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第0話

 学校が嫌いだった。子どもの俺は、言葉としてではなく、意味として理不尽を知った。俺はいじめられていた。子どもというのは存外、大人よりも「分かる」ものだ。ターゲットを理解し、主犯と取り巻きを理解し、状況を理解する。やがて空気は固まり、いじめをするものとされるもの、傍観者と部外者が生まれる。俺が通っていた小学校というものは、それが日常になった場所だった。何故俺がターゲットだったかなんて、最早確認することもできない。だが少なくとも奴らからしてみれば、お笑い芸人を小突くくらいのものだったのだろう。そういう、日常だったのだろう。

 大人が嫌いだった。面倒ごとを避けるために、工夫ではなく手抜きをする奴らだった。自分に都合の悪い子どもに怒号を浴びせ、失敗した者を嘲る。知らぬ存ぜぬを貫いて、そのくせ自身の権力と子どもの弱みはよく理解していた。そういう大人も集まるのが、俺のいた小学校だった。いじめと大人に耐える場所、それだけだった。


 そんな生活が3年続いたとある冬。家族でスキー旅行に行った俺に、右手が舞い降りた。

『心苦しいけども、君の力を借りよう。拒否権を与えられないことを申し訳なく思う。これから君の頭にはたくさんの人が入り、そして君は狙われることだろう。その時まで、たくさんの人に助けてもらいなさい。君が生きる限り、彼らも味方だ』

重低音な声色、それがどこから響いているのか理解する前に、その右手は俺の中に入った。リフトは止まり、落ちかけた。母に怒られ、また理不尽を味わった。その日は右手を幻のように感じて、学校に備えて眠りについた。

 次の学校の日を境に、理不尽な生活に少しの変化が起きた。そうだ、頭の中におじさんが。急におじさんが頭の中で、イメージとして存在感を放っていた。授業中、音沙汰もなく、ただいつの間にか、頭の中におじさんがいた。思わず聞いた、おっさん誰?って。クラス中が俺を見て、きっと笑っていた。だがそんなことが気にならないほどおじさんは、あたかも自宅の居間でくつろいでいるかのような冷静さで返した。

「俺?ああ、気にせんでいい。誰の頭にもいるから」

根拠などありはしない、そんな言葉を俺はいとも容易く受け入れ、信じた。信じるほかになかったのかもしれない。それを確かめるための話し相手など他にいない。信じてほしいと懇願したくなる相手もいない。ただ、その日から俺の頭には、声をかける人間が増えていった。

「だからさ、めっちゃいいから見てみてよ。マジ人生観変わるから」

早口でマイナー深夜アニメをしつこく紹介するオタク。

「それであいつさ、頼んでもないのにやんなよ!って言ってきてさ、マジありえないよね」

元カレの話を繰り返し話す女子高生と思われるお姉さん。

「ふっ☆君は随分真面目だね☆でも真面目過ぎると馴染めないよ?☆」

おちょくってるとしか思えない、金髪ストレートのナルシスト。

「炎はね、生きてるんだよ。自分をより大きくしようとひたすらに空気を取り込み、やがて世界を覆いつくさんとしているんだ」

陰謀論者もびっくりな仮説を立てる博士。

「ご飯もいいが、やはりたらこを引き立てるのはスパゲティさ。簡単かつ旨すぎる!」

やたらとレシピと美学を語る料理人。

 日ごとに頭に住人が増えていく。ずっとうるさかった。でも、ある意味で救われていたのだろう。頭の中の住人はいつだって話し相手だった。理不尽な現実から目を背けさせてくれた。精神が限界を迎えることを免れたのは、今思えばきっとこいつらのお陰だった。


 新たな日常は馴染んでいって、中学、高校、大学に至るまで、こいつらはずっと話しかけてきた。小学校を卒業してから理不尽は減り、最近では疎ましく感じるようにはなった。その内、存在意義について疑問視するようになり、自分のことが分からなくなった。アイデンティティというものが、この頭の中の住人に押しつぶされる感覚がして、次第に不愉快に思うようになった。そんな折、大学で出来た友人に指摘を受けた。

「なんかさ、たまにぼーっとしてるよね」

俺自身、そんな自覚がなかったため、とりあえずの否定と、頭の中の人間たちについてを話した。

「なんだそれ、大丈夫か?」

ここで初めて、俺の普通は崩れた。俺の頭は普通ではないかもしれない。いや、きっと気づくのが普通なのだろう。子どもの内から馴染んでしまった異常を、俺が気づけなかっただけだった。子どもの内からカルト宗教への献金を教え込まれるような、そんな気づけない異常を、俺はいつの間にか抱えていた。

