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◆◇◆◇◆


 この世で最も優しい決闘が始まろうとしていた


 意味を知らず、天秤に掛かる『代物』を知らぬものが見れば見せしめとも取れる様な決闘内容。しかし、ハーサバルの(もの)達は知っている


 アノス・アーロンへの感謝と畏怖で分かる。両の皿に乗る錘の釣り合いの取れた。その歪さに


 それでも言われのない糾弾であれば皆が口を揃えてそれを否定する心持ちを固めていた


◆◇◆◇◆


「リリアナは?」


「…」


「明日ハーサバルを発つことを

 伝えて頂けますか?」


「…」


 シルビアがアノスの言葉に頷き、その場を後にした。その姿にバーテンは『信頼』を見出すと同時に


「こちらの都合に合わせていただき感謝します」


「いえ、それにしても」


 集まったハーサバルの住民を見て、唾を飲み込んだ。この場面は誰がどう見ても騎士団による糾弾に見えるからだ


「これは一体」


「分かりませんが

 娯楽の様なものなのでしょう」


「…」


 否定しようにもそのあまりにまっすぐな言いようにバーテンは言葉を飲み込むと剣を納め、戦旗───槍の一種。を掲げた


「実力を測る手前、手加減は致せません

 お覚悟を」


「はい」


 戦旗───強く編み込まれた旗印は飾りに在らず、使うものの技量によって『矛』とも『盾』ともなる一布。味方を鼓舞する役割を持つ役職の象徴


 言わずもがな、バーテンは本気を持ってアノスの実力を推し測るつもりだった。騎士団を象徴する一振りはそれを測るに足る装備であり、バーテンが使える最大の差しだった


「…」


 馬鹿げている───バーテンは手に汗を溜めていた。いや、警戒していた。両腕を失っているにも関わらず眼前の少年に対して脅威を感じていた


 強大な力、龍種に匹敵する脅威をアノスに感じていた。あり得るだろうか?剣すら持てない状況で尚アノスに感じる脅威の異質さ


 隙はなく、油断すらもなかった───緊張感の最中に生じた僅かな隙はアノスの癖によるものだった


◆◇◆◇◆


「…あ」


 アノスは剣を構えようとした。しかし、アノスにそんな手はなく虚空を2、3度掻き上げた動作の後、大きな隙を晒した


 視線が下がったその一瞬にバーテンはアノスが知り得ない視界外での両手から片手に槍を持ち替える型を繰り出した───重心を捻る様にして突き出す型。歩幅にして3歩。その距離を一気に詰めてみせた


「…っ」


 しかし、アノスは半身を逸らし迫る槍の穂先を背中に流した


 王国騎士団は型に従った美しい武術のその先、無駄を如何になくし、実戦において見映えと機能性を両立───個々人で如何に落とし込むかというものだ


 王国騎士団に伝わる由緒正しき構えからの派生。美しさだけでなく、洗練されたひとつの武としての完成系を人数だけ持ち合わせていると言っても過言ではない


 アノスの拳術はそれに似た無駄のなさを感じさせるほどだった


「お見事」


「ありがとうございます」


 残心───槍を素早く引き込み距離を詰められない様に構え直し、次弾に備える絞り込みを行ったバーテンは目を疑った。アノスの両手に当たるその位置の空間が膨らんで見えたのだ


「それは一体」


「…」


 アノスは『アンブラ・ディアボリカ』を背面ではなく、正面に纏い直すと両の手に纏わせた。するとどうだろうか?バーテンは己の目を疑った


 アノスの両の手がそこに確かに確認できた


「よもや、奇術の類も使うとは

 英雄殿は芸達者でおられる」


「僕も驚いてます」


◆◇◆◇◆


 瞬間ぶつかる両者の得物。かたや布、かたや槍───字面だけ見れば槍に軍配が上がるべき戦況ながら観客は息を呑むことを忘れた


 最早『舞』───一挙手一投足が豪快にて華型。戦旗武術はその奇怪な戦い方から奇術にも分類される。目眩し、揺動、壁など布を用いた戦術の展開は扱うものの技量が上がれば一種の芸術となる


