第1話 プロットホールに飲み込まれる
エリーサベト・モルベリはオスタワ王国の令嬢であり、独身だ。オレリアン・モルベリはエリーサベトの実父であり、威厳がない。幼くして、母を亡くす。
病弱だった母は、ベッドの上で息を引き取った。その記憶しか残されていない。それはメインストーリーでも通常な流れである。シングルファーザーの元、育ったエリーサベトはどこか常識から逸脱した人間になっていた。
いずれ、この国を引き継ぐ王を婿として迎えなければならないとされていたのを、いくら舞踏会を開いてもこれだというフィアンセは現れない。決めるのはもちろんエリーサベト本人だが、父であるオレリアン・モンべリの胃に穴が開きそうだった。 悩みに悩んで、オレリアン・モルベリの頭には十円ハゲどこか全体が薄くなってしまう。もう、生えているのか分からないくらいの長さだとして、スキンヘッドになっていた。ぽりぽりと頭をかいて、玉座に座っていると側近であるフロレンチノ・カブラルが自分の右手をぎゅっと握り、そっと話しかけた。
見えている景色が乱れ始める。
白いざらざらした空間になっていく。
ノイズが時々耳に入ってくる。
「オレリアン王様。どうかなさいましたか?」
「んー……毎度のことなんだが。エリーサベトの伴侶がなかなか見つからなくてね。私もいつまで生きていられるか分からないだろう? 見守ってくれる人が一人でもそばにいてくれたらなぁ。エリーサベトの母もいないわけだしなぁ」
オレリアン・モンベリは何度もため息をつく。国をまとめる王が考えることは山ほどある中で、たった一人の娘の結婚相手のことで頭がいっぱいだ。選びようによっては、国同士の問題で争いが起きることもおかしくはない。難しい問題だった。
「オレリアン王様。大丈夫ですよ。エリーサベトお嬢様は立派にお育ちになっておられます。ご自身のことも十分理解してると思いますよ」
「理解するだけじゃダメなんだよぉ。相手を見つけなくては!」
「おっと、それはそうですけどもねぇ」
すると物静かだった王座の間に慌ただしく入ってきた一人の兵士がいた。
大きいノイズが何度も入った。声が遅れて聞こえてくる。
「た、大変です! 王様、すぐにご指示をいただけないでしょうか?!」
兵士の主語が抜け落ちていて、何のことを言ってるか理解できなかった。
「何事か!?」
汗びっしょりの兵士にオレリアン・モンベリは心中穏やかにはなれなかった。 フロレンチノ・カブラルも身が引き締まった。
「今、城下町の門にバテドロン王国のフェリシア・リドマン侯爵様が兵士数名を引き連れて、戦闘態勢でいらっしゃいます! 私たちとしましては、王様の指示がなければ動けません。今は門番の手によって城内に入らないように止めに入っております!!」
ぼんやりとここで油を売っている場合ではない。なぜここに攻め入ってくるのかは検討がつかない。
「なぜ、フェリシアが?! 幼き頃、私が何度もお世話をしたというのに恩を仇で返されるとは、私が一体何をしたというのか。よし、ただ待っているだけではいかないな。兵士をかき集めろ。街の住民たちを皆避難させるんだ。私もこの恰好ではいけないな。鎧を装備しなくては……」
まさかの出来事にオレリアン・モンベリは爪を噛むのをやめられなかった。平和な時間が長かったのがいけなかったと自分を責め始める。
―――その頃、エリーサベト・モルベリの部屋では
「もうパトリックったら! 負けちゃったじゃない。本当に昔から強いわよね。テーブルゲーム。次は私が先攻ね。パトリックが後攻よ」
エリーサベトとパトリックは、大きなテーブルの上で、侍女のマーナと清掃員のジュリに見守られながら、バックギャモンというテーブルゲームを楽しんでいた。
茶色の盤の上には黒と赤の駒が置かれており、サイコロが転がっていた。二人は、幼少期から一緒に過ごす時間と言えば、トランプやこのテーブルゲームだった。
懐かしさのあまり、やってみたくなったエリーサベトはついつい夢中になってしまう。これからマナーレッスンがあるというのに隣でザンドラが眼鏡を光らせて、ギロリと睨んでいた。冷や汗が止まらないエリーサベトだ。
「エリーサ、いつまでやっているのですか。もうすぐ、バイオリンとピアノのレッスンが始まるんですよ。その次はお料理教室にお裁縫教室。今日のスケジュールは先週より三コマ増えているんですから、急いでくれませんか?」
「ちょっと、待ってよ。ザンドラ、なんでそんなにレッスンが増えているの? 先週
まで一コマだけだったじゃない。なんで?!」
「私の指示ではありません。これはオレリアン王様の指示です。私はエリーサを指導するようにとのことです!」
「あのじじぃ。何を考えているんだか……」
ゲームを楽しみながら、エリーサベトの顔が怖くなっている。横で見ていたパトリックは苦笑いをするしかなかった。
「エリーサ!! 心の声が聞こえてますよ。言葉に慎みなさい」
「はーい。承知いたしましたわ」
エリーサベトは人が変わったように甲高い声で返事をする。ザンドラは肩をすくめて呆れてしまう。
「エリーサ、おじ様も心配していらっしゃるのよ。エリーサの結婚が待ち遠しいっておっしゃっていたもの」
「それはわかるけどぉ。私は結婚に興味ないって何度も言ってるんだけどなぁ。理解してくれないのよ」
「まぁ、エリーサだけの問題じゃないこともあるからね。それは仕方ないでしょう」
「…………パトリック。当分は一緒にいてくれるのよね」
「急にどうしたの? まぁ、そうね。元の場所に帰るつもりはないけれど。エリーサが迷惑じゃなければ一緒にいるわ!」
「本当、やった。それは嬉しいわ」
幸せな時間はそう長くは続かないことに気づくにはもう少ししてからだった。
本来進むべきルートを脳内に組み込まれているはずのそれぞれのアバターたちの行動はずれにずれて、本人たちが思うべき方向へと導かれていく。エリーサベトの本当の想いは叶うのかはまだ未知の世界だった。




