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◆◇◆◇◆
「…」
相手の降参と同時にアノスの手首の先、肘の先が消え失せると同時に『アンブラ・ディアボリカ』と剣が地面に向けて落下を始めた
ふらふらとバランスを崩したアノスをリリアナが静かに受け止め、地面に向けて落下を続けていた装備もまた回収を終えていた
「ありがとうリリアナ」
「はい」
◆◇◆◇◆
割れんばかりの喝采、雷鳴と聞き間違える拍手の最中
「いったいどれ程の研鑽を…」
バーテンは破損した戦旗を掲げて満足そうに告げた。しかし、その顔に満足の色はなくどこか寂しさを映していた
「自分の身体と武具に
できる限りの支援を重ね掛けしました」
「一瞬、姿がぶれたのも支援と?」
「どうなんでしょうか
僕も全力と言われて思いつくことを
できる範囲でしただけですので」
「…」
バーテンの表情はより暗くなった
「アノス様明日に向け
体をお休めください」
「リリアナ、反対側は自分が支えます」
「ありがとう」
アノスは2人から支えられる形でその場を後にする。広場を埋め尽くすアノスへの讃歌と共に
◆◇◆◇◆
「アノス様」
「来てくれてありがとう」
「はい」
リリアナはメイド服の片側を掴み、自由な部分を無くすように纏めると片膝、両膝と足を崩し、正座の形を取ると頭を深々と下げた
「本日をもってアーロン領より
暇を受けました」
「…は?」
『暇を受ける』───解雇
「どうして?僕の件?
それとも」
「違います。イバシル、ゴートン様が
アーロン領を空け、現在取り仕切ってる
執事の判断にございます」
「…横暴だな、アーロン領に」
アノスの怒りは最もだった。主の不在の時に人員の削減を行なった。それは自身の不都合を理由に他者を貶める行為とも取れる───不祥事の反逆と言っていい、すぐさま粛清対象とすることは当たり前だった
しかし、当のリリアナは冷静に言った
「暇を申し出たのは私です」
「…どうして」
「度重なる能力不足の盤面
命令無視、主の命を何度も」
「それは」
シルビアが口を挟もうとすると、リリアナはそれに重ねるように続けた
「もう、共として傍に使えるには
私は力不足なのです」
「では、どうするんだ?」
「…」
リリアナにアノスが問うた。そこに上司としての声色はなく、ただひとりの人としての扱いが窺えるそんな声色だった
「アノス様、いえアノスさん
暇を受け、赤の他人の身ですが
私をパーティに置いて頂けますか」
「ダメだ」
「アノスさん!」
「何故ですか」
返事に戸惑いはなく、アノスはキッパリと答えた。目を見開くリリアナは『問い返した』。くぐもったその声は涙声か、下げた頭のせいか
非常に弱々しいものだった
「分からないならそれまでだ」
しかし、そんなことは気にそぶりすらなくアノスは扉に向けた歩みを再開した。横を抜け、足元から離れていくアノスの気配にリリアナの感情はぐちゃぐちゃだった
「リリアナ、良き働きだった」
『決別』───開かれた扉がゆっくりと閉まっていく、シルビアは急いで後を追ったがリリアナはショックのあまり座り続け
そして、扉は完全に閉まってしまった




