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厳かな静寂の中、皆が掲げた蝋燭の火が揺ら揺らと揺らめいていた。それは今までに地に伏してきた戦士の魂の参列に見える。そんな教会の大聖堂にリリ・アーロンを含む今年の『神託の儀』を受けるべく齢12の者どもが質素な装いを伴って入ってきた
皆が羨望の眼差し、剪定の眼光、奇異なものを見る目でその列を眺める。それもその筈件のリリ・アーロンの存在がそこにあるからだ
「あのアーロン家の娘」
「既にスキルに開花していると聞く」
「兄に並ぶ才華の持ち主だと良いのだが」
神託の儀を受ける前からスキルを自覚しているという娘。リリ・アーロンの存在が専らの存在感を醸し出していた
以前より【スキル】とは神より授けられし『祝福』と議会での認識が強かった昨今において、この存在はとても無視しようのない事例だった
【スキル】とは『神託の儀』により捧げられるのではなく、生まれ落ちたその日、その瞬間に付与され、神託の儀はそれそのものを自覚させるだけに過ぎないと議会での話が連日の如く盛んになっていた
『問題』───古より激化する戦乱の時代において齢12・12年を待つというのはあまりに悠長な内容だと感じる者は少なくない
リリ・アーロンの登場により年齢が引き下げられるやも知れない不安が湧いて出た瞬間であった。しかし、当の本人はそんなことは知る由もなく、ただ厳かに教会の大聖堂の祭壇に向かって歩みを続けていた
「これより、神託の儀を執り行う」
年若い神父が教本を持って登壇をすると静寂はより一層の深みを増した。静寂の中揺らめく蝋燭の火が僅かな風に吹かれる音すらも聞こえる程に
『神託の儀』───女神様から授かる特殊な力とされる【スキル】を授かる神聖な儀式
満12歳の少年・少女を集めて、最も女神様に近い場所、教会でスキルを授かる神聖な儀式だが前述した通り、それの真偽が定かではなくなった
授かることで経歴に関係なく【スキル】という力を受け、それに見合った経験や技術、知識を身を受動的に宿すことになるそれは、たとえ以前如何に非戦闘的な経歴を持っていたとしても戦地に即座に赴けるほどの『逸材』へと昇華させる。祝福である
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「『筆舌に尽くし難い罵倒』」
長く戦乱の時代。如何に平凡といえど戦地に適した『スキル』を受ければ、本人が否定しようとも戦地へと送られ、その手を魔物の返り血、友の血で汚すことは必至
リリ・アーロンの直前に『神託の儀』を受けた少年はそんな事態に拒否を示す様に泣き叫び、己が命を可愛がる様に戦地への派遣を嫌悪する言葉を並び連ねていた
「それでは、リリ・アーロン前へ」
年若い神父が教本を今一度閉じ、リリ・アーロンの家名とその名前を呼び、祭壇に来ることを促した。リリはそれに応えることなく歩き出すと神父の前で立ち止まり、先の者ども同様に目を閉じ、己の内にある【スキル】の名が呼ばれることを待った
「…」
耳鳴りが起こるほどの静寂が大聖堂の内に満ちていた
「リリ・アーロン貴方のスキルは
【デバッグ】です」
リリ・アーロンはゆっくりと目を開けた。そして一言「はい」とだけ告げ、祭壇を背にして階段を降り始めた
「デバッグ?それは一体どんな
スキルなんだ?」
「これはどう言うことだ?」
聖堂内で響く騒めきの中、リリただひとりがその【スキル】に対し、僅かばかりの理解を持って、次の者に道を開けた
「【デバッグ】」
リリ・アーロンがひとり静かに呟いた
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覚醒値:1
【デバッグ】───『モード:ジャーニー』
→複製可能物品・なし
『ヒント』───『物体』の『解析』
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「(これは不思議な感覚です)」
リリは自分の耳にだけ届いたであろう『男性の声』に目を開けた。それは夢で見た【デバッグ】スキルとは全くの別物であるという自覚を持つには余りに余りある差異だった
「(覚醒値とは何でしょうか
言葉通りであればこのスキルは
他のもの同様に成長するということ)」
リリは自分の後に続く様々な【スキル】の開花を認めつつ、その目の前に羅列される情報の波を前にひとり、微笑むのだった




