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悪役令嬢は有能侯爵夫人と結ばれたいー理解されないと思ったら、あっさり受け入れられましたー  作者: 餅月 響子
第二章

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第8話 彼女との時間はずっと楽しくて時間が短く感じてしまう

 ザンドラがいない部屋では、風邪を引いた侍女のマーナの代わりに来ていた清掃員のジュリが再び暖房の温度を高く設定していた。今日は風邪が治ったエリーサベトとパトリックの面会の日だった。


 部屋にアフタヌーンティーでも飲みながら、スイーツを一緒に食べようとスリーティアにマカロン、クッキー、ショコラを乗せていた。パティシエがやろうとしていたのをエリーサベトが全て仕事を奪っていた。


 冷や汗をかくパティシエのセザール・デュポンはオスタワ王国に仕えてから間もない。エリーサベトの性格を熟知していなかった。


 横で本日のディナーのメニューを確認にしに来ていた料理長のメルヴィン・エモンは沈黙のまま、セザール・デュポンの肩に手を置き、首を横に振った。


 その仕草が、エリーサベトの全てが物語っていた。エリーサベトお嬢様は仕事を手伝ってくださる心優しいお方だと認識する。

 セザール・デュポンは、他の国でお嬢様に仕事をやらせてしまうとどんな罰を与えられるのか心臓がどうにかなってしまいそうだった。ここではそういうことがないというだけで安堵していた。


「エリーサ、エリーサ!? パトリック様がお見えですよ。準備はいいですか?」


 ザンドラがパトリックを連れて、部屋にやってきた。暖房の温度が高いことに気づくと慌てて、空調の温度を確かめた。清掃員のジュリは何度もペコペコとザンドラに謝っていた。


「エリーサ、入ってもいいかしら。風邪が治ったと聞いていたけれど、大丈夫かしら?」

「パトリックぅ~~!! 待っていたわ。ほら、たくさんのスイーツを用意していたの。もちろん、とっておきの紅茶も用意していたわ。あ、そうだわ。飲む前に聞いておくことがあったの」

「え、えー。ええ。すごいわね。これ、全部エリーサが準備したの? ……まさか、スイーツはそこにいらっしゃるパティシエの方でしょう?」

「ふふふ、私がやったって言ったら、もうスイーツショップがオープンしちゃうわよぉ。もう、パトリックったら、褒め上手ねぇ!」


 風邪も治り、浮かれ気分のエリーサベト。ついつい、調子に乗ってパトリックの肩をぽんぽんと叩いてしまう。小さい頃は追いかけっこをする仲だったのはわかっているが、いい大人がはしゃぎすぎだとザンドラは静かにギロリとエリーサベトを睨んだ。


「あ……ちょっと、ごめんなさい。パトリック、こっちに来て。見てほしいの」

「なに? 一体どうしようって言うの」

「これよ、これ。ね、ザンドラ。これよね、おばあ様からの食器」

「……コホン、そうです。そちらがエリーサ様のおばあ様からプレゼントされた食器ですね。アカンサス模様と千花模様がございます」


 まるで台本があるかのようにザンドラは説明する。


(食器なんてどちらも手に入りにくい最高級の物でどちらでも良いですが……)


 ザンドラの本音は、説明をショートカットしたい気持ちでいっぱいだった。エリーサベトはパトリックと一緒にアフタヌーンティーを楽しめるとあって、嬉しくて仕方ない。食器一つにもこだわりが強くなる。


「綺麗ねぇ。見たことあるはずなんだけど、こうやってじっくり見ることはなかった。これって、アカンサス模様なのね」


 手前にあったアカンサス模様の食器をじっくりと眺めるパトリック。エリーサベトは、その仕草を見て、ご満悦だ。ザンドラはふっとため息を漏らす。ジュリはもう用事は済んだだろうとそっと部屋を退室していた。自然の流れで料理長のメルヴィン・エモンはザンドラにディナーメニューを確認し、セザール・デュポンとともに部屋を出た。前もって聞いていた話では、エリーサベトが、パトリックと一緒に食事ができるようにチーズフォンドュパーティの準備をしてほしいとのことだった。


 女子二人の話は途切れることはなく、詳しく聞くまでもないとザンドラが判断する。料理部隊がいなくなった頃、ふとエリーサベトがザンドラに問いかける。


「――あ、あれ。今日のディナーの件って、チョコフォンドュパーティよね?!」

「……ええ、ええ。そうですよ、チーズフォンドュ……?! ……え? 今、何とおっしゃいました?」

「チョコ……フォンドュパーティだけど? ま、まさか、ザンドラ。チーズフォンドュを準備したの?!」

「あ、あ……あぁ、私としたことが。今、確認して参りますわ!」

「あ、ちょっと待って。ザンドラさん。大丈夫、私、チーズフォンドュも好きよ。カマンベールチーズなら、食べられるわ。他のものはちょっと無理だけど」

「そ、そうなのよね。パトリックは昔からチーズにこだわりあるから」

「こだわりじゃないの。苦手ってだけ。匂いに敏感だから」

「だいぶ、臭いけど。カマンベールチーズも。しかも高級だし。ダメなの? あれじゃ。モッツァレラチーズ。ピザにしても美味しいわよね」

「うーん、どうも、カマンベールチーズしか受け付けなくなったのよね」

「大変だ、これは。チーズフォンドュも、こだわりが出るわね」


 エリーサベトは腕を組んで頷いた。横で聞いていたパトリックは申し訳なさそうな顔でザンドラを見つめた。


「チーズはカマンベールなら、大丈夫とシェフに伝えて」

「は、はい。ただいま、伝えて参ります!」


 ザンドラは自分のミスだと急いでキッチンに向かった。ディナーの仕込みは始まっているはずだ。パトリックは間に合うといいなと切に願った。


「ブロッコリーとか、カリフラワーをチーズで食べたらおいしいのよ」

「チーズのこだわりあるから、やったことないの。そうなのね」

「うん。楽しいから、やりましょーよ」

「頑張ってみるわ。大人になってからなかなか食べる機会なかったから。色々あって……」

「あ、その話、聞く予定だったわね。まぁまぁ、スイーツと紅茶を飲みながら、まったりやりましょう」

「そ、そうね。楽しいことを考えながらで良いわね」


 パトリックは無理やり気分を上げようとマカロンを頬張った。一口で食べようとしたためか、むせてしまう。慌てて、紅茶を飲む。なんだかんだと話してるうちに食器はどちらでもいいかと考えもしてなかった。


「あ、飲んじゃったわ」

「何を言っているの。飲んで良いのよ」

「ううん。せっかく用意してくれた食器。しっかり選んでない」

「いいの。どちらも素敵な食器なんだから。気にしないで」


 エリーサベトは、笑顔で紅茶をすすり、パトリックと話を続けた。ずっと一緒の時間を共有できるなんてと幸せすぎて怖さまで感じるほどだった。時間が止まってほしいと願ってしまう。


 壁に飾られた柱時計が午後四時の時間をオルゴールで知らせていた。

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