 そんな気づきから、日記を書いた。頭の中の異常を観察した。顔なじみや初対面の人間、その全てを記録しようとした。そうして辿り着いた真相が、俺の頭に死者が集められているとのことだった。そんな時、普通の人ならどう反応したのだろう。背筋がゾワゾワと震えだすのだろうか。ショックを受けて枕を濡らしたりするのだろうか。俺は━━()()したんだ。右手との出来事を忘れていた俺にとって、頭の住人は俺が生み出した幻だと考えていた。だがそんなことはなかった。皆それぞれ実在していた人間で、俺を助けてくれていた。ずっと俺の内側から俺を支えてくれていたんだ。だから、だから今度は━━



 5月14日、午前5時。とある町の、なんの変哲もない空き地。昇ったばかりの日差しが、1人の男を照らしている。胸の内を見るように手を当て、緊張感を抑える。

『そろそろ呼ぶ、頑張ろう』

内なる声が響く。訓練を重ねた男を鼓舞しながら合図する。鼓舞された男は空を見上げる。自分の運命と、理不尽と向き合うために。負けないために。緊張から汗が頬を伝った瞬間、その目に映った握りこぶし。とても大きな左手のグーパンチが、こちらに向かって急接近してくるのが見える。映画で見るような戦闘機かのような速度で、男を捉えて飛んでくる。

『来たな……』

「ああ、きっとネットニュースはこいつで決まりなんだろうな」

少しの軽口を叩いて、覚悟を決める。左手がまっすぐこちらに飛んでくるなか、男は右手を引いて構える。右手の拳を素早く押し出すと、より大きな右手が、左手と同じ質量と速度で男の拳から飛び出す。双方の拳はぶつかり合い、勢いが相殺される。飛んできた左手はすぐに回避行動をとり、拳の形を崩す。

〖貴様……まさか人間と組んでいたのか……!〗

左手から声がする。どこから見ても口は無く、発話原理が不明だ。しかし、聞こえる声からは明らかに動揺しているのが分かる。

『そうだな、君が絶対にしない方法で、君を止めに来た』

〖……見つからないわけだ、だがそれで勝てると思うな?〗

左手は拳を握り直し、上空へ飛び出す。

『追うぞ!』

「ああ、なにか準備しそうだ!」

手の平を上に向けた右手に、男が飛び乗る。右手はそのまま浮上し、左手を追いかける。急浮上による重力の増加に耐え、空気が薄くなっていくことにも耐え、男は右手の上で立つ。浮上して数分が経ち、高度にして地上から約3000m。再度急降下するための急加速を実行しようとしていた左手を追い抜き、その事実に左手は驚いた。

〖なんだと!?〗

右手は男を上に投げると、握りこぶしの形になった全身で上から左手に体当たりする。

〖ぐうっ……!!?〗

叩きつけられたことで高度がわずかに低下するが、左手は持ち直す。そこへ、右手に投げられた男が落下速度を利用するように、左手へまっすぐ落ちながら右足を伸ばす。

「おらぁっ!!」

高威力の蹴りに、左手は指が大きく開かれながら落下する。それでも左手は身体を旋回させ、男を振り払い、高度約1500mの空中でなんとか留まる。

〖どうなっている……およそ人間の出せるパワーではない……〗

右手の甲に着地した、振り払われた男に対して焦りながら呟いた。

『紹介しようか、彼は木下ハオリ。私が彼の中に入って、もう12年くらいになるだろう』

「こんちわ、ハオリです。人類と俺を殺そうとしてるって聞いて止めに来ました」

軽く自己紹介をしたハオリについて、左手はまた一つ合点がいくことがあった。

〖そうか、力にも馴染んでしまったのか……人間風情が……!!〗

「で、あんたはなんでそんなに人間嫌いなの?」

〖……は?〗

怒りを露わにする左手は、ハオリの質問が一瞬理解できなかった。何故なら、彼の中で人間とはそういうものだからだ。嫌って当然、殺して当然。そのような、愚かな生き物こそが人間だと、当然そうあるべき認識であった。

