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◆◇◆◇◆


 沖合に到着し、狩が始まろうとするなか、レイアは夜に生じた闇を見上げた


「なんと面妖な」


 夜ならざる『闇』───夜の輝きを瞬く間に喰らい、そして消えた。消えるまでに遠方に幾重かに別れ地に伸びたのが見えた


「レイア様、どうされましたか?」


「ん?何でもないですぞ」


 レイアは同乗している冒険者に微笑みつつ、剣の柄や握りをしきりに叩いていた


◆◇◆◇◆


『雷鳴・一途』───漁獲祭のそれは非常に大味だ。『グランドグラットン』の生息海域目掛けての掃射。晴天であろうと雨天であろうと轟く雷鳴は漁獲祭の目玉とも言える


 通常であれば『一途』───術式がグランドグラットンを痺れさせ、動きが鈍った後、海面まで浮上させたところを鹵獲船で捕獲。解体屋で解体といった流れが取られる


 しかし、今回に限っては違った。何せ鹵獲船が発艦できる超凪を何故か逃してしまっている


 これにより最も心配されていることは『海上戦の経験不足』による漁獲祭の失敗である


 何分冒険者の多くは陸上で活動し、足裏で地面を踏みしめるモノが大半を占めている中、今回の緊急依頼は揺れる地面───不安定の続く足場が戦場となるため、何処かしこも緊張感が顔に出ていた


◆◇◆◇◆


 気持ちが荒れ、冬の潮風が刺さる中、そんな様子を知ってか知らずか、フラワーライトは船団に向かって支援魔法を放った


「【◾️の讃歌】」


 指揮の向上が上がる最中、フラワーライトは自らが使った【スキル】に表情を曇らせた


「…」


◇◆◇◆◇


【◾️の讃歌】───『Entity』の保有する『体力』『◾️』を好転させ『精神』に『安らぎ』を齎す


『◾️』───『Fail』


『参照元』不明のため『実行不良』


◆◇◆◇◆


 夜の灯火としては些か派手な魔法が当たりに広がり、しばしば光の粒子が雪の様に降り注ぐ


「雷鳴用意!」


 指揮の向上に重ねて、フルプレートが現れると魔法使い部隊に命令を下した


「ご気分は?ハーサバル・シャル」


「フラワーライト様

 わ、私は今兄様、ハーサバル・グレイです」


 フルプレートから反響する声が少女のものから再び低い男性の声になるとシャルは剣を甲板に突き立て堂々たる振る舞いをとった


「今は民に向けるべくは揺るぎない正義です」


「承知しております」


「…」


◆◇◆◇◆


 漁獲祭は始まった


『雷鳴』によりいく匹かの成魚は水面へ向け浮いていくが『本命』───『グランドグラットン』が浮かんでくる様子はなかった


 やがて、静まり返った海の中、轟く『雷鳴』が水面を揺らすことなく潜水すると海水に霧散することなく突き進んだ。幾重にも重ねられた海水の膜がやがて月明かりさえ拒絶する中


 暗い深海から水面をぼんやりと眺めていた『それ』が大口を開けると海水ごと『雷鳴』を飲み込んだ


 その瞬間『それ』はゆっくりと泳ぎ始めた。暗い海底から明るいが降る水面へ向けて尾を力強く振り下ろした


◆◇◆◇◆


「浮かんできませんね、話に聞くデカブツ」


「さっきの派手な魔法でやられてたりして」


「だといいんだがな」


 船上で待つこと『10分』作戦会議ではそれ程経たずに獲物が浮上すると聞いていたため、緊張のピークを過ぎた面々が緊張を手放す中


 ゴウマンは静かに深海を眺めていた


「不漁の年なんでしょきっと」


「お前はまたそうやって気を抜く」


「そりゃ気を抜きたくなるさ

 これだけ同士が揃ってるんだ

 道化師の出る幕なんざ…」


「静かにしろ、何か来るぞ!」


「ありゃりゃ旗立てちゃいました?」


「だろうな…皆さん警戒を」


 ゴウマンの船が大きな波により船全体を揺らされた。超凪とは立波さえ凪いで静まる絶好の航海時を指す一方でそれを逃したとて本波や超時化までに凪などがある


 今は揺れ波という水面が歪む程度には波が起きている時期、この高波は異常なのだった


「『魔力障壁』」


 迫る高波が甲板を攫おうとする中、魔法使い達は高波を防いで見せた。障壁に弾かれ泡立つ海水が視界を奪い、乗船していた面々が必死の思いで呼吸をする


『獲物の大凡の大きさ』───揺れる船が物語る悪夢。その全容を


 月明かりが遮られ、皆が月を見上げ、そこで目にしたのは天高く掲げられたる獲物のヒレ。見上げれば視界に収まる城壁の扉とは比較にならない大きさのそれが今ゆっくりと


「おい、まさか」


「魔力障壁全力展開!」


「前衛盾を構えろ」


 水面に叩きつけられようとしていた


◆◇◆◇◆


 大質量、広範囲からなる振り下ろし


 直撃こそ免れたそれは、本体のみが脅威に在らず、振り下ろしにより発生した突風と先に受けた高波。間接的な現象がもたらす被害は先程とは比べ物にならない波を発生させ、船は大きく揺らされた


 その間に魔力障壁に何度もヒビが入り、全体にヒビが伝播しようとしていたが突如、魔力障壁が三角形に連続変形すると押し寄せ続けていた波を剪断し波を相殺した


◆◇◆◇◆


「【道化のお節介(リブラ・クラウン)】」


 不味い、魔力障壁がここまで早く消耗するとはね。魔力障壁の魔力分配を前面7、いや8。その他を2に誘導


「(転覆は避けなければ)」


 3遍等長の変性を遂げる魔力障壁が前面に連続展開され、波を押し返すと転覆の危険は一先ず去った。しかし、面倒になった


「これは予想以上に大きいですね」


 それ程大きくならないと聞いていましたがイレギュラーでも起きましたかね


「ギルド会館…いや、それ以上」


「走ってもかなり掛かりそうですね」


 本当にでかい、55間はくだらないな


「逃げるに限りそうですね」


「いや、それでは他の船団に被害が出る」


 ですよね。はてさてどうしましょうか


「お前ら、どうにかして他の船にこの状況を

 伝えて状態を安定させろ」


「ゴウマンさんは?」


「こいつを見張る」


「了解しました」


「回復に回ります」


 やることが簡単になって安心、安心。最近しょげてたゴウマンさんだがなんだかんだ立ち直ってるみたいでひと安心


「【道化に笑劇(レオ・クラウン)】」


 リスクは避けようがないか


「『サンサン・フレア』」


◆◇◆◇◆


【笑劇喝采】───道化師が注目を上げる時の力が弱いながらも船団全体を包み僅かに視線を道化師エノコロに向け始めた


『サンサン・フレア』───中級における非殺傷生の射出型光源。夜の広がる海上に太陽が出現した


「全体旋回!」


 フラワーライトはいち早く事態を把握すると陣形の指示を出し始めた


「【ホーリー・プリズン】」


 船団が周回を始め、グランド・グラットンを中心に水面に光点が出現すると発光を伴う鎖が現れた


「かなり大きいですね」


「40いや50、育ち過ぎてます」


 シャルの驚き、フラワーライトの焦り、光の鎖が伸びきりグランド・グラットンを縛り付けた


「(抵抗が思ったより弱い、けど

 大き過ぎる)」


 拘束に成功したかに思える状況は意外にも事態の深刻さをより明確にするのだった

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