 一方、アノスが使っている拳術、これは正式には拳術とは言わない───踊り子の羽衣演舞。文字通りの舞なのである。本来女形や女人が観客を魅了するのに使う技法であり、大きな振り付けとメリハリついた動きを主とする『舞』


 アノスは知ってか知らずか、それを行使していた。両者拮抗───千日手と成る


「…これ程であれば。いや」


 槍を振るうバーテンが『不問』そんなことを脳裏に浮かべたと同時に自らに喝を入れた


「はぁ!!」


「!」


 瞬間的に生じた風圧に『アンブラ・ディアボリカ』はその特性からアノスをバーテンから距離を取らせることになった


「英雄殿、いやアノス殿。失礼した」


「?」


「齢を理由に、欠損を理由に

 英雄であることを理由に

 貴殿への敬意を欠いていた」


「…」


 アノスは改めて構えを取った。頬を伝う汗は先の千日手による疲労の現れかに思うが、そうではない


「今より放つは審判の一撃である」


「審判?」


「我が武術に我が【全霊(スキル)】を乗せた

 我が奥義である」


「何故手の内を明かすんですか?」


「先までの我は貴殿に対し

 手を抜き、推し測ることを是としていた」


「…」


「しかし、よもや我が半身(武術)にここまで

 並ぶとあっては同格である

 しからば」


「!?」


 バーテンが腰を低く構えたその瞬間。全身から陽炎を立ち昇らせ、白髪だった彼の髪が真っ赤に変化した


「我がもう【半身】である【紅蓮の付き人(サラマンダー)

 を持って今の実力の指標とならねば

 無作法というもの」


 バーテンは騎士としてではなく"ひとり"の戦士としてアノスへの『挑戦』を示した


 陽炎にやがて熱と炎が生じ、虚空からともなく爆炎が上がってバーテンの全身を包み上げた。その炎は戦旗にも伝播していくとやがてひとつの燃え盛る焔となった


「それがバーテンさんのスキルに

 全力ですか」


「である」


「…リリアナ」


「はい」


 アノスはリリアナの名を口にした。バーテンが気づく間も無く唐突に現れたメイドは一振りの剣をアノスに差し出していた『アンブラ・ディアボリカ』越しにそれを引き抜くと手を添え


 アノスは『抜・横尾』の構えをとってバーテンを真正面に捉えた


「やはり剣士であったか」


「はい」


 当然知っていたといった風にバーテンはアノスを眺め、中々どうして様になっている姿に納得を口にした


「こい」


「【ヴォーパルスライム】

【クラウンスパイダー】

【エレメント】」


 両者共に『英雄形態』───『魔』と『武』の重ね技。中途半端の許されない領域の者。観客の心配は何処へやらアノスの身を案じていた者達は己の愚かさを知らされ、ただ見入ることに今この瞬間だけの心血を注いでいた


◆◇◆◇◆


 刹那、音を置き去りに纏う魔力を伴って放たれた槍のひと突き───『緋槍』に対し放たれたのは『地平』───大凡大きな一振りを意味する大剣に用いられる語句なのだが


 この時ばかりは違った


 全く同時の『2連撃』───『抜・横尾』が放たれた次の瞬間には緋槍を挟んで対極の位置より『鏡面・横尾』が迫っていた


 全く同時に到達した『2つの横尾』いわば『双尾』は【紅蓮の付き人】が纏い保護する槍の穂先を互いを打ち消し合い様に◾️った。残されたのはアノスに『振り下ろし』という『辻褄合わせ』を齎した結果だけだった


 常人では到達し得ない妙致にアノスは立った

『阿吽のアノス』として


◇◆◇◆◇


『辻褄合わせ』の顕現『偉業』

【神域】『覚醒』───80%

『星の夢』より【聖人】の『領域』『付与』


 神域は以降『信仰』に『還元』


『中規模』で

『迷宮殺し』『龍族殺し』『神降ろし』が

『英雄』を含む『凡百』から

『認知』されています

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