『ハオリ、彼は以前からそういう奴だ』

「まあまあ、聞いてみないと分からないじゃない……ん?」

返事を待つハオリの前で、左手は異様な気配を放つ。五指から、手の平から熱を感じる。それは徐々に可視化できる光となり、手の平に集まる光は大きくなる。やがて左手の大きさにまでなった時、左手は構える。

〖貴様ら人間が……愚かしい故だ!!!〗

叫ぶと同時に、生まれた光弾を発射する。迫る光弾に対して、右手とハオリは左右に分かれてかわす。が、左手は光弾を操作することで、ハオリを追い詰める。

〖無駄だ!小賢しい人間め!焼け焦げて消えるがいい!!〗

左方向へ飛んだハオリは光弾が追いかけ、左手は拳を仕掛ける右手を受け止めてみせる。

〖貴様もだ、愚かしい人間に与する右手よ……!ここで貴様も消す!〗

掴んだ右手に高熱を加えるが、右手はひどく冷静だ。熱に対して防御することも狼狽えることもなく、ただ待っている。

『もし君が、ハオリを愚かだと思っているなら、それは実に見当違いだ』

その瞬間、左手は大きく吹き飛ばされる。光弾に追いかけられていたはずのハオリが、横から蹴りを入れた。右手を掴んでいられない勢いで蹴られた左手に、さらにハオリが上から構える。

「速度は乗せずに、重さを乗せる……!」

落下していく左手に着地して、呟き終えたハオリが拳を突き立てる。瞬間、ただ乗せられたかのような拳には、ハオリの体重以上の重さが加わったことで落下速度をあげていく。

〖ぐああっ!?〗

左手が呻き声を上げた数秒後、地面に叩きつけられていた。1500mから巨大な左手が降ってきた衝撃により、大きな衝撃音と地震が生じ、コンクリートはひび割れ、衝撃波も多少周囲に広がった。

「やべっ、近所迷惑だな……怒られないといいけど」

落ちたのはまさに住宅街。ハオリは朝早くから爆音と衝撃を生んでしまったことについて、怒られるかもとハラハラしている。

〖バカな……どうやって逃れて……〗

「ああ、あのファイアーボール?追尾弾の仕組みって大体熱感知だろ?」

説明を始めたハオリが、青白く発光する光弾を作って見せる。

「こいつに36度くらいの熱を込めて、適当に飛ばす。そして俺が1度くらいの冷たい膜を用意したら、予想通り追尾から外れたよ」

『さすがだな、上手いことやってくれると信じていたが、まさかあんなに早く解決するとは』

空から降りてきた右手が、驚嘆しながらハオリを褒める。

「おい、まだ答え聞いてないぞ。なんで人間嫌いなんだ、なんで愚かだって思ったんだ」

質問を続けたハオリに、左手は答えず、親指で人差し指を押さえた後、勢いよく弾いて衝撃波を放つ。ハオリは咄嗟に腕を前に出してガードするが、その隙に左手は距離を取る。

〖私は見てきた、人間達の思惑を……救済される人間がどんなことを考えていたかを……私は忘れていないぞ……〗

左手が宙に爪を立てると、布が破られたように空間に穴が開いた。その空間に手を入れ、ゆっくりと大剣を取り出した。赤く、そして白く発光している、溶鉱炉から出てきたばかりの鉄のような光と熱を放った剣だった。

〖当人以外には無益な戦争を引き起こし、私利私欲のために平気でこの星の環境を破壊し、自分さえよければという身勝手な考えで他を陥れる。それらに罪の意識すら感じず、のうのうと生を謳歌する、愚かな人類よ……〗

『くるぞ、《繋がりを絶つ》、その力の真髄だ』

「ああ、あれには絶対に触れちゃならんな」

超高熱で発光し続ける大剣を、左手は難なく持って構える。長く、厚く、空気を凄まじい速度で熱する温度で、陽炎が生じて全容が分かりづらい大剣。威圧感にも似たその存在感に、警戒を緩めることができない。

〖疾く消えよ、この熱剣が裁く〗


 高度3000m、今度は追われる側となった、右手とハオリ。熱剣をいなしながら、上空まで逃げてきた。手の平にハオリを乗せた右手を、左手の一振りで放たれる熱波が襲う。

『町から十分離れた、この辺りでいこう!』

〖ぬああっ!〗

熱剣の一閃を右手とハオリが別れるようにかわし、上下二方向で左手の視界から外れる作戦。

〖阿呆が、人間を殺せばそれで終いよ!〗

標的は最初からハオリ、右手には構いもせずに熱剣を振るう。その剣を、ハオリは両腕で受け止める。双椀硬質化、温度変化-20度、それらの効果をもってしてもハオリは火傷を負った。

