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悪役令嬢は有能侯爵夫人と結ばれたいー理解されないと思ったら、あっさり受け入れられましたー  作者: 餅月 響子
第二章

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第5話 深夜の訪問者

 生い茂る森ではフクロウが静かに鳴いた。大きな翼を広げて、カラスが満月光る夜空へと飛び立つ。今宵は、雲一つ浮かぶことなく、輝かしい星が覗き見えた。トイレに目が覚めたエリーサベト・モルベリは、窓から外を見つめた。今日の外は天気が良く、空も綺麗に見える。夜風も気持ちが良い。深呼吸をしていると、どこからか誰かが走る足音が聞こえる。草むらの方だろうか。侵入者でもいるのだろうか。さっきまでリラックスしていたエリーサベト・モルベリの表情は、一気に恐怖へと変わる。


「ぎゃーーーー。誰。怖い!! 誰か助けてぇーーーー」


 こんな夜の時間に起きる者は少ない。夜間警備担当だったキュリアクスが階段を駆け下りた先に立っていた。部屋とは反対の方へ進むエリーサベト・モルベリの体をおさえる。


「お嬢様、一体どちらへ行かれるのでしょうか。そちらは牢屋ですよ。何か悪いことをされたのでしょうか?」

「う、うひゃぁーーーー。いやいやいや、違う違う。悪いことなんてしてないわ。むしろ、逆よ。何なの。あれは。怖いの。怖いのよ!」

「……おっしゃっていることが理解不能です。もっと嚙み砕いて説明してもらえますか?」

「だ・か・ら。むしゃむしゃ!」


 エリーサベト・モルベリは、キュリアクスに言われた通りに噛み砕く動作をして見せた。そういうことを言ってるわけじゃないと、冷や汗をかく。キュリアクスの心の中では爆笑の渦がぐるぐる回った。笑ってはいけないと顔が震える。


「あの、お嬢様。一体何があったんですか?」

「えーっと、怖いの。とにかく、外から怖い足音が。侵入者かもしれないわ。ちょっとキュリアクス、外を見てきてちょうだい」

「足音? こんな夜中に誰が……」


 ちらりと外の様子を見るが、何も物音がしない。


「お嬢様はお部屋にお戻りください。私が確認してまいります」

「一人で戻るのが怖いわ」

「そんな、困ります。お嬢様を危険な目には……」

「大丈夫、私、離れて見てるから。怖いけど、気になるのよ」

(あれほど、騒ぎ立てて怖がっていた人がこんなにすぐに冷静になるものなのか?)


 キュリアクスは、エリーサベトが嘘をついてるのではないかと疑ったが、致し方なく、仕事に全うした。腰に装備していた短剣を抜いて、広い庭園に続く通路に向かう。エリーサベトは、柱からそっと目を覗かせていた。


 それらしき物音がしたと思われる場所へ向かうと、確かに長い草が風にゆらゆらと揺れる。これのことかもしれないと、キュリアクスは安心して後ろを振り返る。


「――――待って!!」


 真っ暗な草むらの中から女の人の声がした。何者かとぐるりと向き直して、短剣を声がする方に向けた。


「な、何者だ!? 姿を見せよ!」


 キュリアクスは、ヒヤリとしながらもじっと構える。ずっと後ろの方で見ていたエリーサベトは、聞き覚えのある声に反応する。魔女のような黒いローブを羽織った女が顔を隠して現れた。風が強く吹き、周りに生えているあしが横たわった。魔女の亡霊かと驚いたキュリアクスは短剣を差し向けた。そこへ、急いでエリーサベトが間に入る。


「やめて!!!」

「お嬢様、何をなさるのです?」


 キュリアクスは、短剣を向けるのをやめて、花壇に備え付けのランタンを持ちあげて、女の顔に近づけた。


「パトリック・フェリデン様?!」

「パトリック!! 会いたかったぁ」


 エリーサベトは、ここにいる理由を聞きもせず、首に手を回してぎゅっとしがみ抱き着いた。パトリックの顔はいつもの柔らかく笑顔ではない。冷たく氷ついたような何とも言えない顔をしていた。魔女の恰好になっていたが、幼き頃からの付き合いどんな洋服を着ていようとも、すぐに判断することができた。


「……エリーサ、ごめんね。ごめん。私は貴方の理想のお姫様にはなれなかったわ」

「え、パトリック。それって、どういうこと?」


 そう言葉を発すると、目を閉じてパタリとその場に崩れ落ちた。バテドロン王国から馬車を使わずにここまで歩いてきたとしたら、相当な体力を使ったのであろう。やっとこそ、エリーサベトと会話することができ、目標達成して、パトリックは、力尽きた。


「パトリック、パトリック!! ここで寝てはだめ。風邪ひいちゃうわ。キュリアクス、すぐにゲストルームへ運んでちょうだい!!」

「はい。もちろんですとも」


 キュリアクスは、倒れたローブを羽織ったパトリックをそっと抱えて冷たい風が吹く中を走って移動した。筋肉を鍛えているだけあって、軽々しく運んでいた。


「本当にキュリアクスは、頼もしいわ。助かる助かる」


 エリーサベトは、パトリックに会えて本当に嬉しかった。こんな時間に話すことができるなんて、幼少期のパジャマパーティーの思い出が蘇ってしまうくらいだった。具合悪くして倒れたというのに、ちょっと考えていることが明後日な思考だった。

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