか」

「う、うるさいわねぇ」


 素の自分を見せられるのは、パトリック・フェリデンとダリウス・リドマン伯爵だけだ。転生してからの幼少期の幼馴染イベントはゲーム設定には無い特別な関係性だ。あのシロツメグサの冠を作った時も、近くで木登りをしようとしたダリウス・リドマンがいた気がしたと思い出す。


 あの時はパトリック・フェリデンとの時間が愛しくて考えることがそこしかなかった。記憶の片隅にすっとあったことを今はっきり思い出されてきた。

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