「あっつ!!あちちち!!」

急いで大剣から離れ、両腕の火傷をさする。その隙を左手は逃さず、熱剣をハオリに振るう。それを間一髪でかわしたハオリが、今度は左手と距離を離そうと逃げる。

〖逃がさんっ!!〗

素早くハオリを追いかけるが、逃げたハオリが突如振り返り、叫ぶ。

「喰らえっ!エターナルフォースブリザード!!」

両の手の平から-200度まで冷やされた空気を勢いよく放出する技。相手は……凍るどころか、熱剣の温度低下の兆候も見られない。

「え、あれ?うわっ!!」

止まらない左手の猛攻をいなしながら、どうにかこうにかかわし続けるハオリ。

「なら、ライトニングブラスト!」

叫びながら指を鳴らすと、左手の上空から雷が落ちる。だが、左手は痺れる素振りも見せない。

「くそ、なにが弱点なんだお前!」

〖笑止千万、あの右手に、ましてや貴様に出来ることが、私にできないと思うか?〗

温度変化、体質変化。それらを駆使して、左手は低温や雷に耐性をつけていた。そうしてまたハオリを追い詰める。ハオリは即席で日本刀を二振り創り出し、上から振り下ろされる熱剣を受け止める。右側が剣先になるよう平行に構えて、いなすために受け止めた。しかし、剣から発せられる高熱は抑えられるものではない。常に燃やされないよう温度変化による防御は行っているが、それでも火傷してしまいそうな熱に逃げるしかない。いなしては逃げ、いなしては逃げ、刀は焼き切れる度に創り直す。飛行速度も、パワーも、能力も左手の方が上。かわすのが精一杯のまま、左手の猛攻は止まらない。

〖そろそろ疲れる頃だろう?諦めて消えるんだな、人間!〗

「そう、だな……後手に回るのは、もう飽きた!!」

一振りの刀で熱剣を受けながら、もう一振りを投げる。左手がその剣をかわすが、ハオリも熱剣から離れる。

「ふっ……!」

〖っ……!?〗

ハオリが人差し指を立て、投げた剣を操ることで、左手に剣を向ける。

〖この程度……〗

左手はかわすが、さらにもう一振り、ハオリが投げる。それもかわすと、今度は二振り追加。増やして、また増やす。やがて左手を無数の剣が囲みながら浮遊している。

「はっ!」

両手を合わせ、囲んだ剣が一斉に左手を襲う。しかし、左手は熱剣を凄まじい勢いで振るい、全ての剣を焼き切り、溶かした。

〖小癪な浅知恵よ、私には通じぬ〗

「……だろうな」

〖……?〗

疑問に思った左手が、上を見上げる。そう、これまでの流れに一切関与しなかった右手だ。右手は先ほどからパワーを溜めていた。ハオリはそれの時間稼ぎをしているにすぎなかった。青白い光弾がそこにある、右手の五指が生み出した、巨大な光弾。それが今、放たれる。しかし━━

〖っ!貴様らの連携は一度見ている!〗

右手から放たれた光弾は、それなりの速度、それなりの近さでありながら左手に避けられた。

『そうだな、一度見られた連携を長く使うものじゃないさ、相棒』

避けられた光弾は、地面に向かって落ちていく。そこへ先回りしたハオリが、その光弾を受け流し、機動を変え、左手に放つ。

〖なにっ!?〗

光弾は命中、そして破裂。右手が時間をかけて作った、-1000度にも届く、絶対零度をも超えた、冷やすための光弾。左手は凍り、熱剣も自慢の超高熱を失った。

〖ぐっ……貴様ら……!!!〗

左手はなんとか凍った身体を急速に温め再起させる。しかし、熱剣を右手が勢いよく拳を叩きつけて、ひびを入れる。そこにハオリが拳に重さと速度を乗せて打ち付ける。熱剣は見事に叩き折られ、左手は怒りを更に露わにする。

