5月8日
大学の授業は退屈だ。
興味を持ったからプログラミングの講義をとったが、これが大変分かりにくい。
教師自作のテキストが酷い出来だ。
コードや文法の説明はほぼなし、あったらあったで不十分。
しかもそれを見て用意された課題を自ら行う、自主学習とほぼ変わらん講義だ。
質問をしたとて分かりにくい、普通に別の参考書を書店で買った方がよかったかもしれん。
恐らく、あの教師はこちら側が何故分からないのかを理解できないタイプだ。
自分の頭では理解出来てるから、理解出来ない人を理解できないのだ。
故に細かな説明が抜けるのだ、とるんじゃなかったなこの講義……。
まただみーめすかーの声が聞こえた。
昨日と同様に声だけが響く、珍しいタイプだ。
それが二日連続となると、なお珍しい。
なんか色々よく分からんこと言われたが、まあ要するに右手について思い出せってことだった。
昨日と同じようなことだったが、とりあえず考えてみた。
そしたら、いつ頃だったかははっきり思い出せないが、でかい手の記憶を思い出した。
浮いてるでっかい右手だ、1~2mくらい?の素手のみだ。
スマブラに出てくるマスターハンドみたいなやつが、俺と向き合っている。
ぼんやりとしか覚えてなくて背景も真っ白だけど、そんな記憶。
つまり、俺はその妙な右手と会ってて、それを思い出せってことなんだろうか。
思い出して……どうするんだろう。
未来を知っているような口ぶりだったし、それとなにか関係があるんだろうか。
今日出てきたのは、ナルシストと同様に準レギュラーなやつ。
特にこれといった特徴のない、普通な男って感じなやつだから、そのままだが「普通の男」って呼んでる。
年齢は俺と同じくらいに見える、20代だな。
どんなノリにも応えてくれるけど、これといって目立つところがない大学生って印象だ。
だから……印象に残りづらくて服装などを覚えてない。
だが、こいつと話すのは嫌いじゃない。
「今日は随分退屈そうだね」
ふと話しかけられて、無駄に頭を使って疲れたと返した。
「うんうん、教えるのが下手な人から汲み取るのは疲れるよね」
ああそうだ、分からない者に伝わらなければ、それは言ってないに等しい。
「だが、君は課題をよくこなしている。すごいよ君は」
最近のChatGPTというものが優秀なのさ、プログラミングに関してはアドバイスが良い。
「ともあれ、それは君の力になってる。君自身も優秀なのさ」
ありがと……ところで、聞きたいんだが。
「なにかな?」
その、右手について何か知ってるか?
「……どこまで覚えてる?」
知ってるのか?
「ああ、僕らと密接な関係にある」
マジか、どういう関係が━━
「すまない、そろそろ時間だ」
時間……!?時間制限とかあんの!?待ってくれ、あの右手は━━
「ごめんね、それは僕の……僕らの口からは言えない。君に思い出してもらわなきゃ」
ええ……?
「きっと傷つくし、耐えられないかもしれない。でもみんな味方だ、頼れるって忘れないで」
そう言って消えてしまった。
いつもより、真剣な顔と声だった。
やっぱ、思い出さなきゃまずいんだろうな。




