第4話 裏と表の顔には慣れていても辛い
春の装いのオスタワ王国の庭園では可愛らしいカラフルなパンジーが所狭しと花壇に植えられていた。バテドロン王国の花壇には、赤と白のバラばかり。愛と綺麗さを象徴したいのだろうと圧が強く感じられた。
とげとげしい感じもまさに夫のフェリシア・リドマン侯爵を表現したようだ。馬車に揺られて、数分間の息の詰まる状態が続く。腕を組むフェリシア・リドマン侯爵の横でパトリック・フェリデンの表情は硬かった。エリーサベト・モルベリと会話していたフェリシア・リドマン侯爵は表情が柔らかく、よそゆきの様子で、誰しもが思いもつかないモラルハラスメントをパトリック・フェリデンが受けているなんて想像もしないだろう。
2人しかいない馬車の中で、フェリシアはパトリックの額に右手を置いて追い詰める。
「なぁ、いつまであそこの王国に通うつもりだ? 俺の立場をわかってるやってるのか?」
「うっ……」
左手でパトリックの頬をぎゅっと握りつぶそうとする。頬にパトリックの歯の形が見えるくらいに手をおしつけた。
「……私は……ただ、演奏をしているだけ。プロの演奏家の先生に教わっている……何がいけないと言うの。国は関係ないわ」
話すのもやっとのことで返答する。フェリシアの顔は怖かった。
「私のストレスというのを考えたことがあるのか? 他国に行くということはどういうことか。一歩間違えたら戦争になることもあるんだぞ。それを知ってのことか」
「それは考え方次第でしょう。貴方が戦争をしたいとでも思っているの? 友好的に話せばいい話だわ。私の行動には関係のない話よ」
「……私に歯向かうというのか。パトリック、お前もいいご身分になったものだな」
「身分も何も、貴方様の妃ですから。行動は慎んでいるつもりよ。オスタワ王国のオレリアン王には失礼のない対応をしているわ!」
目で語るように負けじと食い気味にかかるパトリック。喧嘩を売ったフェリシアは自分の手がかまれそうになるのを恐れて、ヒヤリとする。
お互いに幼き頃は、助けてと言わんばかりに近寄ってきたフェリシアだが、どこをどう生きてくればこんなことをする王子になるのか、一緒に許嫁として生きてきたパトリックはため息しか出ない。なんでこの人に添い遂げようと考えてしまったのか、過去の自分を恨んでしまう。あの時は化けの皮が剥がれる前だった。本当に気が滅入る。
「ん!? 今のはなんだ。私に不満があるというのか!」
どれだけ自分が上の位にいるとか、つくづく品がなく他人に敬う心のない侯爵だなと呆れてしまうパトリックだ。
「不満が全くない人間だとおりません。貴方は、私に全く不満がないとは言いませんよね! 同じ人間です」
「……ふん、口を慎め、口を」
フェリシアは、馬車が自国のお城である目的地に着くと早々に外へ飛び出して行った。パトリックは、いつも難癖をつけて、痛めつけるのが日課なのか、二人っきりになると短気になる彼に愛想を尽かしていた。つまりは、エリーサベトのところにいくことで嫉妬心が大きく出るのであろう。できることなら、ずっとエリーサベトのところで楽しく過ごしたいと感じてしまうほどだ。フェリシア侯爵の執着むき出しの嫉妬に気持ち悪さを覚えるパトリックだった。