〖ふざけるな……ふざけるんじゃない!!〗

「こっちの台詞だ!」

間髪入れずにハオリが左手に拳を打ち込む。そこへ右手も拳を叩きつける。交互に、間髪入れずに、何もさせずに。それを繰り返す。落下していく左手を休ませない。

「人間は愚かだって、勝手に心を覗いて決めつけやがって!」

高度2000m。ひたすら殴る、拳を打ち込む。

「それを隠して生きるのが人間だ、獲得した理性で、人を思いやれるのが人間だ!」

高度1000m。また打ち込む、右手と間髪入れずに。

「お前が殺した、10万は超える人達は、俺の中にいる人間は……!」

高度500m。ただ打ち込む、速度と重さを乗せて。

「みんな良い人達だった!!」

上から拳を叩きつけ、左手を地面にまで叩き伏せる。町に訪れる、2回目の爆音と衝撃。息を切らしたハオリと、倒れ伏した左手、そして右手がその場に降りた。

『それに、相棒。君は人類に失望しきったわけじゃあないんじゃないのか?私を特定できなくとも、大体の場所を絞って、そのエリアの人間を皆殺しにすることもできたはずだ』

その言葉に、左手が起き上がる。なにか言いたげな様子だったが、話そうとはしない。

「……みんな、生きたかったんだ。俺の頭の中の人たちは、みんなやりたいことがあったよ。生きて話したいこと、実現させたいことが明確だったよ。それは決して、愚かなことなんかじゃなかった」

『全部が全部ってわけじゃないが、まだやり直せる。まだ、私たちに未来はある。どうだ、私たちだけでもまずは、手を繋いでみないか』

右手はゆっくりとその手を差し出す。左手は数秒動かなかったが、右手をはらい、炎をばら撒いて、遥か遠くへ猛スピードで飛んでいった。

「追うか……!?」

『いや、私たちも流石にパワー切れだ』

炎を対処しながら右手が答える。

『熱剣も折った、彼を迎え撃って、勝った。今はこれでいい。もしまた犠牲者が増えるようなら、その時に私たちが出向こう』

「……そっか」

5月14日、午前6時48分。ハオリと右手は、左手を追い返した。死線を乗り越えた後の虚脱感が全身を包んでいる感覚を、家に帰りながら味わった。知らない町に左手を落としたことで道に迷ったが、右手が頑張って空を飛んでハオリを運んだ。


速報です。

○○県××市、また△△市で、原因不明の地震が相次ぎました。

最初は隕石によるものと考えられていましたが、上空では未確認飛行物体の目撃情報があることや、現場にそれらしい痕跡がないことから、宇宙人の侵略説などが━━

警察によりますと━━


 「これ、絶対俺たちだよね」

守られた日常の中、ニュースを聞きながらキッチンで肉を焼いているハオリが呟いた。

『あれだけ派手に戦ったわけだからな、見られていない方がおかしいさ』

ハオリの胸の内に戻った右手が返す。ハオリはパンを二つオーブントースターから取り出し、片面ずつおもむろにマヨネーズを塗る。

『ところで、君は何を?』

「ああ、これ?」

塩もみしておいたきゅうりと、輪切りのトマトをマヨネーズを塗ったパンに載せる。

「究極のレシピなんだと。このバンズ、作るのに苦労したんだぜ」

焼いたパティを上に載せ、さらにその上からパンで挟む。

「うん、美味い。流石は究極のレシピだな」

『……なるほど』

一口かじったハオリから、思わず笑みがこぼれる。

「なあ、これから……あんたはどうするんだ?」

『最終目標としては、我々がもう一度一つになることだ。だが、他のパーツ、足や目、口なんかがどこでどうしてるか分からない。だから、きっとかなり先のことだね……君は?』

「俺は……俺は━━」

今の俺があるのは、皆のお陰だ。頭の中の人間、皆が俺を助けてくれていた。ずっと俺の内側から俺を支えてくれていたんだ。だから、だから今度は━━

「今度は俺が、皆を助ける番だから」

そう言って、ハオリはまた一口、究極のレシピを頬張った。

エンディングA:教えてくれた頭

[実績解除]

{恩人}:右手について完全に思い出す(達成者:だみーめすかー)

{ベストEnd}:エンディングAに到達(達成者:だみーめすかー)


本当に、本当にありがとうございました

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― 新着の感想 ―
物語がゲームの様に読者が参加する仕組みが面白かったです。 この感じだと複数の終わり方もあったのかもしれませんが、物語の参加者としてキャラクター達に愛着が持てました。 次回作も楽しみにしてます。
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